第93話「砂の都ルマニア ― 風が運ぶ影 ―」
旅立ちから七日。
海原の青がゆっくりと砂の黄金に変わり、熱を帯びた風が吹き始めた。
《再定義者》の一行は、南方航路を抜けて砂漠地帯ルマニアの外縁へ到達していた。
空は白く焼け、遠くの地平が揺らいでいる。
船を降りてから丸一日、馬車を借り、乾いた風の中を進む。
セリスが掌をかざし、魔力で冷気の薄膜を作った。
「《風路》……この辺り、昼夜の温度差が激しいわ。油断すると体力を持っていかれる」
「助かる。砂漠は苦手なんだよな」
ティアが首に手ぬぐいを巻きながらうなだれる。
「汗でベトベト……竜でも干からびる〜!」
リアナが水袋を差し出した。
「はい、少しずつ飲みなさい。一気に飲むと逆に危険です」
「……はい、先生」
「そういう時だけ素直ね」
「だって主様の前で倒れたら格好つかないもん!」
ミナが笑って、尻尾をふわりと揺らした。
「ミナも喉かわいた……でも風、好き。あったかいの」
「お前はほんとマイペースだな」
ユウリはそんなやりとりを聞き流しながら、βのホログラムを展開する。
《観測報告:前方十五キロに集落反応。交易都市ルマニアの外郭“砂門”と思われます》
「予定通りだな。日が暮れる前に着ける」
「やったー! 街だ街!」
◇◇◇
夕刻。
砂丘を越えると、地平に巨大な城壁が現れた。
太陽を背にして金色に輝く石造りの街――ルマニア。
風が運ぶ香辛料の匂いと、遠くから響く鐘の音が、活気を告げていた。
「わぁ……すごい」
ミナが目を丸くする。
通りには隊商のラクダや荷馬車が列をなし、商人たちが喧騒の中で声を張り上げていた。
熱気と人の匂いが入り混じる。まるで生き物のような街。
「活気あるな。港とはまた違う」
ユウリが周囲を観察していると、装飾布をまとった商人が声をかけてきた。
「おお、旅の方々! 初めてのルマニアですかな? 宿をお探しでしたら案内いたしましょう!」
金の歯を光らせながら、愛想よく頭を下げる。
「助かる。荷が重いんでな」
「これはこれは! どうぞこちらへ! お安くしておきますとも!」
ティアが小声で呟く。
「主様、ああいうタイプ、だいたいぼったくりだよ?」
「分かってる。けど、あえて乗る」
「えぇ?」
ユウリの視線の先――商人の袖口から覗く、微かな赤い紋様。
それは、かつて見た“赤鎖”の印に似ていた。
◇◇◇
案内された宿は、表向きは豪奢だった。
だが、裏口には見張りのような男たちが立ち、通りの奥では何やら揉める声が聞こえる。
ティアが眉をひそめる。
「ね、主様。やっぱり怪しいよ」
「ああ。……β、周囲の構文波を探れ」
《探査開始。……検出。赤鎖残党由来の信号、局地的に発信中。発信源は南区の旧倉庫街》
「やっぱりか」
リアナが顔を曇らせた。
「彼ら、まだ残っていたのですね……」
「完全に潰したと思っていたが、砂の中で息を潜めていたか」
セリスが目を細める。
「なら、この街で動いている“何か”も、ゾルドの影かもしれない」
「……可能性はある」
その時、宿の外で怒号が上がった。
「離せっ! 俺たちはただ荷を運んでるだけだ!」
「黙れ、貴様ら“部外者”が勝手に商売できると思うな!」
ユウリたちが外に出ると、砂商隊の青年たちが数人、黒衣の男たちに囲まれていた。
荷馬車の横には、砕けた木箱と散乱した果実。
街の警備兵は見て見ぬふりをしている。
ティアが拳を鳴らした。
「主様、出番じゃない?」
「……まだ我慢」
ユウリは一歩前に出て、黒衣の男たちに声をかけた。
「その荷はどう見ても隊商のものだ。何の権限で取り上げる?」
「貴様には関係ない。黙って引っ込んでいろ」
男が胸を張り、腰の剣に手をかけた。
その瞬間、ティアの髪がふわりと揺れた。
「主様が言葉で済ませようとしてるのに、無視するの?」
「やめろティア」
「……殴るだけ!」
次の瞬間、閃光。
ティアの拳が男の腹を撃ち抜き、壁に叩きつけた。
砂煙が上がる。
「な、なにっ……この女……!」
「うるさい!」
怒鳴り声をかき消すように、ミナが動いた。
幻影が走り、黒衣の男たちが視界を失う。
「《幻走》――いまのうち!」
数秒後、男たちは一斉に崩れ落ちた。
静寂。
街の人々が息を呑んで見守る中、ユウリがゆっくりと歩み出た。
「β、記録。赤鎖の紋章確認」
《確認済み。組織名――“砂鎖”。赤鎖の派生組織》
「……砂に紛れて生き延びたか」
セリスが冷たい声で呟く。
「ユウリ、どうするの?」
「決まってる。――潰す。だが、根を掴んでからだ」
リアナが頷く。
「では、私は情報収集を」
「ミナと一緒に行け。姿を隠せる方がいい」
「了解!」
ティアが手を挙げる。
「主様、ボクは?」
「お前はセリスと一緒に外郭を回って、戦力を確認してこい」
「了解!」
「風を読めば敵の配置も掴めるわ。任せて」
四人が散開し、ユウリはひとり宿の屋上に上った。
砂の都の夜風が吹く。
星々が滲み、砂嵐の向こうにぼんやりと赤い光が瞬いた。
《観測ログ:遠隔信号を検出。ゾルド・ガルバ式通信波形と一致》
「……やはり来たか」
空気が震える。
βの光が乱れ、幻のような“声”が響いた。
《――ユウリ・アークライト。やはり、貴様もここに来たか》
ゾルド・ガルバ。
蒼く発光する片眼を持つ“古代改造兵”。
姿はまだない。
けれど、確かに“干渉”は始まった。
「お前の残骸は全部、俺が直してやる。覚悟しておけ」
ユウリの声に、砂風が応えるように唸った。
ルマニアの夜が、静かに戦いの匂いを孕み始めていた。
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