第三話 時計の曲が流れる時 1
入院して3日が経った。
陽は小さく息を吐き出すと
「やっぱり、俺は交番勤務向きかも知れない」
とぼやいた。
そっと呟いた独り言にちょうど病室の戸を開けて入ってきた姉の鷹司日和が肩を竦めながら
「私としては陽がこんな危険な目に合わないならその方が良いけど」
と手にした一枚の紙を手渡した。
「今日も届いていたわ。ちゃんと届けにくればいいのにね」
陽は紙を手に少し寂し気にでも笑みを浮かべると
「俺も、思ってる。怪我は俺のせいなんだからさ」
と呟いた。
「……けど、俺。配属が変わらない限りちょっと頑張ろうと思う。こんな紙越しじゃなくて ちゃんと向き合いたいからな」
渡された紙は楽譜。
こんな贈物をする人間は陽の周りではただ一人だ。
持明院月。
13年前は浅倉月だった。
調律師をしている彼からだと一目でわかった。
外は雨。
梅雨に入って連日降り続いている。
それでも毎日一枚楽譜が届けられていたのである。
赤木勇介は息を吐き出すと
「腹刺されているから食べ物はダメな気がするんですけどね」
と呟いた。
それに萬田が
「俺は食ってたけどな」
と答えた。
百戦錬磨の刑事である。
勇介は警視庁組織犯罪対策部のフロアの一角でその言葉を聞きながら
「タフだなぁ」
と心の中で呟いた。
彼は眼鏡のブリッジをあげて
「じゃあ、行ってきます」
と告げると、出会って日も浅いのに相棒として認めてしまっている鷹司陽のことを考えながらフロアを後にした。
萬田はそれを見送り、一番奥の席で座っている等々力警視正……組織犯罪対策部の部長を見た。
「やっこさん達、大丈夫ですかね? 行き成り怪我して転属届だされちゃぁ痛いですからね」
等々力はそれにさっぱりと
「問題ないない」
と答えると
「トレードさせないからな」
と告げた。
「それより、持明院月の方が気になる。佐藤が全面自供した上にUSBまで出してきた裏にはあのガキが絶対にいる。国内外の要人にパイプを持っているのは分かっているが……どれくらいの深度か。俺達の想像を超えているかもしれない」
そう言って得体の知れない相手の姿を思い浮かべながら目を細めた。




