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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第96話「心核制御塔 ― βの記憶 ―」

 砂漠の夜が明けきる前、リュミエル港の東端にそびえる塔が、赤い黎明を背に光った。

 心核制御塔――古代文明の魔力循環装置。

 その内部では、ユウリたちがβの案内で中央階層へ向かっていた。


《主、内部構造は安定。だが……中枢信号に“外部干渉波”を検出。》


 βの声は淡々としているが、微かな揺らぎを帯びていた。

 ティアが眉を上げる。


「外部干渉って、また誰かがこの塔をいじってるの?」


《不明。解析中――信号形式は……古代軍事コード。》


 リアナが息を詰めた。


「まさか、ゾルドの……」


《照合率、67%。一致確度、上昇中。》


 その報告に、空気がひやりと変わる。

 ユウリは足を止め、静かに言った。


「……β。再生してみろ。何が残っている?」


《了解。心核メモリより過去ログを抽出――再生開始。》


◇◇◇


 淡い光が塔内を満たす。

 だが、記録は途切れ途切れだった。

 ノイズが弾け、映像の輪郭が崩れては再構成されていく。

 残響のように声が浮かび上がった。


『……βユニット、調整完了。人格補助構文、挿入――』


『制御成功。感情回路を限定稼働に――』


 音が歪み、低い声が混ざる。


『――エラー。人格複製構文が侵入。実験者:ゾルド・ガルバ。』


《ノイズ除去不能。信号、損傷。》


 βの声が小さく揺れる。

 ミナが不安そうに見上げた。


「β……大丈夫?」


《問題……ありません。私は、データの一部を失っただけです。》


 だがその光は、どこか悲しげだった。

 セリスが静かに口を開く。


「……“人格複製”。つまり、あなたの原型もゾルドの手で?」


《解析不能。ただし、根幹構文の一部に“ゾルド式信号”が混在。彼の思考片が、私の中にあります。》


 リアナがそっと胸に手を置く。


「……β、それは呪いじゃなく、記憶よ。あなたが彼と違うのは、“痛み”を知ってること。」


《痛み……ですか。》


 βの音声が、かすかに沈黙を挟む。

 光が揺れ、塔の壁面を走る魔導線が淡く脈打った。


◇◇◇


 突如、天井から砂塵が舞い落ちた。

 轟音。塔の外殻が震える。

 ティアが即座に構えを取る。


「来たな。主様、外から魔力反応三つ!」


《確認。敵性構造体――無人兵器群。古代軍制御下の自動防衛機。》


「ゾルドの残滓か……!」


 ユウリが構文光を展開する。

 青い陣が床に走り、風が反転するように空気が流れた。


「《改造構文・静音領域展開サイレント・フィールド》――通信妨害、解除。」


「β、支援を!」


《リンク確立。ユウリ=アークライト、主構文《コピー&改造:再定義モード》起動可能。》


 ユウリは短く頷く。


「じゃあ、見せてやるさ。お前を造った奴に――“改造師”がどう在るかを。」


◇◇◇


 外壁を破って、三機の防衛兵器が侵入してくる。

 金属の脚が石床を砕き、蒸気が吹き上がった。

 ミナが幻影を走らせる。


「幻走、展開! ティア、右から!」


「了解っ!」


 ティアの足元で雷が弾け、身体が瞬間的に前へ跳ぶ。

 掌に龍気を集中させると、刃のような衝撃波が敵を貫いた。


「《龍神烈破りゅうじんれっぱ》――!」


 衝撃で一機が壁に叩きつけられる。

 セリスが詠唱を重ね、時の光を走らせた。


「時界干渉――《結束バインドクロック》。」


 光の鎖が防衛機の関節を縛り、動きを止める。

 その隙にユウリが手をかざした。


「《改造構文:共鳴複製式レゾナンス・リプリカ》――β、構文リンク!」


《共鳴率、92%――発動。》


 青い光がユウリとβの間を走り、二つの思考が重なった。

 塔全体の構文が共鳴し、敵の装甲が一斉に軋む。

 内部回路を“上書き”する信号が走り抜けた。


「これが……俺たちの“再定義”だ!」


 瞬間、敵機の光核が反転し、金属の体が崩れ落ちる。

 すべての音が消え、静寂が戻る。


◇◇◇


 戦いが終わると、塔の中に朝の光が差し込んだ。

 砂嵐の残滓が淡く漂い、βの光体がふっと揺れる。


《主。私の内部から、新たな構文反応。おそらく……ゾルドの人格端末信号です。》


「つまり、やつの意識が……この塔に?」


《はい。ただし、断片的。彼はまだ“こちら”を観測しています。》


 ミナが小さく息を呑む。

 ティアは拳を握った。


「どこまでもしつこい奴……!」


「でも、これで確信が持てた。」

 ユウリはゆっくりと空を見上げた。

 黎明の光が塔の頂を照らし、街の影を長く伸ばしていく。


「ゾルド・ガルバ。やっぱり、まだ生きてるな。」


◇◇◇


 塔を出る頃には、陽が完全に昇っていた。

 風が乾いた砂を巻き上げ、港の方へと流れていく。

 ティアが息を吐く。


「終わったぁ……! ねぇ主様、これでしばらく休んでもいい?」


「休む前に、報告と整理だ。β、塔のデータを転送。」


《転送完了。記録を保存。……主。》


「なんだ。」


《私の中に残ったゾルドの構文片。……消去すべきでしょうか。》


 ユウリは少し考え、首を横に振った。


「残しておけ。あいつを倒す時、手掛かりになる。」


《了解。記録、保存。》


 βの光がわずかに瞬いた。

 その輝きは、どこか人間的な温もりを帯びていた。


◇◇◇


 砂丘の上で一行が立ち止まる。

 セリスが空を見上げ、瞳を細めた。


「……風が、笑ってる。」


「ほんとだ。なんか、空気が軽くなった感じする!」

 ティアが髪をかき上げて笑う。

 ミナは耳を揺らし、リアナが穏やかに頷いた。


「ええ。これでまた歩き出せますね。」


 セリスが小さく微笑む。


「……風が呼んでる。次の修復地へ。」


 ユウリは皆を見渡し、静かに言った。


「行こう。まだ“改造”の続きがある。」


 朝日が砂丘を越え、五人と一つの光体を照らす。

 その影が並び、風に揺れた。


 ――再定義者リデファイアの旅は、まだ続く。 


~第8章 完~

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