親の事情子の事情 13
坂口信一郎は驚いて陽を見た。
陽は笑むと
「俺は離島や山間の駐在所を専門で回ってきた。だから電波が届かないって言うのはよくわかっている」
と告げ
「この電話は衛星電話だ」
と答えた。
坂口信一郎は「衛星電話」と呟いた。
陽は頷くと
「確かに今回みたいなことが起きると離島や山間ではヘルプが頼めなくなるからな。非常時用に衛星電話を一つ隠し持っておくのが良いかもしれないな」
と笑った。
「さて、虎穴に入らずんば虎子を得ずだな」
坂口信一郎は微笑むと
「はい!」
と答えた。
二人は足を進めると一番端からクルリと回って漁村でも山手側に向かって広がる住宅街へと足を踏み入れた。
誰もがビクビクとしながら家を訪ねても
「大丈夫です」
「問題ありません」
としか言わなかった。
しかも、笑顔の欠片すらない。
その頃、勇気は坂口ありさに連れられて島の岬へと来ていた。勇気はチラリチラリと後ろを見ながら
「あのさ、俺達付けられてる?」
と聞いた。
坂口ありさは視線を伏せて小さな押し殺した声で
「うん……でも振り向いちゃだめよ」
と告げた。
そして、岬の灯台に入って上りながら
「……助けに来てくれたんでしょ? 勇気君のお父さん」
と言い泣きそうに微笑み
「ありがとう」
と告げた。
「叔父さんのSOSを受け取ってくれて」
勇気は思わず彼女の手を握りしめると
「ちゃんと皆を助けるから……安心して」
と笑みを浮かべた。
坂口ありさは泣きながら笑むと
「うん」
と答え、男が怪しんで登ってくる前に灯台の上に姿を見せると
「私のお父さんとお母さん5歳の時に事故で死んじゃって……それから叔父さんに育ててもらってるの。叔父さんがね、制服を着て村の人たちに『困ったことありませんか?』とか、一生懸命村の人のために働いているのが何か誇らしくて……将来は警察官になろうかなぁって思っているの」
と告げた。
勇気はそれに視線を下げると
「俺は、警察官は嫌いなんだ。裁判官も嫌い」
と言い
「ありささんは寂しくない? 何時も家にいなくてさ。俺いらないのかなぁって邪魔なのかなぁって思って……父さんの子供は警察で母さんの子供は裁判なんだよ」
すっごく悔しい、と口を尖らせた。
坂口ありさは驚いて勇気を見た。
「そうなの? すっごく仲良さそうだったから勇気君は私と同じ気持ちなのかな? って思ってた」
勇気はむーんとしながら
「叔父さんは……確かに俺のこと見てくれているけどさ。すっごく怒られたり、でも褒められたり……確かに島の人が叔父さんに話する時は笑顔で……」
と呟いた。
坂口ありさはププッと笑って
「勇気君は色々あるんだ。でも叔父さんのSOSを聞いて動いてくれている警察の人がいて私は凄くホッとしてるわ」
だから勇気君は嫌かもしれないけどありがとう、と告げた。
勇気は目を見開いて頬を染めると
「ううん、俺はついてきただけだから」
と答え、ふっと時々島の道端で見かける陽と島の人達の姿を思い出した。
坂口ありさは勇気の手を掴むと
「そろそろ戻りましょ」
と灯台を出て見張っていた男をチラリと見ながら足を進めた。




