背負うモノ
理事たちが次の質問に移ろうとした、その時。
――パン、パン、パン。
面接室の襖が開き、拍手が響いた。
大吾が、ゆっくりと入ってきた。
スーツ、ゆるいネクタイ。
面接なんかより、もっと上の「空気」をまとってる。
峯は反射的に立ち上がる。
「だ、大吾さん…!」
大吾は理事の横を通りながら、フッと笑った。
「面白いよ、峯」
「憧れって言葉、俺は簡単に使えるもんじゃないと思ってた」
「でも、お前の言い方は、本物だった」
理事たちが揃って黙る。
もう決定権はここにある。
大吾は峯の真正面に立つと、小さく頷いた。
「入ってこい」
「東城会へ」
峯は、言葉にならず、ただ深く頭を下げた。
理事の1人が形式だけ整えるように
「…では、入会、承認とする」
と告げる。
峯の指先が、震えた。
この瞬間、彼は「ただのファン」から
“東城会の峯義孝”になってしまった。
 ̄ ̄ ̄
彫り場
白いライトの下。
峯は、横向きに寝かされ、彫り師に言った。
「背中一面……大吾さんを、お願いします」
彫り師は一瞬固まったが、すぐに営業スマイルで返す。
「……任せな」
背後でそれを聞いていた大吾の顔は、引きつった。
(いやいやいや…俺の顔って…常時背中に…?気持ち悪いだろ)
大吾は、彫り師の耳元に小声で言う。
「悪い、やめといて。麒麟で頼む。――“麒麟”な」
彫り師はコクリと頷く。
……だが。
彫り師の頭の中には、動物園の“キリン”の画像が浮かんでいた。
長い首
ヒョウ柄みたいな模様
長い睫毛のやつ
そのまま、時間が過ぎ。
8時間後。
峯が鏡で背中を見る。
そこには――
しっかりとしたリアル動物園キリンが、優しい目で草食っていた。
峯
「………………………」
7秒間、言葉が出なかった。
そして彫り師の胸ぐらを掴む。
「お前なぁぁあああああ!!!」
椅子に叩きつけ、道具ケースを投げつけ、彫り場は大混乱。
大吾は慌てて止めに入った。
「峯!!落ち着け!!」
峯は涙目だ。
「あの…これは…大吾さん……じゃない……」
「俺は…大吾さんが……背中で生きていく未来を…!!」
大吾は口元を手で覆って、呟く。
「……峯。気持ちは分かったけどよ」
「これは… 完全にキリンだ」
完全アウトだった。
その後、言い争いになり
大吾は重いため息をつき、襖を閉めてそのまま帰った。
この一件から
微妙でギクシャクした、“軋轢”が生まれることになる。
峯の背中には
生涯消えない、「上野動物園の人気者」が刻まれたまま、だった。




