親の事情子の事情 1
泣くのを堪えるような嗚咽が響いていた。
生まれる前に途切れた命はそれでも赤子の姿をしていて涙が溢れて止まらなかった。
抱きしめたかった。
笑顔を見たかった。
思いっきり愛してあげたかった。
だけど、死産だった。
鷹司陽は袖で涙を拭うとベッドの上で泣き続けている千代の元へと足を進めた。
気が強くて何時もシャンとして明るく笑顔ばかりの彼女が気付くと酷く痩せてほっそりとしていた。
「ごめんね、陽くん……私……私……もう別れよ? 私、陽くんの子供産んであげられなくなっちゃった」
ごめんね。
ごめんね。
陽は泣きながら言い続ける彼女を抱きしめると
「謝るのは俺の方だから! ごめん! ごめん! 俺が……千代ちゃんに甘えすぎてたんだ。仕事仕事ってあっちこっちに飛び回って何もしてあげられなくて……ごめん!」
と叫ぶように告げた。
……もう一度チャンスを俺に欲しい……
千代は陽を見ると
「でも、でも。私、もう陽くんの赤ちゃん産んであげれないのよ? 陽くんあんなに喜んでくれていたのに……私……」
と告げた。
陽は泣きながら笑むと
「なんで? 確かに赤ちゃん欲しかったけど……それは千代ちゃんとの子供だからだよ? 千代ちゃんがいてくれるだけで良いんだ。俺こそずっと側で守ってあげられなくてごめんな。だから、今度は守るからずっと一緒にいてほしい」
と告げた。
数日後。
愛する小さな命を連絡を聞いて急遽駆け付けた持明院月と持明院日和の姉夫婦と共に葬り、その日で鷹司陽は8年近く続けていた全国巡回駐在員の仕事を辞退した。
親友の月は何も言わなかった。
ただ
「陽が決めたのなら」
とだけ言ってくれた。
姉の日和も千代をそっと包み込むだけで二人は反対することもなく立ち去った。
ただ、陽の後任の選出は行われたが引き継げる人材がなく全国巡回駐在員も消え去った。
そんなある日。
一本の電話が島の駐在をしている鷹司陽の元に入った。
何故か妻である千代の実家で彼女が女将をする眉山旅館の方にであった。
『鷹司さんのお宅でしょうか? 陽さんは在宅でしょうか?』
彼女は目を見開きながら
「は、はあ……少しお待ちください」
と言うと携帯で陽を呼び出した。
「陽くん、今、旅館の方に電話が入っているんだけど」
陽は島の西海岸に向かいかけていた自転車を手に持ってひっくり返すと
「今から戻る」
と言い慌てて走らせた。
5分ほどして戻って電話を受けて陽は千代以上に目を見開いて
「は?」
と声を零した。
千代は不思議そうに見ながら呆然と立ち尽くしていた。
彼女の全く知らない声だったからである。




