第五話 転調 3
そして暫く沈黙を守り、陽はチラリと彼女を見て
「その、駐在員の名前……覚えてる?」
と聞いた。
千代はう~んと悩みながら
「確か、なるみって人だったと思う。なるみさんって呼んでたから」
と告げた。
陽は腕を組み
「なるみ……か。今はもういないんだよな?」
と聞いた。
千代は頷くと
「うん、駐在さんも直ぐに転勤になって島を出て行ったから」
と答えた。
「それもあって、みんな13年前のようなことになったらって内心は戦々恐々としているの。月君の行動も心配で……もしも13年前のおじさんやおばさんのような事になったらと思うと」
陽は笑みを浮かべると
「わかった! 月は俺が守る」
と言い
「後、その後来た記者の人の名前と新聞社が分かったら教えて欲しい」
と告げた。
「13年前のことも……調べたいと思う。この島は俺にとっても月との思い出の大切な場所だから」
千代は微笑むと
「ありがとう、鷹司くん」
と言い
「鷹司君みたいな駐在さんなら……私信用できるんだけどな」
とにっこり笑って告げた。
陽は目を見開くと
「俺、本当は駐在になりたく警察官になったんだ。周りの人をさ……守れる人間になりたいなぁって」
と告げた。
千代は頷いて
「なってるわ! なって欲しいわ!」
と言い
「月君をお願い」
と告げた。
その時、一人の男性が駆け込んできた。
「火事だー! 松野原さんところから火が出て」
千代は驚いて
「高瀬君、本当!?」
と聞いた。
高瀬昭一は頷いて
「ああ、消火を手伝ってほしい」
と告げた。
それに陽は立ち上がると
「行ってくる」
と玄関口に走り、戻ってきた男達をすれ違いざまに見た。
陽は男の一人の手を掴むと
「大丈夫ですか?」
と聞いた。
男はそれに驚いたように
「え?」
と聞いた。
陽は携帯を出すと
「その手、怪我したんじゃないんですか?」
と言い写メを撮った。
男は手を見ると慌てて
「何を……別に……貴様一体」
と言いかけたところに、千代がわざと「え!? お客様、大丈夫ですか?」と横から割り込んだ。
男は彼女を見て
「いや、大丈夫です」
ともう一人の男と共に慌てて階段を駆け上がった。
陽は直ぐに待っていた高瀬昭一と共に現場へ向かい駆けつけていた駐在に
「火事と聞いたんですが」
と聞いた。
消火活動は進み、納屋の一角を焼いただけであった。
松野原夫妻は蒼ざめながら島の人たちと立ち尽くしていた。
陽は消火された納屋に近付き現場を見回し、黒い塊を見つけると屈んだ。
が、そこに駐在員が姿を見せると
「きみ、誰だ? 危ないから近付かないように」
と手にしていた焦げた蚊取り線香の缶を見せると
「恐らくこの蚊取り線香の火が移ったんだろ。ただの小火だな」
と告げた。
が、陽は横目で駐在員を見ると手袋を出して焦げ残った布らしいものを携帯で撮りながら
「……これがここにあったんですが、この匂い石油系ですよね」
と告げた。
駐在員は手を伸ばしかけた。
陽はその手を止めるとビニールを出して
「こういうの職業柄持ち歩く癖があってね」
と言い
「君、階級は?」
とビニールにそれを入れながら業と凛とした表情で聞いた。
周囲に集まっていた人々はざわざわと2人を見た。
そこに月も居り目を見開くと
「陽」
と呟いた。
陽は月に気付くと小さく頷いた。
駐在員は咳払いをすると
「貴様こそ、何者だ」
と睨んだ。
陽は手帳を出すと
「警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第五課、鷹司陽警部補だ」
と告げた。
そして、携帯を出すと
「この件はこちらで処理する」
と赤木勇介に電話を入れると
「赤木警部補、実はこちらで放火事件が起きた直ぐに急行してほしい。鑑識への連絡も頼む」
と告げた。
駐在員は蒼ざめると
「な、んで……こんなところにソタイが」
と言うと周囲を見回して踵を返すと立ち去った。




