親の事情子の事情 2
陽は二、三遣り取りをして
「わかりました、明日の……」
と時計を見て
「いや、今日の6時には迎えに行けるので……電話変わってもらえますか?」
と告げた。
「まあ、褒められたことじゃないけど俺に電話するように言ってくれたことは良かったよ。今日ちょっと遅くなるけど迎えに行くからな、あと家に帰ったら赤木には言うからな」
千代は赤木と言う名前に受話器を下ろした陽の顔を覗き込んだ。
「赤木さん、何かあったの?」
赤木と言うのは陽の元々の同僚で現在は警視庁組織犯罪対策部組織対策第五課の課長をしている赤木勇介で警視庁でも有名な出世頭である。
陽は困ったように笑いながら
「赤木のとこの勇気くんだ。悪いことをした訳じゃないけど……どうやら朝から学校サボって一人公園で座ってジッとしていたのを高校の見回り教員の人に保護されたらしい」
と告げた。
千代は驚いて
「え!?」
と声を零した。
父親は警視庁でも有名な出世頭で、母親は法曹の美人裁判官である。
いわばサラブレッドである。
陽は息を吐き出すと
「でも10歳くらいの子が長い時間一人ってのは寂しいものだと俺は思う」
と言い
「なあ、もしさ……勇気君がここに遊びに来たいって言ったら良いかな?」
と聞いた。
千代は笑むと
「もちろんよ! まあ東京と比べれば何もないけど魚釣りや遊ぶところは沢山あるわ。私も山菜取りとかにも連れて行ってあげられるし」
と告げた。
陽は笑顔になると
「じゃあ、ちょっと準備して」
と時計を見ると
「ちょっとギリだけど飛行機で行ってくる。後一時間遅かったら、明日の夜だったな」
と告げた。
「その前に消防隊の高瀬君に話してこないとだな」
千代は慌てて
「高瀬君には私から言っておくわ、それより飛行機乗り遅れると大変よ」
と告げた。
陽は笑むと
「じゃあ、ごめん。高瀬君にはお土産買ってくるって言っといて」
と自転車に乗ると手を振った。
千代は手を振りながら
「だったら、東都バナナー」
と手を振って見送った。
陽は自転車を思いっきり走らせながら
「千代は何時も東都バナナだよな」
と小さく笑って、空港に駆け込むとチケットを慌てて購入して午後の定期便に乗り東京へと向かった。
フライト時間は2時間のプロペラ機である。
陽はゴォウンゴォウンと空気の動きを感じる機体に窓から揺れる主翼を見ながら
「相変わらず怖ぇ」
と言いながら目を閉じた。
陽と千代の間には長いこと子供は出来なかった。反対に赤木勇介と静香の間には早くに子供が生まれ落ちた。
それが赤木勇気である。
陽が8年間全国巡回駐在員をしていた時は勤務で離島や山間の駐在所などを回って警察庁に報告をしていたので報告をする時の宿として赤木家の一室を借りていたのである。
なので、報告が終わってちょっとした空き時間には勇気を連れて遊園地などに行っていた。
子供は嫌いじゃないのだ。
だが。
せっかく授かった自分の子供は抱きしめてやることが出来なかった。
陽はフッと目を覚まして窓の外を見ると小さく唇を動かした。
この世に生を受けられなかった子供の名前だ。
何かの折にフッと思い出すのだ。
「……ごめんな、俺を許してくれ」




