親の事情子の事情 17
勇気は坂口ありさと共に町の中の家に挨拶をしながら話を聞いていたのである。
昼から酒を呑んでいた漁師の葛原元太は
「あの外国人が大量に船から下りて来てから村は最悪になった。漁に出ないように村長に命令されるわ。あいつらが見張りみたいにうろつくわ」
とチッと舌打ちをした。
坂口ありさは俯き
「ごめんなさい、お父さんも……」
と言いかけた。
葛原元太は苦く笑うと
「いやいや、10人もの奴らに押さえつけられたらしょうがねぇだろ。坂口さんはずっと俺たちのことを守ってくれていたし、今もそうだと分かっている」
けど警察が機能しなくなるって本当に怖いことだったんだなぁ、と目を細めて告げた。
「これまで当たり前だと思っていたのに、こうなって初めて犯罪を取り締まってくれる坂口さんの大切さがわかった……」
よ、と言いかけた声に女性の声が重なった。
「ちょ、ちょっと! 今、駐在所に男たちが押し掛けて駐在さんを捕まえてどっか行っちゃったんだよ。ほら、この前から来てた……あんたのお父さんを殺した犯人になれとかなんとか」
勇気は目を見開くと
「叔父さん」
と小さく呟いて、携帯を出した。が、それに
「駐在さんもそう言うの出してたんだけど、あの男らがジャックが何とかって……村の中では通じないって言っていたんだよ。それで助けも呼べなくてさぁ」
と泣きながら告げた。
坂口ありさは顔を歪めると
「叔父さん……どうしよう」
と呟いた。
勇気は携帯を見つめ
「……オジサン」
と顔を上げた。
「警察ってそんなに大切?」
葛原元太は頷くと
「ああ、こうなってわかった。今じゃ俺達誰も自由にはできねぇ……俺たちは駐在さん達に生活を守られていたんだなぁって思ってな」
と告げた。
「駐在さんにも生活があって色々あるだろうになぁ、一生懸命頑張ってくれていたんだって」
勇気は少し考えると
「俺は警察嫌い。お父さんは俺をほっぽり出して何時も何処か遠くを見てる。叔父さんも同じ……叔父さんは俺のことちゃんと見てくれているけど……でもきっと父さんと同じ遠いところを見てる」
と言い
「でも、叔父さんやお父さんとちゃんと話すにはその遠い何かを俺も見ないとダメな気がしている」
と告げた。
「叔父さん、漁師さんだろ? 俺を海に連れて行って。村の中がダメでも海ならいけるかもしれない」
坂口ありさは慌てて
「でも、海の上でもきっとダメよ、圏外よ」
と告げた。
勇気は首を振ると
「大丈夫なんだ」
と言い
「オジサン! もし村を守りたいと思ってくれるなら……勇気を出して船を俺の為に出して!! 俺は叔父さんを、鷹司の叔父さんを連れて帰らなきゃならないんだ。それで叔父さんとお父さんの仕事をもっと知らなきゃダメなんだ!」
と言い切った。
葛原元太は勇気を見つめ笑みを浮かべると
「良い目をしているじゃねぇか! よし! 行くぞ、小僧」
と立ち上がると
「網本さん、坂口のお嬢さんを頼む」
と言い駆け出した。
村の家々の間の裏道を走り漁港へ出ると男たちが立っていたので葛原元太は
「どりゃぁ!」
とケリを入れた。
それに近くの漁師の夫婦が見ていて慌てて駆け出すと
「葛さん!」
と叫んだ。
葛原元太は船に乗り込むと
「駐在さんが捕まって、もう一人の駐在さんのあぶねぇんだ! 警察に連絡する!」
と告げた。
それにワラワラと近くの人間が出てくると起き上がろうとした男たちを抑え込んだ。
葛原元太は船を出すと
「ひっさしぶりでエンジンがすねてやがる」
と言いつつも発進して
「小僧、何処まで行けばいいんだ?」
と聞いた。
勇気はカバンから衛星電話を出してくるくる回して
「ここで大丈夫!」
と言うと電話をかけた。
赤木勇介は応答に出ると
「鷹司、何かわかったのか?」
と聞いた。
勇気は唇を噛み締めると
「叔父さん、捕まって殺されるって!! ありささんの叔父さんを犯人に仕立てるって!! 助けて!! おとうさん!!」
と叫んだ。
赤木勇介は立ち上がると
「よく連絡してくれた」
と言うと、携帯を置いて内線をかけた。
「長官、向こうが動きました。直ぐに制圧をお願いします! 鷹司が公に捕まったということは証拠を手に入れたに違いないと思います。全て俺が責任を取るのでお願いします!」
浜中勝彦は笑むと
「その時は俺も一緒だ」
と答えると直ぐに自衛隊と刑事局長に連絡を入れた。
勇気は船の上でヘナヘナと座り込み口をへの字にして
「叔父さんのバカ。危険な事しないって言ってたのに」
とぼやいた。
それに衛星電話から声が返った。
「勇気、鷹司は大丈夫だ。だが、一発殴っても良いぞ。俺の分も怒ってくれ」
勇気は目を見開くと
「お父さん、怒ってるのか?」
と聞いた。
赤木勇介は笑むと
「当たり前だ。あいつは本当に時々斜め上の無茶をする……だが、そうしなければならないこともあるがあいつには自分を大切にすることを考えてほしいと思っている。あいつは時々あいつ自身の命を粗末にするからな!」
と告げた。
「ありがとうな、勇気。それから、俺を許してくれ」
家を、息子を、犠牲にしてしまった。
それは大切な使命のある仕事だからではない。
自分の中の順位が間違っていたからなのだ。
そしてそれは妻の静香も同じだったのだ。
それを教えてくれたのが鷹司陽という大切な相棒だったのだ。




