第六話 反撃の糸口 1
青い空の下で風が流れていく。
緑の草は揺れて風の行方を無言で伝えてくれる。
持明院月は島で少し高い丘陵地に立ち風に身を浸した。
その少し離れた場所を鷹司陽は歩き、彼を見つけると足を進めた。
懐かしい。
13年ぶりに訪れた島。
此処は2人でよく遊んだ草原であった。
「月……」
陽は名を呼び振り向いた彼に手を差し伸べた。
「帰ろう。俺、何も知らなかった……力になるから13年前の犯人を一緒に探そう」
ごめんな
月は苦く笑むと
「何で謝るんだ? 陽のせいじゃないだろ? 許せない奴らは両親を殺した奴らだ」
と呟いた。
「それに……俺は……警察を信用していない。メディアもだ」
陽は笑むと
「だったら、俺が警察辞める。それで月と月の両親を殺した奴を探す」
と告げた。
月は驚いて
「は?」
と声を零した。
小さな頃から突拍子もないことを言うのだ。
自分の想定の更に斜め上を行く。
月は顔を顰めると
「陽の未来を壊してまでそんな同情いらない」
と言い
「それに俺は迷ってる。13年前の事を知りたい……犯人を知って恨みを晴らしたい。でも俺を育ててくれた養父のこの持明院の名を貶めるわけには行かない」
と視線を伏せて
「持明院の養父に感謝しているから13年前の事を追いかけることで調律師のプロとして客先を探ったりすることになったら……俺はそれが……」
と告げた。
調律師のプロの矜持がある。
それは相手がどんな立場の何をしている人間でも仕事をきっちりこなす。
そこに私情を入れない。
そう言うスタンスで仕事をしてきた。
だが、13年前の事を探るとなると恐らく自然に関連がある人物の仕事の時には探りを入れてしまう気がするのだ。
そうなったら、養父から受け継いだ人間関係に亀裂が入るかもしれない。
それは養父から受け継いだこの仕事においては私情を入れず公平に行うというスタンスを失ってしまうかもしれない。
その狭間で月は揺れ動いていたのである。
13年前の事を知りたい。
犯人を捜したい。
けれど養父から受け継いだ仕事のスタンスを知らぬうちに崩してしまうかもしれない。
陽は静かに月を見つめ
「なあ、俺はその……よくわからないけど……月は月のままで良いと思う。月が養父の人から受け継いだ仕事のスタンスを守りたい気持ちは分かる。養父の人が好きだったんだろ?」
と微笑み
「だったら、それを守った方が俺は良いと思う。調律師として相手がどうであっても仕事をきっちりこなす。相手の詮索をしない、それで良いと思う。それを崩しそうで怖いならその代わり俺に13年前の事件を追う許可をくれ」
と告げた。
月は陽を見ると
「陽……」
と呟いた。
陽は笑むと
「月は警察を信用していないって言ってた。それは13年前の事を考えたら当り前だと思う。でも、ごめんな。俺、駐在員になりたくて警察官になったんだ。月の気持ちも知らなくて」
と告げた。
風が流れる。
その風は何処かへ行き交じり合い二度と同じ場所を同じ風が流れることはない。
それと同じで通り過ぎた過去は戻せない。
月が受けた心の傷をなかったことには出来ない。
だけど。
きっと、13年前の事を解決しない事には月の心は膠着したままなのだ。
陽は真っ直ぐ月を見つめて
「俺を信用してほしい。俺は13年前の真実を必ず見つける。そして、月のその心を開放する」
と告げた。
「絶対に」
月は目を見開きくすくす笑うと
「陽は……変わってない」
と言うと足を踏み出し
「俺は卑怯だと思う。だけど、少しだけ陽に頼って良いかな?」
と告げた。
「心を決めるまで……陽に任せていいかな?」
ずっと守ってきたスタンスを脱ぎ捨てても13年前の真実を追うと決めるまで。
陽は笑顔で大きく頷くと
「もちろん、心が決まった時は言ってくれ。それまで俺が13年前の真実を追いかける」
俺は警察官だから、と言い、伸ばされた月の手を強く握りしめた。
思い出の丘に風が流れていく。
草木は揺れ、同じ風は通らないものの新しい風が新しい道を作って流れていくのだ。




