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陽と月  作者: 如月いさみ
陽と月

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第四話 家路の曲が流れる時 2

 その少し前、持明院月は千葉県の安浦にある一軒家に訪れていた。近々息子夫婦と暮らす予定の60代女性が一人暮らしをする家である。

 

 彼女を紹介したのは大手製薬会社東都製薬の会長・有村東一で

「旧知の女性で昔ピアノを嗜んでいたんだが旦那がそう言うのに興味が無くてな。暫く離れていたんだが息子と暮らすことになって孫娘もピアノを弾きたがっているというので一台買おうという話になったらしい。それで君に相談に乗って欲しいという事なんだ」

 と告げた。

 

 それは言外に『調律の仕事』も頼むという事である。

 彼の会社の保養ホテルのラウンジに置かれているピアノの調律をしている時に言われた話であった。

 

 その後、教えてもらった連絡先に電話を入れて、その女性・柏原小夜と日時を決めて今日訪れたのである。

 彼女は物静かで穏やかな女性で動作一つ一つをとってもどれほど箱入り娘だったかを伺わせる所作であった。

 

 月は用意していたパンフレットをテーブルの上に置いて

「一応、幾つかのパンフレットを用意してまいりました」

 と告げた。

 

 小夜は微笑んで

「あらあら、お手数をお掛けして申し訳ありませんね」

 と正面に座りパンフレットを見た。

 

 月は彼女を見ながら

「その、置かれる部屋の広さと設備にもよるのでその辺りはどのように?」

 と聞いた。

 

 小夜は元々ピアノを弾いていたのでその辺りは心得ているようで

「息子たちは一戸建てのリビングに置くと言っているの。ご近所さんのこともあるので二重窓にして防音設備も整えているわ」

 と答えた。

 

 月は頷くと

「なるほど、心配の必要はありませんでしたね」

 と笑顔で答えた。

 

 その時、電話が鳴り響いた。

 彼女は立ち上がると

「失礼」

 と言い受話器を手に取った。

「もしもし、どちら様でしょうか? ……はい? ……はぁ、荷物ですか? ……送り主はどちらの? ……え??」

 ☆

 月は小夜の様子が変だったので

「あの、どうかされたのですか?」

 と聞いた。

 

 小夜は困ったように

「それが」

 と言いかけて目を見開いた。

「……電話が、切れてしまったようですわ」

 

 月は目を見開くと

「え?」

 と呟いた。

 

 小夜は息を吐き出し

「何か荷物が届いたとか。でも送り主を聞いても知らない名前で」

 と困ったように呟いた。

 

 月は少し考えて

「少し気を付けられた方がいいです。最近、東京などで押し入り強盗が流行っていて家の人間がいるかを調べて宅配を装って押し込むようです」

 と告げた。

 

 小夜は驚いて

「そんなことが」

 と呟いた。

 

 月は小夜に

「息子さんと相談して対策した方がいいと思います。例えば変な電話が掛かった時に息子さんの声を入れたテーブを流して人がいるように見せかけるとか」

 と告げた。

 

 小夜はコクコク頷いて

「ありがとうございます、先生」

 と答えた。

 

 奇妙な電話の後なので彼女の息子である柏原千秋に知らせて、急いで戻ってきた彼と入れ替わり月は小夜にパンフレットを渡して

「パンフレットのピアノはどれも良いものなので良いと思うモノを選んでください。お孫さんとご一緒に決められてお知らせいただきましたら良いので」

 と告げて、柏原家を出た。

 

 柏原家のある住宅街は大きな家が多く駅に向かうほどにマンションが増えていく。

 月は大きな家が並ぶ静かな道路を安浦駅に向かって歩いていた。

 

 人の姿も少ない。

 駅に近付くと人の姿も多くなるが少し離れただけで大きな違いであった。

 が、そんな大きな家と家の間の道の端で一人の青年が座っているのが目に入った。

 

 俯きながら壁に向いている。

 月は青年の側に行くと

「あの、もしご気分が悪いのなら救急車を呼びますけど?」

 と呼びかけた。

 

 青年は蒼ざめながら月を見ると声を上げて逃げ出すように走り出した。

 カシャーンと音が響いたものの青年は止まることなく消え去った。

 

 月は落ちた携帯を拾い

「あ、携帯が」

 と言ったものの青年の姿は見えなくなっていた。

 

 携帯の画面にはLINEのトークが映っていた。

 

 その内容は

『7月14日に決行』

『安浦駅駐車場に集合』

『ターゲットはその時に知らせる』

 となっていた。

 

 最後に

『来なかったらお前の家族の命はない』

 と追記され、一枚の写真が載っていた。

 

 東都大学の門を潜る女性の姿である。

 

 月はそれを見ると携帯でその画面を撮り

「多分、そういう事だよね」

 と呟いて駅の方へと足を進めた。


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