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陽と月  作者: 如月いさみ
陽と月

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26/112

第三話 時計の曲が流れる時 3

 月は運転手を見ると

「貴方は」

 と足を止めた。

 

 50代の壮年男性で名前を田胡健一と言い、月は何度か松城家で出会っていた。

 松城剛志の秘書をしており時折だが松城家の様子も見に行っているようであった。

 

 田胡は笑むと

「雨で足元が悪いでしょう。良ければお送りしますよ。どうぞ」

 と助手席の戸を開けた。

 

 月は「ありがとうございます」と答え助手席に座るとシートベルトをした。

 田胡はアクセルを踏み荒川区にある月の家に向かってハンドルを切った。

 

 雨は深々と降り、ワイパーがフロントガラスの雨を弾いていく。

 田胡は月が前を見ているのをチラチラと確認しながらポケットに手を入れると素早く彼の鞄の中に一枚の紙を入れた。

 

 月は自宅前に着くと礼を言い、彼の車を見送って自宅へと戻った。

 雨の中を列車に乗って歩くと考えると車で送ってもらえたのはラッキーであった。

 

 月は家の中へ入ると鞄をテーブルの上に置いて一枚の楽譜を手にした。

 陽に毎日一枚楽譜を贈っている。

 

「陽は……名前の通りに太陽の下を歩いてきた。俺は名前の通り夜の道を歩いている」

 ……そんな自分たちが……

「同じ道を歩くことは出来ない」

 月はそう呟き目を閉じた。

 

 陽は雨が降る外を見て息を吐き出した。

「それで」

 

 そう隣に椅子を置いて座っている赤木勇介を見た。

 仕事終わりに寄ってくれたのだ。

 

 姉の日和は入れ替わるようにマンションへと戻った。

 様態は安定しており一週間後には退院できるので今日は家に帰ってゆっくりするように陽が勧めたのだ。

 

 勇介は日和が帰る前に渡した缶ジュースを飲みながら頷くと

「ああ、いま大きな収賄の動きを捜査二課と一緒に追っている」

 と告げた。

「どうも組織ぐるみで動いているみたいらしいんだが」

 

 陽はベッドの上に座りながら

「内部告発?」

 と聞いた。

 

 勇介は目を見開き

「よくわかったな」

 と告げた。

 

 陽は笑って

「そりゃ、やっている人間は火の手を上げるのは損をする時だけだし得がある間は全員共犯だから黙っていると思う。正義感で動くとしたらその下の部下とか中心から一歩引いた人間だと思うから内部告発かなぁと」

 と返した。

 

 勇介は眼鏡を軽く上げて

「意外と急所を突いてくるな」

 と思いながら

「その通りだ。密告があったんだが……誰かは分かってない」

 と告げた。

「ただ、日付けだけ言ってきた。10日後の6月18日だ」

 

 陽はそれを聞き

「他は?」

 と聞き返した。

 

 勇介は首を振った。


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