第96話「心核制御塔 ― βの記憶 ―」
砂漠の夜が明けきる前、リュミエル港の東端にそびえる塔が、赤い黎明を背に光った。
心核制御塔――古代文明の魔力循環装置。
その内部では、ユウリたちがβの案内で中央階層へ向かっていた。
《主、内部構造は安定。だが……中枢信号に“外部干渉波”を検出。》
βの声は淡々としているが、微かな揺らぎを帯びていた。
ティアが眉を上げる。
「外部干渉って、また誰かがこの塔をいじってるの?」
《不明。解析中――信号形式は……古代軍事コード。》
リアナが息を詰めた。
「まさか、ゾルドの……」
《照合率、67%。一致確度、上昇中。》
その報告に、空気がひやりと変わる。
ユウリは足を止め、静かに言った。
「……β。再生してみろ。何が残っている?」
《了解。心核メモリより過去ログを抽出――再生開始。》
◇◇◇
淡い光が塔内を満たす。
だが、記録は途切れ途切れだった。
ノイズが弾け、映像の輪郭が崩れては再構成されていく。
残響のように声が浮かび上がった。
『……βユニット、調整完了。人格補助構文、挿入――』
『制御成功。感情回路を限定稼働に――』
音が歪み、低い声が混ざる。
『――エラー。人格複製構文が侵入。実験者:ゾルド・ガルバ。』
《ノイズ除去不能。信号、損傷。》
βの声が小さく揺れる。
ミナが不安そうに見上げた。
「β……大丈夫?」
《問題……ありません。私は、データの一部を失っただけです。》
だがその光は、どこか悲しげだった。
セリスが静かに口を開く。
「……“人格複製”。つまり、あなたの原型もゾルドの手で?」
《解析不能。ただし、根幹構文の一部に“ゾルド式信号”が混在。彼の思考片が、私の中にあります。》
リアナがそっと胸に手を置く。
「……β、それは呪いじゃなく、記憶よ。あなたが彼と違うのは、“痛み”を知ってること。」
《痛み……ですか。》
βの音声が、かすかに沈黙を挟む。
光が揺れ、塔の壁面を走る魔導線が淡く脈打った。
◇◇◇
突如、天井から砂塵が舞い落ちた。
轟音。塔の外殻が震える。
ティアが即座に構えを取る。
「来たな。主様、外から魔力反応三つ!」
《確認。敵性構造体――無人兵器群。古代軍制御下の自動防衛機。》
「ゾルドの残滓か……!」
ユウリが構文光を展開する。
青い陣が床に走り、風が反転するように空気が流れた。
「《改造構文・静音領域展開》――通信妨害、解除。」
「β、支援を!」
《リンク確立。ユウリ=アークライト、主構文《コピー&改造:再定義モード》起動可能。》
ユウリは短く頷く。
「じゃあ、見せてやるさ。お前を造った奴に――“改造師”がどう在るかを。」
◇◇◇
外壁を破って、三機の防衛兵器が侵入してくる。
金属の脚が石床を砕き、蒸気が吹き上がった。
ミナが幻影を走らせる。
「幻走、展開! ティア、右から!」
「了解っ!」
ティアの足元で雷が弾け、身体が瞬間的に前へ跳ぶ。
掌に龍気を集中させると、刃のような衝撃波が敵を貫いた。
「《龍神烈破》――!」
衝撃で一機が壁に叩きつけられる。
セリスが詠唱を重ね、時の光を走らせた。
「時界干渉――《結束》。」
光の鎖が防衛機の関節を縛り、動きを止める。
その隙にユウリが手をかざした。
「《改造構文:共鳴複製式》――β、構文リンク!」
《共鳴率、92%――発動。》
青い光がユウリとβの間を走り、二つの思考が重なった。
塔全体の構文が共鳴し、敵の装甲が一斉に軋む。
内部回路を“上書き”する信号が走り抜けた。
「これが……俺たちの“再定義”だ!」
瞬間、敵機の光核が反転し、金属の体が崩れ落ちる。
すべての音が消え、静寂が戻る。
◇◇◇
戦いが終わると、塔の中に朝の光が差し込んだ。
砂嵐の残滓が淡く漂い、βの光体がふっと揺れる。
《主。私の内部から、新たな構文反応。おそらく……ゾルドの人格端末信号です。》
「つまり、やつの意識が……この塔に?」
《はい。ただし、断片的。彼はまだ“こちら”を観測しています。》
ミナが小さく息を呑む。
ティアは拳を握った。
「どこまでもしつこい奴……!」
「でも、これで確信が持てた。」
ユウリはゆっくりと空を見上げた。
黎明の光が塔の頂を照らし、街の影を長く伸ばしていく。
「ゾルド・ガルバ。やっぱり、まだ生きてるな。」
◇◇◇
塔を出る頃には、陽が完全に昇っていた。
風が乾いた砂を巻き上げ、港の方へと流れていく。
ティアが息を吐く。
「終わったぁ……! ねぇ主様、これでしばらく休んでもいい?」
「休む前に、報告と整理だ。β、塔のデータを転送。」
《転送完了。記録を保存。……主。》
「なんだ。」
《私の中に残ったゾルドの構文片。……消去すべきでしょうか。》
ユウリは少し考え、首を横に振った。
「残しておけ。あいつを倒す時、手掛かりになる。」
《了解。記録、保存。》
βの光がわずかに瞬いた。
その輝きは、どこか人間的な温もりを帯びていた。
◇◇◇
砂丘の上で一行が立ち止まる。
セリスが空を見上げ、瞳を細めた。
「……風が、笑ってる。」
「ほんとだ。なんか、空気が軽くなった感じする!」
ティアが髪をかき上げて笑う。
ミナは耳を揺らし、リアナが穏やかに頷いた。
「ええ。これでまた歩き出せますね。」
セリスが小さく微笑む。
「……風が呼んでる。次の修復地へ。」
ユウリは皆を見渡し、静かに言った。
「行こう。まだ“改造”の続きがある。」
朝日が砂丘を越え、五人と一つの光体を照らす。
その影が並び、風に揺れた。
――再定義者の旅は、まだ続く。
~第8章 完~
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