第一話 英雄の曲が流れる時 9
気があって朝から晩まで島の中を駆け回り遊びまくった。
毎日。
毎日。
毎日。
飽きることなく一か月のあいだ朝から晩までずっと一緒に遊び回った。
夏休みも終わり本土に帰ろうとしたとき最後に島の一番綺麗な場所を教えてもらった。
夕焼けに染まる草原に秋に変わろうとしている風が走っている心に残る場所だった。
『陽は明日帰るんだ……来年また来る?』
旅行で来たので来年も同じこの島に来ることができるかどうかは分からなかった。
でも。
でも。
『俺、また来たい。月と遊びたい』
そう告げた。
でも。
でも。
現実は分からない。
『もし、来年ダメだったら……10年後、大人になったら会おう』
そう月が言ってくれた。
『じゃあ、俺ぜったい、ぜったい、10年後に遊びに来るからな!』
そう約束した。
次の年にその島へ行くことは出来なかった。
代わりに手紙を書いて送った。
だが、返事はなかった。
何通か書いて……その手紙も戻ってくるようになって結局そのままとなったのだ。
陽は赤木勇介や小隊の面々と共に門前で壁を作りながら
「そう言えば、3年前に島に行けなかった。だから怒ってるのか? 確かに約束破ったけどなぁ」
と小さくぼやいた。
月は成澤と高水を招き入れてシェール王子のいる部屋に入ると
「シェール王子」
と呼びかけた。
シェール王子は2人を見ると
「今回のこと……騒がせて申し訳ない」
と頭を下げた。
そして、バイオリンを月に渡した。
「これを頼む」
月は頷いてバイオリンを手に取り、軽く弾くと目を細めてシェール王子を見た。
「バイオリンはデリケートな楽器です。大切に使っていても弦や毛は微妙に緩んでいきます。まして強い衝撃が加われば見た目を整えても芯のところが狂ってしまう場合がある。バイオリンを落しましたね? 恐らく魂柱がずれていると思います」
シェール王子は目を見開くと俯いた。
エルバドロス島の近海からレアメタルが産出したことは国外の利得争いだけではなく国内の……特に王族内の争いにも火をつけた。
各国の思惑が三人の王子の背後を浸食したのだ。
第二王子が毒殺され、その責を第三王子がとり処刑された。
もちろん、2人の母や養母後ろ盾全てが処罰された。
だが、本当に第三王子が毒を盛ったのかはわかっていない。
疑惑と。
疑心と。
恐怖と。
不安と。
様々な思いが交差し、予てから楽器の調律をしてくれていた月の元へと極秘でやってきたのだ。
どうすれば良いのか……答えが見えない状態で『逃げて』きたのである。
シェールがバイオリンを弾いている時に第二王子は毒を盛られて目の前で手を伸ばして倒れたのだ。
「……に、いさん……」と。
それが彼の最期の言葉だった。




