第五話 転調 2
陽は慌てて
「あ、前々」
と叫んだ。
彼女は笑って
「ごめんごめん」
と言いハンドルを切ると旅館の駐車場に止めた。
そして降りると
「思い出した! 月くんと遊びまくってた子だよね」
と言い
「川飛び込んで石で足切って泣き喚いていた」
と告げた。
……。
……。
陽は顔を真っ赤にすると
「いやいやいや、あんたが覚えているのそんなことかよ! と言うか俺泣き喚いてたか!?」
と心で突っ込んだ。
彼女は少し視線を下げると
「月君、今……」
と言いかけて
「その、力になって欲しいの! お願い!」
と頭を下げた。
陽は真っ直ぐ彼女を見ると
「そのために来たんだ。教えてくれる?」
と聞いた。
彼女は笑みを浮かべると大きく頷いた。
千代は陽の荷物を手伝いながら部屋に案内してお茶を出した。
旅館と言っても観光客が殆ど来ないので島営のようなものであった。
眉山旅館が無ければ島以外から人が来ても宿泊施設がない状態になる。
それは島民全体が願うところではなかった。
なので、一応支援金を受け取りながら細々と旅館を経営しているのだ。
客室も5室。
内装も6畳の和室でユニットバスとトイレが付いている豪華ではないが良くあるタイプの部屋であった。
陽は荷物を置いて千代と向き合い
「その、月が行き成り東京から周囲の人に何も言わずに島へ来たみたいだから俺も実は当てずっぽうで追ってきたって感じなんだ」
と肩を竦めて告げた。
千代は笑むと
「そっかー、でもここだって分かるところが凄いよ」
と答えた。
陽は首を振ると
「そんなことない。俺と月の思い出がここしかなかったから他だったらアウトだったな」
と笑った。
千代は笑みを深め
「セーブよ、セーフ!」
と言い、大きく息を吸い込み吐き出すと
「実は三か月前くらいからマサキリゾート開発株式会社ってところの社員の人が来てて、土地を買ってリゾートホテルを建てたいって島の人たちに土地を売るように言って回ってるの」
と告げた。
「だから二階の二部屋はその人たちが使っているわ。この部屋は一階だけど海側だから景色は楽しめると思うわ」
陽は笑って
「いやいや、景色は大丈夫」
と答え
「それで月は?」
と聞いた。
千代は頷くと
「月君は売らないように頼んで回ってるの」
と告げた。
陽は腕を組むと
「なんで? やっぱり島は故郷だから?」
と返した。
「島の人たちはどうなの?」
千代は視線を伏せると
「島の人たちは今更他へ移るのは難しいと思っているんだけど13年前の事があって」
と言い、周囲を見回して強く陽を見つめると
「13年前……鷹司君が一ヵ月滞在して帰った後に同じように不動産屋の人がリゾートホテル建設に土地が必要だってやってきたんだけど、やっぱり先祖代々の土地を売るって人はいなくて。まして正直こんな小さな島にホテル建設なんてしても人が来るとは思えないし、来ても問題が起きたら困るしって話も出て反対派の人が多かったの。それでもめていた時に月君のお父さんが家に来てお父さんに蒼褪めながら『恐ろしいことが分かった。絶対に土地を売ったらダメだ』って言ってきたの。父は元々売るつもりが無かったから『大丈夫だ、それで何があったんだ?』って聞いたんだけど、はっきりしたら駐在さんに言うってその時は帰っていったんだけど……その日の夜に月君の家が火事になっておじさんとおばさんが亡くなったの」
と告げた。
陽は顔を顰めて
「まさか、それって本当の火事?」
と聞いた。
千代も顔を顰めて
「家は確かに火事だったけど……月君は血塗れで家に来たわ。お父さんは誰にもいうなって絶対にって言って月君に女の子物の私の服を着せて翌日に本州に行ったの」
と言い
「月君は怪我がなかったんだけど……ハンカチ握ったまま何もしゃべれなくて」
と告げた。
陽は腰を浮かせると
「でも、血塗れって……本当は……殺人だったんじゃねぇの?」
と告げた。
「どうして火事で終わったんだ?」
千代は慌ててシーと陽に声を抑えるように言い
「駐在さんが火事だって言って」
と固唾を飲み込み
「でも私は口留めされていたし、それが月君の身を守ることだって言われていたから恐らく月君のお父さんが言ってた『はっきりしたら駐在さんに言う』って言葉にお父さんは引っ掛かっていたんだと思うの」
と告げた。
「それから少しして何処かの雑誌記者がやってきて火事の取材だって新聞にも火事だって載ってそれっきり、父も母も何も言わなくなったの。月君の行方もわからないまま、不動産屋の人たちも火事の後に直ぐ立ち去って何もなかったようになっていたんだけど、13年経って今また同じようなことが起きてるの」
陽は蒼ざめ
「そんなことが……それにまたってことは……」
と呟いた。
そう、もし13年前と関わりがあったら、また何か起きるかもしれないということである。
それを危惧して月は戻ってきたのかもしれない。
陽はそう考えたのである。




