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陽と月  作者: 如月いさみ
全国巡回駐在員

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因習の園 6

 二人は北陸新幹線の糸魚川駅で降りるとそこから大糸線に乗り換え緑の稜線を頂きにその下に広がる長閑な町の風景を見ながら1時間ほどの列車旅の果てに山岳地帯の一角にある白馬駅へとたどり着いた。


 駅の前には小さなロータリーがありお土産屋を兼ねた喫茶店やちょっとした食堂が数件並んでいる状態であった。


 そこから白馬山岳線という幹線が伸びており山の方へと続いている。幸いなことに白馬には観光客が多いということでロータリーにはタクシーが数台常に待機している状態であった。


 陽はタクシー乗り場に行き待っていたタクシーの運転手に

「崩沢村へ」

 と告げた。


 運転手は少し驚いたように二人を見て

「もしかして崩の親戚か?」

 と聞いた。


 陽は笑顔で

「いえ、でも知り合いがいるので」

 と答えた。


 運転手は「いや~、珍しいもんだ」と言うとドアを開けた。

 陽は萬田横柄と乗り込み

「崩沢に観光で行く人はいないし、村の人は迎えが来ているから確かに珍しいですよね」

 と笑顔で答えた。


 運転手は「そうそう」と答えながら駅のロータリーを出ると左折して少し西へと向かった。

 既に緑の峰が視界に入り、青く澄んだ空が広がっている。


 ビルは殆どなく5階建てでも高いと感じさせるくらいであった。

 陽は運転手に

「もう5、6年行っていないので村がどう変わったか分からなくて」

 と告げた。


 運転手は前を見ながら

「いや~、俺もあそこへ送迎することがないからなぁ」

 と言い

「この辺りでタクシーしてりゃぁ色んな村の噂話を聞くがあそこは全く聞かないな」

 と答えた。

「あ、いや……ここ4日前くらい崩に一台送迎が走ったって話をきいたなぁ。そこの駐在所の奥さんとお子さんを白馬まで乗せたって噂が立ってた」


 萬田横柄は冷静に

「それだけで噂が立つのか」

 と心で突っ込んだ。


 陽は笑いながら

「ってことは、俺達も噂が立ちそうですね」

 と告げた。


 運転手はアハハと笑うと

「いやぁ、兄ちゃんは面白なぁ。確かに噂が立つかもなぁ」

 と答えた。


 駅周辺の住宅街は直ぐに緑の深い林道へと変わり、所々にペンションが見える山間の様相へと切り替わった。


 その辛うじてアスファルトで舗装されただけの蛇行した道路を車は40分ほど走り、少し開けた村と言うよりは集落に近い家々が立ち並ぶ崩沢村の入口に差し掛かった。

「それでお客さんはどの家に?」


 陽は笑顔で

「ああ、駐在所の前で止めてください」

 と告げた。


 運転手は目を見開くと

「もしかして、警察の」

 と聞いた。


 陽は頷くと

「まあ、そんなもんです」

 と答え、村の入口近くにある平屋の駐在所の前にタクシーが止まると

「ありがとうございます。あ、3日後に迎えに来てください」

 と料金を払って降り立った。


 運転手はふっと笑うと

「じゃあ、3日後の正午に迎えに来ます」

 予約入れて置かねぇとな、と言うとハンドルを切り返してUターンして走り去った。


 陽はそれを見送り

「良い運転手さんに当たったな」

 と呟くと、身体を大きく伸ばして

「いやぁ、5時間は久しぶりだな」

 疲れたぁ、とぼやいた。


 萬田横柄は疲労困憊状態で荷物を担ぎ

「いやいや、鷹司は島からだからそれ以上だろ」

 若いぞ、と告げた。


 陽は笑って

「う~ん、飛行機は慣れたので、でも考えると確かにそうですね」

 と答え駐在所の扉を開けて中へと入った。


 ひんやりとした空気が足元に広がり机の上には何もなかった。陽は机の上に荷物を置くと棚からファイルを出してペラペラと捲り

「やはり、5日前で止まっている」

 と呟いた。


 つまり、奥さんと子供が立ち去った日から多津川湊は駐在所にも帰っていないということである。

 そうなると、最悪の事態を考える必要があった。


 その時、駐在所の扉をガンッと開ける音が響き

「鷹司さん!」

 と高校生くらいの青年が姿を見せた。


 陽は驚いて振り向くと

「学くんか!?」

 と聞いた。


 青年は厳しい表情で周囲を見回して

「直ぐに荷物を持ってきてください、直ぐに!!」

 と言うと慌てて荷物を持って駐在所の扉を閉めて二人を一軒の家へと連れて入った。


 萬田横柄は驚きながら家の中に入ると

「鷹司、彼は」

 と聞いた。


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