表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽と月  作者: 如月いさみ
全国巡回駐在員

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/122

因習の園 12

 陽は香田和夫を見て

「医者が命を救わずに奪ってどうするんだ!!」

 と強い口調で告げた。

「医者の使命感すら捨てて何を得ようっていうんだ? 名前だけの名誉なんて直ぐに崩れる。本当に大切なことは命を守ろうとすることじゃないのか?」


 更に千成佐代子を見て

「あんただってそうだ。千成家が本当に村の名士なら一番大切なのは村の人たちが幸せに暮らすことじゃないのか!? 見下げて下僕だなんて言葉を使っている限り昔の栄光にしがみ付いているだけの形骸でしかない」

 と告げた。

「そんなものが二つもあったらこの村は何れ崩壊する」


 千成佐代子は震えながら

「な、な……和夫! やりなさい!! 香田家と千成家を馬鹿にするなんて!!」

 と叫んだ。


 それに千成久雄が立ち上がると

「もういい!! いい加減にしろ!!」

 と怒鳴った。


 千成佐代子は驚いて千成久雄を見た。


 千成久雄は彼女を見ると

「お前は哀れな女だと思っていた。香田家でも女と言うだけで好きな道を選べずに俺の元に嫁いできた。16歳で50歳の俺の所にな。お前が湯ノ沢勤を好いていたことは知っていたが俺と前妻の間には子供が無かったせいで妻が亡くなっても俺は子供をなすために妻を貰わなければならなかった。お前は湯ノ沢を諦めて夢も全て捨てて俺の所に嫁いできた」

 と告げた。

「なのに、湯ノ沢と道子の間に生まれた子供が今度は香田家の家業を脅かそうとするとは皮肉としか言いようがない」


 陽は驚いて千成佐代子と千成久雄を見た。


 千成佐代子は唇を噛み締めると

「ええ、そうよ。何もかも諦めて……香田家の為に私は貴方に抱かれたのよ。だから、久二と香田家だけが……私の夢なのよ!! 何もかも失った私の唯一の希望なのよ!! この子が村の名士になって香田家がこの村の唯一の医師!! 何が悪いの!? 村人の幸せですって? 私はどうなのよ!! あの女はね、私から全部を奪っていこうとしたのよ!! だから、だから……」

 と叫んだ。


 千成久二は顔を歪めると

「もうそれ以上言うなって!! 母さん!!」

 と叫んだ。


 陽は息を飲み込むと

「まさか」

 と三人を見た。


 千成佐代子は陽を睨み

「貴方に何が分かるの!? 一方だけを見て……何も知らないくせに正義感を振りかざして!! 分かる? あの女はね私から勤を奪っておきながらこう言ったのよ。『勤さんと愛し合っていたんだから勤さんの子供の夢くらい叶えさせてあげてほしい』って」

 しかも、あんな……と告げた。

「冗談じゃないわよ!! 学は道子と勉さんの子供じゃない!! 私はどうなるのよ! 愛する人を奪われて……実家の家業まで脅かされて……」


 千成久二は俯いたまま

「母さん」

 と呟いた。


 陽は息を吐き出すと

「千成佐代子さん、貴方……すぐ側に貴方の為に罪を背負おうとしてくれる息子さんがいるじゃないですか。彼を愛しているんですよね?」

 と告げた。


 千成佐代子は千成久二を見た。


 陽は静かに笑むと

「貴方は彼を自分の希望だといった。何故、貴方は自分の希望の存在にもっと胸を張らないんですか? それに千成久雄さんも貴方を愛しているし大切に思っている。だからこそ、全てを知っても目を瞑っていた」

 と言い

「それが正しいとは俺は思いませんが、それでもきっと貴方への愛の一つだと思います」

 と告げた。

「貴方は確かにある意味において村の犠牲者かもしれない。だけど、いや、だからこそ……もうこれ以上貴方の息子さんや貴方を見守り続けていた千成さんを犠牲にしてはダメだ。この村を変えた方が良い。貴方のような悲しい人を作らないために」


 千成佐代子は両手で顔を塞ぐと泣き崩れた。

 そこに湯ノ沢学と三田村優香が姿を見せた。


 湯ノ沢学は両手をつくと

「ごめんなさい!! 俺、俺……動画見ました!! 母さんはただ俺の夢を守ろうとしてくれただけなんだ。だけど、貴方を傷つけてしまって……」

 と告げた。

「俺、4歳の時に父さんが苦しむのに何もできなかった。だから何か出来る医者になろうと思ったんだ」


 三田村優香も頭を下げて

「おばさん、許してあげて……学くんのおばさんも必死だったの。私……私……」

 と俯いた。


 多津川湊と三田村英雄が姿を見せた。

 多津川湊は陽を見ると

「鷹司巡査部長」

 と言い

「湯ノ沢道子さんを殺したのは」

 と告げた。


 陽は頷いて

「わかっている。彼女だったんだな」

 と告げた。


 陽は千成久二の手錠を外して

「申し訳ない」

 と告げた。


 千成久二は息を吐き出すと

「いや、公務執行妨害は公務執行妨害だから間違ってはない」

 と告げた。

「母さんはずっと耐えてきたと俺は思う。だけど、湯ノ沢のおばさんの『湯ノ沢が私を選んだのは当然よ。貴方は香田家と千成家のお嬢様で欲しいモノ全部持っているんじゃない。湯ノ沢くらい私がもらったからって』って言葉に耐えていた糸が切れたんだ」


 千成佐代子は立ち上がると

「久二、良いの。私がばかだったのよ」

 と告げた。

「貴方みたいな出来た子供がいて、何時も温かく見守ってくれていた久雄さんがいたのに……遠い日の幻影を追いかけ続けていたんだわ。道子が言っていた通り私さえ気づけば全部持っていたのよ」


 千成久雄は千成佐代子の髪をそっと梳き

「俺はもうお前を待つしかできない。久二と二人で……村を変えながら待つしかな」

 と告げた。


 千成佐代子は泣きながら

「ごめんなさい、貴方……私……私……何を見続けていたのかしら」

 と告げた。


 陽は多津川湊を見ると

「多津川巡査」

 と声をかけた。

 ただ、手錠をしようとした彼の手を止めて

「後を頼む」

 と押し出した。


 千成久雄は三田村英雄を見ると

「俺は隠居する。後は頼むぞ」

 と告げた。


 三田村英雄は頷いて千成久二を見ると

「久二さん、一緒に変えていってもらえますね」

 と告げた。


 千成久二は静かに頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ