第三話 時計の曲が流れる時 2
持明院月は同じ頃、東京の成城にある松城剛志代議士の自宅に姿を見せていた。
自明党の国会議員で元々が華族の代議士一族であった。
音響設備の整った部屋の中にはピアノが置かれ定期的に月は調律をしに来ていたのである。
元々は彼の祖父で既に引退しているが自明党の党首を務めた松城剛一の頼みからであった。
現在、松城剛一は田園調布の自宅で暮らしている。
ピアノは元々剛一の妻が田園調布の家で使っていたモノを孫である剛志に贈ったもので今は剛志の娘である10歳の更紗が弾いている。
彼女は月の作業に興味があり毎回横でじっと見ている事が多い。
月は作業している横でジーと見ている彼女を見ると
「更紗ちゃんはピアノ好きなんだよね?」
と微笑みかけた。
更紗は笑顔で
「大好き!」
と答え
「先生が来ると音がね、元気になるの。だから先生大好き」
と告げた。
月は笑って
「そうなんだ、そう言ってもらうと嬉しいよ」
と答えた。
母親の菜摘はお茶と菓子を用意すると
「更紗、先生の邪魔しちゃだめよ」
と笑いかけた。
「先生、宜しければどうぞ」
そう言ってテーブルの上に置いた。
月は作業を終えると
「お言葉に甘えて。ご馳走になります。ありがとうございます」
と告げた。
食べ終えると月は謝礼を受け取り、松城家を後にした。
松城家は高級住宅だが主の松城剛志が帰宅していることは少ない。
月はこれまで何度となく訪れているが一度も会った事が無いのだ。
もちろん、そういう家庭の事情に立ち入ることはしない。
あくまでもピアノを調律する仕事を請け負っているだけなのだ。
シトシトと雨が降る中を月は傘を差しながら大きな家が建ち並ぶ高級住宅街の道をゆっくりと歩き成城学園前駅へと向かった。
その時、不意に一台の車が月の横手に止まり
「こんにちは、持明院さん」
と声を掛けてきたのである。




