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陽と月  作者: 如月いさみ
陽と月

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第二話 別れの曲が流れる時 12

 月は救急車を呼んだが乗らなかったのだ。

「赤木さん、彼に付いて行ってください。お願いします」

 そう言って背を向けて立ち去ったのだ。

 

 勇介は拳を握り

「こうなったのはお前のせいだろう」

 と月の背中を思い浮かべながら心で呟いた。

 

 確かに持明院月との関係は警察にとっては大切かも知れない。

 だが。

 勇介は今自分が感じているのはそんなことが無くても陽を相棒だと感じているからだと理解していた。

「生きろ」

 そう呟き両手を組み合わせた。

 

 月は家に戻ると荷物を置いて、携帯を手にして国際電話を入れると少しして家を出た。

 その門のところに立っている人物を見ると

「付いて来てくれますか? それから逮捕するための人員も用意してください」

 と告げた。

 

 それに驚いたように萬田ともう1人組織犯罪対策部の佐々修一警部補が目を見開いた。

 そして、捜査二課に連絡を入れたのである。

 

 月は彼らの車に乗り込み世田谷区にある佐藤周のマンションへと向かった。

 その時、佐藤周は芍三郎を呼び出し今しがた掛かってきた電話を切ると

「何故、先生に手を出した」

 と告げた。

 

 芍三郎は冷静に

「邪魔になる芽は摘んでおくべきだと思ったので」

 と答えた。

 が、佐藤周は笑うと

「お前に教えるべき日本語がもう一つあったな。眠れる獅子を起こすなということだ。もう遅いがな。今アビーエージェンシーから手を切ると連絡があった」

 と告げた。

 

 芍は驚いて

「まさか」

 と呟いた。

 

 佐藤周は下から聞こえてきたサイレンの音に

「……お前も俺も……いや組織も終わったな」

 と小さく笑った。

 

 月は最上階の佐藤の部屋に訪れると驚く芍を一瞥し佐藤を見た。

 佐藤は彼の背後にいる萬田と佐々を見て息を吐き出し

「先生……今回の事……申し訳なく思っている」

 と告げ、内ポケットからUSBを出すと萬田に渡した。

「どうぞ」

 そう言って招き入れたのである。

 

 芍は慌てて逃げかけたがその場で一緒に玄関口で待っていた捜査二課の人間に捕まり逮捕された。

 

 月は表情を変えずに佐藤をみると

「貴方に曲を送りますよ」

 と言いピアノの前に行くとゆっくりと指を動かした。

 

 招き入れられた萬田と佐々と駆けつけた捜査二課の面々が家の中を調べる中で静かだが胸を締め付けるような旋律が広がった。

 

 ショパンの練習曲集10-3。

 別れの曲である。

 

 美しく静かな旋律から、やがて激しい旋律へと変わっていく。

 哀愁から慟哭に似たソレ。

 

 佐藤周はそれを聞くと苦く笑って

「なるほど……手向けの曲ですか」

 と息を吐き出すと萬田に連行されて立ち去った。


 少しして家宅捜索のための鑑識や二課の人間が中へと入ってきた。

 

 月は騒がしくなった部屋の中で窓から眼下を見つめ

「陽……生きろ。生きてくれ。会いに行けないが……無事で」

 と小さく呟いた。

 

 緊急手術を受けて陽が目を覚ましたのは二日後のことでそこには姉の日和の泣き顔と心配そうに見守っていた勇介の姿があった。

 

 佐藤周が渡したUSBには売人の一覧が載っており、芍三郎も全てを自供して組織を一網打尽にできた。

 

 勇介はそれを報告し

「持明院が……萬田さん達を手引きしたそうだ」

 と告げた。

 

 陽は頷くと

「月……まだ怒ってるかなぁ」

 と小さく呟いた。

 

 勇介はそれに肩を竦めながら

「まだそんなことを……子供だなこいつ」

 と心の中で突っ込んだ。

 

 これまで警察の要請には何一つ関わらなかった彼が大切な客先となる家へ刑事を引き連れて乗り込んだ。

 

 勇介から見れば

「鷹司をどうでもいいと思っていたら絶対にしない」

 という事である。

 

 どう考えても持明院月にとって鷹司陽は特別な存在なのだ。

 陽の病室から見える東京の空には雨雲が広がり、シトシトと雨を静かに降らせ始めていた。


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