因習の園 9
萬田横柄も腕を組むと
「確かに全て千成家の中で起きていたと考えると彼女が関わる理由も分からないな。いや、家の人の話を聞いたかもしれないが」
と告げた。
陽は息を吸い込んで
「その可能性はあるけど、もっと違う可能性があるかもしれないと思って……彼女と繋ぎを取って話を聞いてほしい。ここを変えるために」
と告げた。
「ここが変わらない理由は例え理不尽なことがあっても千成家を恐れて村人が声を上げないからだと俺は思っている。その声を君のお母さんは君の未来ために上げようとした。だから君も頑張ってほしい」
湯ノ沢学は泣きながら目を見開き笑みを浮かべた。
「はい!」
陽は彼を抱きしめ
「頑張ろう」
と告げた。
萬田横柄はそれを見ると
「鷹司の強いところはこういうところかもしれねぇな」
と心で呟いた。
「考えればこいつは初めて会った時からこういうところがあったな」
萬田横柄は立ち上がると
「じゃあ、鷹司。お前たちが挨拶に向かって人の目がそっちに向いた時に俺は村を出てこれを届けに行く」
と告げた。
その辺りは阿吽である。
陽は頷いて立ち上がり
「お願いします」
と湯ノ沢家を出て駐在所へと戻った。
そして、そこから千成家へと向かったのである。
千成家の当主である千成久雄に挨拶をしに行ったのである。
陽が千成家の大きな門の隣にある勝手口のインターフォンを押すと女中が姿を見せた。
彼女は目を見開くと
「……あ、ああ。あの時の外の駐在さん」
と告げた。
陽は笑むと警察手帳を見せて
「覚えていてくれましたか、鷹司です」
と告げた。
彼女はチラチラと周囲を見て
「あの……」
と言いかけて背後から男性が現れて
「ああ、全国巡回駐在員の……5年前にも来られていましたね」
と告げると視線を下に向けた。
陽は男性を見ると
「確か、千成久二さんでしたね。あの時は大学生で……あれから5年大きくなられましたね」
と告げた。
千成久二は笑みを浮かべると
「どうぞ、父が待っています」
と告げた。
陽は女中の女性に
「ありがとうございます」
と笑みを見せて中に入り千成久二に
「そう言えば、駐在所へ行ったんですが多津川巡査の姿が無くて彼は巡回にでも行っているんですかね?」
と聞いた。
千成久二は足を止めると振り返り
「恐らく、そうなんじゃないですかね? 夕方には戻ると思いますよ」
と答えた。
陽は肩を上下に動かして
「そうですか、報告書も滞っていると所轄から連絡があったので予定を変更してきたんですよ」
と嘘八百を告げた。
千成久二は屋敷の戸を開けると
「なるほど」
と言い
「どうぞ」
と中へと招いた。
萬田横柄は同じ頃に村をそっと出て、山道を下り始めた。
湯ノ沢学は骨壺と遺影の前に座り
「母さんは俺の為にここを変えようとしてくれた」
と呟き
「母さんは……俺が医者になることを望んでくれたんだな」
と微笑んだ。
「俺は医者になる。父さんの時のようにただ何もしない医者を見ているだけにはなりたくない」
だから。
だから。
「俺は」
そう言って立ち上がると周囲を見回して家を出た。
陽は千成久二に案内されて大広間に入り膳の前で座っている千成久雄を見て座った。
「お久しぶりです、千成久雄さん」
千成久雄は深く頭を下げた。
「ようこそ、ご足労いただきました」




