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東vs西 後編

シッ、と風が一瞬だけ止まる。


次の瞬間、

右手の奥で パチッ と火花が跳ねて

世界が 反転するほどの爆圧。


路地が一気に白くなる。

鼓膜を拳でぶん殴られたような衝撃音。

爆風でアスファルトの破片が無数のナイフになって飛ぶ。

コンクリの粉が煙みたいに舞って、視界が砂嵐になる。


その煙の中から――

ギィイイイイイン…!!


金属の歯が回る音。


回転速度が上がるたび

空気が千切れて尖る。


片腕で振りかぶったチェーンソーが

雷のような軌道で横に振られる。

回転の爆音が、全てを押し潰すみたいに響く。


刃が通過したラインだけ

空気が“削り取られた”みたいに真空の筋が走る。


爆風に押し出されていた破片の群れが

チェーンソーの軌道に触れた瞬間、

全て木っ端みじんに粉砕されて、

灰みたいに霧散する。


相手は着地の瞬間に

手の中でスイッチを弾き、

小さな火種を道路に転がす。


一拍おいて、

ドン――!!


黒煙と炎が、路地全体を丸呑みにする。

爆風がまだ引かないうちに、

その橙色の中を、誰かがまっすぐ突っ込んでくる。


チェーンソーの回転音が

炎の中で獣の咆哮みたいになって、

真正面からぶつかり合う瞬間に――


火も煙も雨も

全部、色が吹き飛んで

破壊音だけが世界を支配する。


神室町の夜

ネオンが濡れてる


虎吉は、あのバットを

まるで素振りみたいな軽さで肩に担いで――

ビルの外壁に「トン」と当てる


それだけで


 ドォンッッ!!!


ビル一棟が、横から“歯で噛まれた”みたいに

爆炎と瓦礫になって破裂していく


フェンスが溶け

配管が千切れ

ガラスが粉雪みたいに降る


虎吉は歩きながら

まるで電柱を数えるみたいなペースで

次々とバットを当てていく


コッ


 → 爆発


コッ


 → 爆発


神室町の夜景が、

爆発の光で連続したストロボみたく点滅して

一瞬だけ昼みたいに明るくなっては

すぐ闇に戻る


通りの角を曲がるたび

また一棟


再び爆裂


ビルが順番に抜け落ちていくみたいに

街そのものが“消えていく”


虎吉は振り返りもしない

歩きながら、ただ、淡々と壊してるだけ


後ろでは

燃えあがった神室町が

風に煽られて轟々と泣き叫んでた


轟音と炎の雨が続く中、峯は一歩も引かなかった。

チェーンソーの刃が回転する音だけが、胸の中で冷たく鳴る。


虎吉は淡々と歩き、バットを当てるたびに街をえぐるように爆裂を起こす。

その背後でビルが崩れ、窓ガラスが雨のように降る。誰かの叫び声が遠くで溶けた。


「やめろ……止めろ、くそ……!」


だが峯は叫ばない。笑うように口を引き結び、両手のチェーンソーを肩で構えた。


一閃――虎吉が振るうバットが、次の建物の柱に触れた。

衝撃とともに巨大な爆炎が噴き、熱風が峯の顔を撫でる。だがその瞬間、虎吉の身体はわずかにバランスを崩した。爆発の反動で踏み込む足が滑ったのだ。


峯はその“わずか”を見逃さなかった。

火の粉と瓦礫が舞う中、真っ直ぐに、最短距離で突っ込む。


チェーンソーの刃先が夜を切り裂き、火の光を線に変える。

二本の刃を水平に走らせ、虎吉の前腕へ——触れた瞬間、金属と肉の衝突音が空気を裂く。


火花が飛び散り、短い爆鳴。

バットは虎吉の手から弾かれ、遠心で抜け落ちた。それが地面に触れた瞬間、爆発が起きるはずだったが、落下の角度と地面の凹みで炸裂は散って小さく分散し、致命的な連鎖には至らなかった。爆心の膨張が虎吉の周囲に偏る。


虎吉は短い悲鳴を上げて崩れた。右手の感覚を失い、肩から血が滲む。

その隙を逃さず、峯は更に一歩、二本のチェーンソーを振るう。刃が鎧のように固いコートを切り裂き、肩鎧を引きちぎる。虎吉の顔が、初めて恐怖で歪む。


大きな爆発の余波が二人を襲う。炎の中で、峯は一瞬視界を奪われるが、身体が先に動いた。回転する刃で虎吉のバットの先端を引っかけ、強引に引きはがす。金属が曲がり、火花が空へ舞う。


虎吉は懸命にもがき、反撃を試みるが、右手は使えない。左で振るうバットは空を切り、勢い余って自らのバランスを崩す。次の瞬間、瓦礫の落下が虎吉の頭上を直撃し、彼はその場に膝をついた。


峯はゆっくりと近づき、両のチェーンソーを肩に担ぎ直す。呼吸は乱れているが、目は冷たい。瓦礫の粉と火の匂いが鼻を刺す。彼は一言も発さず、刃を虎吉の胸に突き立てるように振り下ろした——鳴るのは金属と肉が擦れ合う音、そして短い唸り。


虎吉の体が大きく垂れ、目が虚ろになる。爆発バットは遠くに折れ飛び、燃えかすとなって横たわる。周囲の爆発の連鎖が少しずつ収束していく中、峯はその場に立ち尽くした。


背中のキリンの墨は汗で滲み、鎖の切断音と爆炎の残響が夜空に溶けていく。

街はまだ燃えている。ビルは抜け落ち、通りは瓦礫と火の臭いで満ちていた。だが目の前には、もう動かない人間が一人、倒れている。


峯はチェーンソーを静かに止め、刃を地面に突き刺して膝をついた。

振り返ることはしなかった。ただ、低い声で呟いた。


「終わったな…」


炎の向こうで、遠くに聞こえるサイレンが伸びる。

勝利の歓声でもなく、安堵の笑いでもない。只、虚ろな静寂が、燃える神室町に降りていった。 

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