入会
新宿・東城会本部前
峯義孝は、深呼吸して胸元を正した。
初めて見上げる、東城会の門。
「……やっと来た」
手にはスーツの内ポケットに入れた
•履歴書
•印鑑
•通帳
全部揃えている。
だが右手には、なぜかホームセンターで買った新品のチェーンソー。
「俺を東城会に入れろ!!!」
峯は叫んだ。
黒服たちの視線が、一斉にこっちに向く。
一瞬で緊張が走る。
黒服たちの無線が飛び交う。
「応援まわれ! チェーンソー持って暴れてる!」
峯はチェーンソーのスターターをガッと引き
「ウォオオオオ!!」
エンジン音だけで黒服がビビる。
回転刃を相手に当てるんじゃない。
峯は、“音と風圧”で威圧してんだ。
チェーンソーの音は、相手の心を揺さぶる。
刃を当てなくても、距離感が狂う。
一歩踏み込めない。
黒服たちは一斉に距離を取る。
「なんなんだこいつ!!」
峯は、刃を相手に向けず
“コンクリの床”に向けて回転させる。
火花が散る!
コンクリに刻まれる線!
「俺を東城会に入れろ!!
おい!ここは“強さ”認める組だろぉが!!!」
黒服たちがバラバラに囲むが
誰も踏み込めない。
刃じゃなく“音と勢いで制圧してる”。
峯は叫びながら
履歴書をマジで左手で握ったまま。
「俺は履歴書も印鑑も通帳もちゃんと持ってきてんだよ!!
入会の準備は完璧だ!!!」
チェーンソーのモーター音がビルに反響する。
そこに――
重い自動ドアの音が鳴る。
中から、東城会理事の黒いスーツが数名、静かに歩み出てくる。
一番前の男が、指だけで「止めろ」とジェスチャー。
峯は回転を止める。
一瞬で“シン”と静まり返る。
その理事格は無言で履歴書を取る。
数秒見て、たった一言。
「面白い男だ」
その瞬間、回りの黒服がさっきまでの緊張を引っ込める。




