因習の園 7
陽は玄関を上がって居間に入ると安堵の息を吐き出した青年に
「学くん、俺が来た理由を知っているね? 何があったのか教えてほしい」
と告げた。
青年は二人を見て俯いたものの大きく息を吐き出して
「鷹司さんには恩があるので」
と言い
「お茶入れるので取り合えず座って待っていてください」
と土間へと姿を消した。
萬田横柄は家の表札を思い出しながら
「湯ノ沢……学くんか。お前は知っているのか?」
と陽に聞いた。
陽は頷くと
「ええ、5年前に来た時はちょうど小学生で父親を木の伐採の事故で3歳の時に亡くして母親と二人暮らしだったんです。彼は将来医者になりたいって希望を持っていたんですけど……この村の医師は香田家と決まっているので医師になるなら村八分にすると」
と告げた。
「それで家を出て先の道……まあ5年前は舗装されていませんでしたけどその道を歩いて所謂家出をしたんですよ。小学校3年生で」
萬田横柄は驚いて
「いやいや、医師が増えるのは村にとっても良いことだろ。その家系じゃないからって村八分って理解出来ん」
と告げた。
陽は冷静に
「離島、山村、漁村……極端に閉鎖された場所ではあるんです。ここ以外にもありましたから」
と言い
「その途中で崖から足を滑らせて」
と告げた。
湯ノ沢学はお茶を入れて二人の前に座り
「鷹司さんが助けてくれたんです」
と告げた。
「小学生じゃ一人で村の外に出ても何もできないから待てと高校になってからでも遅くはないと言ってくれて母も俺が高校になったら外の高校へと約束してくれて学生寮がある長野中央高校へと通わせてくれようとしたんです」
陽は目を細めると
「……通わせようと? ってそれは」
と聞いた。
湯ノ沢学は両手をついて頭を下げると
「逃げてください! 俺、多津川巡査を助けるので一緒に逃げてください!!」
と告げた。
陽は慌てて湯ノ沢学の肩を強く掴むと息を吸い込んで吐き出し
「……学くん、顔を上げて俺を見ろ」
と告げた。
恐る恐る顔を上げた湯ノ沢学に陽は
「俺は警察官だ。監禁、それに殺人が行われたかもしれない状況で何もせずに帰ると思うのか?」
と告げた。
湯ノ沢学は陽に抱き着くように泣き出すと
「俺が、俺が悪かったんだ」
と言い
「俺は、父さんが木の下敷きになって苦しんでいるのにただ見ているだけしかできなかった。医者も何もしなかった。だから、だから、医者が必要だって……ちゃんとした医者が必要だって……だけど母さんは俺の為に千成家へ行って殺されたんだ」
と告げた。
陽も萬田横柄も驚いて顔を見合わせた。
陽は彼を落ち着かせるように少し離すと
「ちゃんと、その話を聞かせてくれ。それから、多津川巡査を助けるってことは巡査はまだ生きているってことなんだな?」
と聞いた。
湯ノ沢学は泣きながら頷き
「一週間ほど前に母さんが俺を高校へ行かせるために千成家に話をしにいってくれたんだ。だけど、夜になっても帰ってこなく……そうしたら千成家の使いの人がやってきて母さんの具合が悪くなって死んだって……母さんに会わせてもらいたいって言っても合わせてもらえなくて」
と言い
「香田は『心臓発作で病死』って死亡診断書を書いて葬儀も千成家で出すから何も気にしないようにって……俺はこの家でずっと居れるようにするから他では話をするなって」
と告げた。
萬田横柄は顔を歪めると
「そんなことがまかり通っているのか」
と呟いた。
陽は冷静に
「ここまで極端なことは少ないですが、近いことは他でも起きている」
と言い
「幾つかは報告書に上げたし、圧力に負けそうだと判断した駐在員の何人かは交代してもらったから落ち着いているところもあるけど……ここは事件も起きていなかったし、多津川巡査もしっかりしていたから」
と呟き
「けど、甘かった」
と告げた。




