誘拐 1
……月……
「逃げるんだ」
周囲は赤く染まり柱は火の粉を吹いていた。
父の服も赤く染まり強く強く手にハンカチを握りしめさせた。
「これを持って……逃げるんだ。警察を信用してはダメだ。いつか、お前が信じられる人間が現れたら……その時に……」
……それまで生きろ……
パジャマのまま父親に押し出されて家の外へと出た。
その直後に家は焼け落ちた。
闇の中を裸足で走った。
「お父さん、お母さん」
ただ。
ただ。
夢中で足を動かしてたどり着いた場所が眉山旅館だった。
血に濡れたパジャマの自分を旅館の主人は驚いて抱き締め、直ぐに服を着替えさせて匿ってくれた。
月は鞄の中にビニールに入れたその時のハンカチを押し込んで家を出た。
「滝口さんに会わなければ…どうか…どうか…無事で」
訪ねた病院で滝口渉は意識を取り戻していたが
「すまない、君に渡そうと思っていたUSBを何者かに奪われてしまった」
と告げた。
「気を付けてくれ」
月は頷き
「俺は大丈夫です。どうか滝口さんも気を付けてください」
と告げた。
滝口は頷きそのまま再び眠りについた。
月は病院を後に
「俺はもう引き返さない」
と足を進めた。
空には太陽が輝き人々の活気が町の道に広がり始めていた。




