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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第90話「鋼の亡霊 ― アイアン・コア暴走」

 港の朝は、異様な静けさに包まれていた。

 昨日までの喧騒が嘘のように消え、波の音だけが響く。

 だがその静けさの下で、街の地盤がわずかに震えていた。


《主、異常振動検出。港湾下層構造から高出力の魔導反応》

 βの報告にユウリは頷き、視線を海辺へ向ける。

 波の隙間に、微かに赤い光が漏れていた。


「……地下で、まだ何か動いてるな」

 ティアが歯を鳴らす。

「まさか、昨日の奴らの仲間?」

「違う。もっと深い。“基盤”そのものが生きてる」ユウリの声は鋭かった。


 ミナが耳を立て、地面に手を当てる。

「……下から、鉄の鼓動みたいなのがする。……大きいの」

「鼓動?」リアナが眉を寄せた。

「まるで“心臓”があるみたいだ」


 セリスが杖を掲げ、詠唱を短く走らせる。

「《精霊視界エレメントサイト》――開示」

 翠色の光が視界を満たし、港の地面に巨大な円陣が浮かび上がった。

 そこに刻まれていたのは、昨日のオートマトンを制御していた回路の拡大版。

 しかも、中心には――ゾルドの印。


「ゾルドの……?」ティアが顔をしかめる。

《確定。改造構文基底式、ゾルド・ガルバ署名コード一致》

 βの声が港の空気を震わせた。

「ガルスじゃない。こいつは――ゾルドそのものだ」ユウリの表情が一瞬だけ険しくなる。


◇◇◇


 轟音。

 海が裂けた。

 水柱が上がり、鉄の柱が海中から伸びる。

 まるで巨大な歯車の群れが地底から浮上するように。


 港の人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。

 波止場が沈み、桟橋が折れ、鉄の腕のような機械構造物が街を貫いた。


「逃げろォォッ!!」

「港が……動いてる!?」


 ティアが跳び上がり、拳に炎をまとわせる。

「主様、もう待てないっ! ぶっ飛ばしていい!?」

「いい。ただし制御核を壊すな。情報を抜く」

「了解っ!」


 ティアが炎の竜を纏い、海上へ跳ぶ。

 空気が爆ぜ、波しぶきが爆風に変わった。


 リアナが結界を展開し、港の住民を包み込む。

 ミナは屋根の上を駆け、制御回線を切断していく。

「回路、いっぱい繋がってるっ! こっち切っても、また動くのっ!」

「ゾルドの再帰式構文だな。自己修復型だ」ユウリが低く呟く。


《提案:改造構文“多層干渉型”の使用を推奨》

「よし――やるか」


◇◇◇


 ユウリは両手を地面に叩きつけた。

 構文陣が走り、光が港全体に広がる。

 魔力の流れが逆転し、地面が唸る。


「《改造構文:流体干渉領域展開フローディスラプト》」

 瞬間、港の金属構造が軋んだ。

 ガルスが仕掛けた回路が強制的に逆流し、波動が反転する。


 セリスがすかさず補助構文を唱える。

「《共鳴拡張・翠律エメラルドリンク》!」

 ユウリの構文に彼女の魔力が重なり、青と緑の光が交差した。


 ティアが叫ぶ。

「うわ、なんかカッコいいっ! これ、名前つけようよ!」

「今は戦闘中!」リアナが叱る。

「じゃあ終わったら考えるー!」


 その明るさの裏で、鉄の巨構が再び吠えた。

 内部から声がした。

『――認識:改造師ユウリ・アークライト。プロトコル起動。人格模倣・ゾルド・ガルバ・モードA』


 空気が凍りつく。

 ティアの拳が止まった。

「い、今……ゾルドって言った?」


 ユウリの瞳に冷たい光が宿る。

「人格複製体か……まさか、データを残してたとはな」

『ユウリ・アークライト。貴様の“修理”は甘い。秩序は痛みによって完成する』

 機械の声が、まるでゾルド本人のように響いた。


 ユウリはゆっくり立ち上がり、手のひらを掲げた。

「……お前の“秩序”は歪みだ。世界は命令で動かすもんじゃない」

『では証明してみせろ。お前の改造が――“秩序”を超えるか』


◇◇◇


 鉄の巨体が動き出す。

 桟橋を砕き、海を割り、腕のような構造物が空へ伸びた。

 ティアが跳び、炎の拳を叩き込む。

「《龍神烈破りゅうじんれっぱ》――ッ!!!」

 炎の爆発が港を照らす。

 だが巨体はびくともしない。


「やっぱり……強いっ!」

「当たり前だ。ゾルドの系譜だ」ユウリの声が低く響く。


 セリスが横から詠唱を重ねる。

「《時界干渉・結束バインドクロック》!」

 時間が一瞬止まり、巨体の動きが鈍る。

 その隙にユウリが駆け出した。

「β、制御核の位置を!」

《座標確定。中枢動力炉、胸部第七構造層》


「ティア! ミナ! 俺を投げろ!」

「了解っ!」

 ティアとミナが同時に頷き、ユウリを弾丸のように放り投げた。

 風が裂け、青い構文光が尾を引く。


「《改造構文――心核穿孔式ハート・ドライヴ》!」

 拳が鉄を貫き、光が爆ぜた。

 衝撃波が空を割り、港全体が光に包まれる。


◇◇◇


 光が消えたあと、そこに残ったのは沈黙だった。

 海の上に浮かぶ瓦礫。

 鉄の巨構は崩れ、動きを止めている。


 ユウリは肩で息をしながら、倒れた金属の表面に手を置く。

 その奥から、微かに声がした。

『……修理者、か。ならば、お前に託そう。秩序の“後継者”として――』

 光が消え、機械の心臓が止まった。


 βが静かに報告する。

《人格信号、完全消失。ゾルド・ガルバ複製体、無力化》


 ティアが肩に拳を乗せて笑う。

「ふぅー! やっぱ主様、かっこよすぎ!」

 ミナも満面の笑顔で頷いた。

「主様、最後のやつ……光、すごくきれいだった」

 リアナは小さく祈りを捧げ、セリスが風に髪を揺らしながら呟く。

「……これで、港は“再生”しますね」


 ユウリは海風を受け、遠くの水平線を見た。

「いや、まだだ。ゾルドは消えちゃいない。……影は、世界のどこにでも残る」


 ティアが拳を掲げた。

「じゃあ全部、ぶっ壊して直そ!」

 ユウリは笑った。

「そうだな。壊す前に、直してやる」


 朝陽が昇る。

 港の海面が金色に光り、潮風が彼らの髪を揺らした。

 その背には――新しい旅の予感。



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