第二話 別れの曲が流れる時 10
もっとも、陽がそれに気付くとは思ってはいなかったのだが。
それは一緒に駐車場に向かう萬田も同じことを考えていたのである。
彼らの様子をエントランスにつけられていた防犯カメラの映像で見て、芍三郎は月に対して疑念を深めていた。
ボスの佐藤周が『問題ない』と言っても不安の芽を摘む必要があるのではないかと考えていたのである。
それは海外で遣り取りをしている組織の人間の指示でもあった。
佐藤周が裏切りそうな素振りがあった時には必要な書類や痕跡を消し去り、報告するようにという事であった。
そういう意味では芍三郎は見張りでもあったのだ。
彼は佐藤周の部屋を出ると隣の自室に戻り電話を入れた。
『持明院月を……始末しろ』
そう言う事だ。
交番勤務の時は三交代で当直24時間勤務、その後に非番、そして公休と巡回する生活だったが、組織犯罪対策部の勤務は正に事件との兼ね合いであった。
早朝もあれば深夜もある。
場合によっては泊まり込みもある。
陽は組織犯罪対策部のフロアで報告書を書き上げるとクタッと頭を机に乗せた。
時刻は夜明け前の4時である。
勇介はそれを見て苦笑を零し
「仮眠室で寝るか」
と立ち上がった。
陽は頷いて立ち上がり
「その後、ちょっと出る」
と告げた。
萬田は笑いながら
「赤木はそれに付き合え。どうせ荒川区だろう」
と告げた。
陽は驚いて
「何故!?」
と叫んだ。
萬田は腕を組み
「顔に描いている。これでも刑事を長くしているんだ。分かるさ」
と答えた。
勇介は頷き
「了解しました」
と答えた。
陽と勇介は仮眠室で眠り、その後、荒川区にある持明院月の家へと向かった。
月はちょうど昼食を買いに出かけており、南千住駅の近くにあるスーパーで食材を買うと自宅へと戻っていた。
太陽は高く登り足元に影を作っていた。
初夏の風が心地よく流れ散歩も良い気分であった。
駅から住宅街を抜けて家の近くまで来た時、目を細めた。
スーパーからずっと気付いていた。
通常ではない排気音が耳をついていたのだ。




