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因習の園 1
それは夜中に近い時間であった。一人の女性が子供を連れて東京の一角にあるマンションの前に立った。
「ここね」
彼女は一枚のハガキを手に息を吸い込んで吐き出すとまだ覚束ない足取りの子供の手を引いて
「ごめんね、航一。このマンションだから行こうね」
とマンションの中に入ると505号室へと姿を見せてインターフォンを押した。
表札には『萬田』と書かれ警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第五課第一係長の萬田横柄の自宅であった。
萬田横柄は扉を開けるとこの夜中に近い時間に訪れた女性と子供を前に目を見開いた。
「あんたは……多津川の」
彼女は泣きながら頷くと
「はい、もう萬田さんに頼るしかなくて……」
と告げた。
萬田横柄は彼女を招き入れて話を聞くと厳しい表情を浮かべて深く息を吐き出したのである。
翌日、警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第五課長の赤木勇介はフロアの自席で萬田横柄第一係長を前にメガネを軽く押し上げた。
「休暇申請は構いませんが……せめて期限を決めていただかないと俺としてもハンコ押しにくいんですよ、萬田さん」
冷静にそう告げた。




