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陽と月  作者: 如月いさみ
陽と月

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第一話 英雄の曲が流れる時 2

 陽は涙ながらに下宿していた独身マンションから荷物を引き上げると、そのまま警視庁第一機動隊の近くにある寮へと一時的に引越しした。

 

 独身なので荷物はそれほどなく家具も備え付けだったので段ボール数個で片が付いた。


 ただし、新隊員訓練期間が終わると新人はそれぞれ各機動隊へ配属され、その機動隊の独身寮に入ることになるので陽はちょうど東京都心近くに住んでいる姉の日和の家に一時的に荷物を預けることにした。

 姉の日和は2歳年上で現在は東京中野区のマンションに一人暮らしをしている。

 これまで3年前に両親を事故で亡くしてからこの姉が何くれとなく心配して陽を支えてくれていた。

 優しくしっかりとした姉である。

 

 ただ陽としては優しく美人な姉が30歳も前なのに結婚話など浮いた話が一つもないのは自分のせいではないかと些か心配な部分もあった。

 

 長閑な奥多摩から2時間ほどかけて騒がしい東京駅に到着すると、陽は在来線に乗り換えてJR中央線の中野駅で降り立ち待っていた姉の日和と再会した。

 

 姉の日和は背が高く今は髪を伸ばして後ろで一つにまとめている。

 こう言っては何だが……弟の陽の目から見ても美人である。

 反対に陽は背があまり高くなく少々目つきは悪いが顔は愛らしく整っている。


 父親似か母親似の違いだろう。

 

 姉の日和は改札を抜けた陽を見ると

「陽! 久しぶりね」

 と呼びかけて、手を振り駆け寄ってきた。

 

 太陽は西の地平に落ちて夕暮れの赤が町を染めている。

 

 陽は生活に使う最低限の荷物だけをボストンバッグに入れて肩にかけ、手をあげて

「待たせた? ごめん」

 と返した。

 

 日和は微笑んで首を振ると

「駅から近いからそれほど待ってないわ」

 と答え

「入隊式は明後日なんでしょ? 明日は?」

 ゆっくりできる? と聞いた。

 

 陽は笑顔で頷き

「ん、昼までゆっくりして昼から仮の寮にいく」

 と答えた。

「入隊式が終わったら直ぐに訓練が始まるからな」


 そうなると荷物整理も何もできなくなる、と笑って付け加えた。

 

 日和は肩を竦めて

「そうなの。大変ね」

 と答え

「今夜はゆっくりしていきなさいよ」

 と言うと歩き出した。

 

 中野駅のロータリーを越えて大通りを5分ほど駅とは反対側に歩くと住宅街が広がっている。

 一角にある6階建ての茶色のマンションの4階が彼女の部屋である。

 

 2DKの広々とした部屋だが、今は1部屋を陽の荷物が占めている。

 日和としてはこのまま陽が暮らしても良いと思っていたが、警視庁の機動隊の独身男性は寮に入るのが習わしらしく陽もあっさり

「寮生活するから大丈夫。出勤は楽だし緊急時も直ぐに動ける」

 と答えたのだ。

 

 当初こそ「俺は奥多摩のお巡りさんで良いー!!」と電話口で泣き叫んでいたが、覚悟を決めるとさっぱりしたものである。

 

 日和は今も部屋に入って明後日の入隊式の後の訓練の事を考えつつ筋トレをしている陽を横目に

「男の子ってみんなこんな感じなのかしら」

 と心でぼやいていた。

 

 その日の夜は日和が作った鯛のあら炊きと味噌汁など和食を食べ、翌日の昼に陽は日和の家を出ると中野駅からJRに乗り東京メトロ東西線に乗り換えて警視庁の第一機動隊庁舎近くにある寮へと辿りついた。


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