第五話 転調 1
長谷倉真守の依頼を聞いて迷う陽に
「鷹司警部補、行くように」
と背中を押したのは五課長である戸田正平である。
その後ろには組織犯罪対策部部長の等々力警視正がもちろんドーンと鎮座している。
陽は驚いて目を見開いた。
「え? まじで良いんですか?」
そう聞く陽に戸田は苦く笑って等々力を見た。
等々力は頷いて
「ああ。ただな、思い当たる場所があるかどうかの問題もあるがな」
と告げた。
「持明院は国内外の要人やVIPとパイプが太い。そこから突っつきが入る前に動いた方が我々としても手間暇人員がかからず助かる。捜査抜けがお前だけで済むからな」
つまり突っつきが入ると大事になるし人や手間が余計かかるので、最低限で済む方がいいという事である。
が、陽としては飛んで探しに行きたかったので願ったり叶ったりであった。
陽は少し考えて笑顔で
「一か所だけなら」
と答えた。
等々力は笑むと
「じゃあ、任せたぞ」
と告げた。
赤木勇介は少し心配したように陽を見たものの眼鏡を軽く押し上げると
「俺の仕事が溜まるので余りサボらないようにさっさと連れ帰ってくれると助かるけどな」
と告げた。
萬田はそれを横目で
「ほぉお、赤木はドライだと思っていたが……意外とウェットだな」
と口元をニヤニヤと歪めた。
二人のやり取りに戸田や佐々を含めた誰もが苦笑を禁じえなかった。
勇介は罰が悪そうに萬田を見たが、陽はさっぱりと勇介の言葉に
「ああ、分った。悪いな、ちょっとの間頼むな」
と答えた。
本当に人の心の機微が分からない陽であった。
8月の始め。
陽は羽田から飛行機に乗ると小さな南の島へと向かった。
そこは月が生まれた島であり、陽と月の思い出の島でもある。
島は南にあり日差しは東京よりも強かった。
陽は2時間ほどのフライトの後に飛行機から降り立つと大きく息を吐き出した。
「プロペラ機って怖ぇえ。羽がうねって震えてた」
そう言ってヒーと声を零しながら小さな島の小さな空港の建物から出た。
空は青く。
太陽はギラギラ。
しかし、通常の観光地の様に人がいるわけではない。
空港から出てくる人間も陽を含めても片手ほどの人数であった。
陽は汗を拭いながらボストンバッグを肩にかけて空港の前の道路をゆっくりと歩き、空を見上げた。
「お、また飛行機か、へー」
ランディングしてくる飛行機を見つめ
「離れた離島なのに飛行機結構くるのか?」
とぼやいた。
思わず採算のことを考えたのである。
陽は肩を竦めながら
「な、取り敢えず予約を入れておいた宿屋に行って荷物降ろそう」
と呟いて、再び足を進めた。
そこに一台の車が止まり
「もしかして、鷹司さまですか?」
と一人の女性が顔を覗かせた。
陽は驚きながら
「はい」
と答えた。
車のドアには『旅館眉山』と書かれている。
陽が予約を入れた旅館の車であった。
女性はそこの若女将で看板娘の眉山千代であった。
「すみませんね、この島の飛行機は毎日一便だけなので到着前に待っておこうと思っていたんですけど少し遅れてしまって」
陽は笑顔で「いえいえ、助かりました」と答えた。
そして乗り込みながら
「あの、持明院月……って人……」
と聞きかけた。
彼女は車を走らせると
「月君ですか?」
と聞いた。
陽は「あ、もしかして知り合い?」と聞いた。
彼女は笑顔で
「ええ、月君は小学校まで住んでいたし」
と言うと
「もしかして月君の知り合い?」
と聞いた。
陽は頷いて
「ああ、13年前にこの島に一ヵ月ほど滞在して」
と告げた。
彼女はじっと陽を見た。




