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陽と月  作者: 如月いさみ
陽と月

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第五話 転調 5

 陽は足を踏み出すと

「月が行きそうな場所」

 と呟いた。

「月の実家のあった場所かなぁ」

 

 だが、そこに月の姿はなかった。

 家の姿もそこに何かがあった痕跡もなくただ草がさやさやと風に薙がれているだけであった。

 

 陽は息を吐き出すと

「だよなぁ、月にとっては辛い場所だよな」

 と腕を組んで考えて

「あと俺が分かる場所って」

 と足を踏み出した。

 

 島の中で低いが山になっているその上の広い草原であった。

 

 陽はハイキングコース程度の山道を歩き、木々が作る陰陽のトンネルを抜けて急に拓けた草原の中に一つの人影を見つけた。

 

「……月」

 

 そこは陽が月とよく遊んだ思い出の場所だ。

 緑の草が風の姿を描くように揺れ、その向こうに青い海が見える。

 

 此処で良く駆け回って遊んだ。

 懐かしい。

 懐かしい。

 帰る前に約束した場所でもある。

 

『俺、10年後にまた来るからな! 月、大人になって会おうな!』

『陽、分った。俺待ってるから島で待ってるから』

 けれど、10年後にここへ来ることは出来なかった。

 

 陽は一歩一歩足を進めて月を見つめた。

 

「月……」

 陽は一人立ち尽くしている月を呼んだ。

 そして、振り向いた月に手を伸べると

「帰ろう。俺、何も知らなかった。力になるから……13年前の犯人を一緒に探そう」

 と呼びかけた。

「ごめんな」

 

 守れなかった。

 守らなかった。

 

 約束。

 

 何も知らなかった。

 月の身に辛く哀しい出来事が降り注いでいたことも。

 

 知っていても何もできなかっただろう。

 でも。

 でも。

 

 月は陽を見つめ風に流れる髪を掻き上げた。

 この時、2人の間を無言で風がただただ流れていた。

 

 そして、東京ではある事実に組織犯罪対策部部長の等々力を始めとして、第五課の課長の戸田や萬田、そして、佐々も固唾を飲み込んで顔を見合わせていた。

 

 等々力は腕を組み

「まさか、13年前の島の駐在員が……なるみ礼二警察庁長官官房審議官だったとは」

 と呟いた。

 萬田も等々力の机に書類を置きながら

「しかもそれからあの島の駐在員は全てなるみ警察庁長官官房審議官の推薦で決まっているのが……匂いますね」

 と告げた。

 

 佐々はそれに

「しかし、なるみ礼二警察庁長官官房審議官って事実上警察庁のNo3に入りますよ。警察庁長官の片腕ですし考えたくないですが浜中警察庁長官ももし噛んでいたら」

 とひたりと汗を浮かべた。

「一体、あんな小さな島に何が」

 

 それに三人とも応えることはできなかったのである。

 そう、肯定も否定も、であった。


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