因習の園 10
陽は笑むと
「いえ」
と答えた。
「前回と同じように一週間ほどお世話になります。巡回など村の様子を多津川巡査に後からお聞きして報告書を作らないといけないので宜しくお願いします」
千成久雄はチラリと陽の後ろで座っている千成久二に目を向けた。千成久二はにやりと笑うと襖を閉めて
「取引をしようと思うんだけど」
と告げた。
陽は冷静に
「多津川巡査の身柄の安全を保障する代わりに俺に何もするなと言うことかな」
と千成久雄を見たまま告げた。
「湯ノ沢学くんの母親である湯ノ沢道子さんを殺したことも多津川巡査を監禁したことを黙っていろと」
千成久二は大笑いをすると
「な~んだ、知っていたんだなぁ」
と言い
「もっとも、あの女を殺した証拠はもうないからな」
と告げた。
陽は笑むと
「どうだろう」
と告げた。
千成久二は目を細めて陽を後ろから睨んだ。
陽は息を吸い込んで吐き出すと
「千成家当主の久雄さん。貴方がどう思われているか知りたい」
と告げた。
「いま限界集落で問題になっていることの一つに医療の枯渇。医者がこの村から誕生することは本来は喜ばしいことだと代々この村を守ってきた千成家当主なら思って当たり前だと思いますが」
強い瞳で陽は見つめて告げた。
千成久二は陽を背中から足で肩を蹴ると
「うるっせんだよ!! この村の医者は香田家と決まっているんだ!! 余所者が口出すことじゃねぇんだ」
と告げた。
陽は息を吐き出して
「本当に……貴方は何処で育て方を間違えたのか」
と告げた。
千成久二は顔を歪めると
「はぁ!?」
と陽の襟を掴みかけた。
陽は千成久二の手を掴むと立ち上がり
「千成久二、俺は村の人間じゃない。だから、平伏する遺伝子は持っていない」
と言うと手を掴んで背負い床へと叩きつけて手錠をした。
「公務執行妨害で逮捕する」
千成久雄は黙ったまま見つめ言葉を発しなかった。それに千成久二は顔を歪めると
「親父! この村を支えて行けるのは俺だけだぞ!! こんな駐在員如きにこんな目にあわされているのを黙って見ているのか!? 掴まえさせろよ!」
と叫んだ。
それに後ろから襖が開き千成佐代子が目を細めると
「何て、失礼な」
と言うと背後に立っていた村の人間を見て
「その駐在員を牢に入れなさい!!」
と命令した。
陽は取り囲んだ5人ほどの男を見ると
「攻撃してくれば全員公務執行妨害で逮捕させてもらう」
と告げた。
「序でに監禁罪も入るか」
男たちは顔を見合わせて固唾を飲み込んだ。
千成佐代子は苛立たし気に
「早くやりなさい!!」
と叫んだ。
陽は向かってきた男のパンチを避けるとケリを食らわせ、もう一人の男の鳩尾に突きを入れた。
更に手の甲でケリを入れてきた男の足を止めるとそのまま払い、倒れたところで突きを入れた。
正に一瞬の攻防であった。
陽は千成佐代子の前に行くと
「まだ呼びますか?」
と告げた。
千成佐代子は震えながら
「千成家に逆らうんですか!!」
と叫ぶように告げた。
それに千成久雄は
「止めろ!!」
と声を発すると頭を下げて
「5年前と変わっていない」
と告げた。
「貴方は直ぐに村に馴染んだ。だが、馴染むだけで取り込まれることがなかった。私が千成家としてこの村の在り方を告げた時に言われた言葉を覚えていますよ」
……俺は警察官です。守るべきものに千成家もその他の家も関係ない……
「この国に住む全員を法の下で守り、犯罪者は何処の誰でも法の下で逮捕する」
陽は冷静に
「それは多津川巡査も同じだったでしょう」
と告げた。
「だから監禁するしかなかった。殺してしまっては警察機構が入りこの村の秩序は崩壊する。まして新しい全く土地と関係のない駐在員が来たら村は変わってしまう」
……だが俺から言わせれば罪を犯す風習ならば変われば良い……
「変わらなきゃならない」
千成久二は陽を睨み
「だがな、証拠はねぇんだよ! 勝手に人を監禁だの殺人者扱いしやがって」
と叫んだ。
千成佐代子は陽を見て
「この村はね、千成家が秩序を守っているからこそ回っているんです。香田家は代々医者の家系なのです、なのに、小作人の子供が医者になって香田家と張り合おうなんて、おこがましい」
と告げた。
陽は息を吐き出すと
「何家であろうと本人が努力して医者になれるのならばそれでいいと俺は思いますけどね。この村で生まれたというだけで未来を決められて搾取される理由はない!」
と告げた。
「それに証拠ならあると俺は思っていますよ。だから貴方がたは多津川巡査にとぼけることもせずに牢屋にいれたんでしょ? 証拠が本当になければとぼけたはずだ。証拠がなければ警察でも動けませんからね」
千成佐代子は千成久二見た。
千成久二は顔を背けた。




