第二話 別れの曲が流れる時 11
養父である持明院静一から調律師としての訓練を受けていたので日常の様々な音の中の異音に気付くようになっていたのである。
くぐもった排気音。
月はそれを聞きながら
「この音なら時速20キロくらいの低速で後についてきている感じだな」
と呟いた。
月は暫く歩き家が見えた瞬間に足を踏み出しかけた。
その時、車が急にスピードを上げて目の前に割り込むように止り、車の後部座席から2人の男が下りて月を掴まえて地面に押し付けるとナイフを振り上げた。
ギラリと光ったナイフの切っ先の光が月の視界に一際強く輝いた。
瞬間に声が響いた。
「てめーら、何をしてるんだ!!」
月の家の近くに止まっていた車から陽は飛び出すと男に向かってケリを入れた。
そして、月を起こすと
「赤木!」
と呼んだ。
勇介も降り立ちもう一人の男に向かった。
男は慌てて車に乗り込み
「行くぞ!」
と声をかけた。
が、月を襲った男は陽に捕まり舌打ちするとナイフを素早く動かした。
陽は男がナイフを突き立てるのを見て顔を顰めた。
「きさま」
勇介は驚いて
「鷹司!」
と叫んで駆け寄ると男を殴り倒して手錠をはめた。
月も駆け寄ると陽を抱き締めて
「陽!」
と名前を呼び、慌てて頬を叩いた。
「救急車を呼ぶからしっかりしろ!!」
陽は腹を抑えながら
「月……お前は大丈夫か? いてーところねぇ?」
と聞いた。
月はそれに
「無いから……陽の方が痛いから」
と携帯で救急へと連絡を入れた。
勇介は逃げていく車のナンバーを覚え男の両腕を後ろ手に手錠をして車の中に押し込むとトランシーバーで警視庁へと連絡を入れた。
陽は笑いながら
「やっぱり、月変わってねぇな。前も同じこと言った。おれ……川で……あし……」
と言うとそのままクッタリと意識を失った。
島の中には足場の悪い川が多くあった。
けれど水は綺麗で魚が何時も沢山泳いでいた。
岩場に追い込んで魚を手掴みする。
姉の日和は川沿いで座り陽と月が川で魚取りに夢中になっていた。
森林の枝葉の影が水面に映り込み、爽やかな風が流れていく。
「月―! そこー! 追い詰めろ!」
そう言うと月が
「わかった!」
と答えて二人で魚を岩場の窪へと追い込んでいく。
その時、同時に足を滑らせて水の中で陽は足を切ったのだ。
血が出て水に流れていく。
月は泣きながら
「陽! 大丈夫?? 陽!」
と覗き込んできた。
痛かったけど。
でも。
陽は笑顔で
「月は……お前は大丈夫? 痛いところねぇ?」
と聞いた。
月は泣きながら
「俺より陽の方が痛いから」
と返した。
そして、一緒にいた女の子が慌てて人を呼びに行ってくれたのだ。
覚えてる。
13年前のあの夏の日。
陽は救急車に乗せられながら薄っすらと目を開けた。
勇介が覗き込むように見ており
「気付いたか? もうすぐ病院だ」
と告げた。
陽は頷くと
「月は?」
と聞いた。
勇介は一瞬言葉を止めたが直ぐに
「大丈夫だ」
と答えた。
陽は笑むと
「良かった」
と答えると再び意識を失った。




