表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/120

第89話「歪んだ模倣 ― ギルド《アイアン・コア》」

 翌朝のリュミエル港は、戦いの余韻を飲み込みながらも、再び動き始めていた。

 波止場には木槌の音と怒鳴り声が響き、海鳥が瓦礫の上をついばむ。

 昨日まで焦げついていた空気に、鉄と油の匂いが混ざる。


 ティアが目を細めて言った。

「……なんか、修理ってより“実験”してるみたい」

 港の一角、崩れた桟橋の先で、黒い作業服の男たちが奇妙な工具を使っていた。

 先端が光り、空気が震える。普通の職人の道具ではない。


 セリスが小声で呟く。

「感じます。魔力の流れが……異様です。自然じゃない、人工的な干渉です」

 彼女の掌の上に微光が集まり、空中に淡い紋様が浮かぶ。

 それは、かすかにゾルドの魔導回路に似た波形だった。


 ユウリは眉をひそめた。

「構文の走り方が……俺の改造構文と似てる。けど、歪んでるな」

《解析開始。構文式一致率41%。出典:ゾルド・ガルバ式改造術》とβの声が淡く響く。


 ティアが振り返った。

「ゾルド……また、あのやつ?」

「正確には“ゾルドの技術を模倣してる誰か”だ」ユウリの声は低く静かだった。

 彼の指先で光が走り、残留構文をスキャンする。

「――誰かが、奴の思想を引き継いでる」


◇◇◇


 午後、港湾ギルドの会議室。

 厚い板張りの机の向こうには、アイアン・コアの代表ガルス・マードが座っていた。

 油に汚れた作業着、だが胸元には光る歯車の徽章。

 笑みは柔らかく、瞳だけが氷のように濁っている。


「私たちはただ、港を再建しているだけです。古代技術の再利用は、公式に許可を得ていますよ」

 彼は穏やかに言いながらも、どこか人を値踏みするような視線を向けてきた。


「ゾルド・ガルバの構文を使ってるな」ユウリが切り出す。

「偶然ですよ。技術は人類の財産だ。似ることもある」

「偶然、ね」ユウリの目は細い刃のようだった。


 ティアが机に手をつく。

「偶然でこんなもの作れるかっての!」

 だがユウリは片手で制した。

「ティア、下がれ」

 静かな一言に、ティアは唇を噛んで黙った。


 リアナが落ち着いた声で尋ねた。

「ガルスさん。あなた方の動力炉、魔力流の構成が通常とは違います。なぜ改造を?」

「効率化です。古い方法にこだわっていたら、街の再建など間に合いません」

「でも、“魂の波形”を組み込む必要はないはずです」セリスの声が鋭く刺さる。


 一瞬、ガルスの口元が歪んだ。

「――あなた方は“古い倫理”に囚われている。

 私は、世界を進化させているだけですよ」


 その一言で、ユウリの中の何かが冷たく動いた。

「……進化、ね。ゾルドも同じことを言っていた」


◇◇◇


 夕暮れ。

 港の光が赤く染まり、海が血のような色を帯びていた。

 ティアは堤防に腰かけ、串焼きをかじる。

「主様、あいつ絶対怪しいよ!」

「……ああ、間違いない」ユウリは短く答える。


 ミナが尻尾を揺らしながら言った。

「でもね、あの人、少しだけ“悲しい匂い”がしたの。人間の、泣きたい時の匂い」

 セリスが目を伏せる。

「それは……魂が壊れかけている時の波です。模倣構文を使いすぎると、自我が削れる」


 リアナが両手を胸に重ね、祈るように呟いた。

「つまり彼は、自分の中の何かを“捨てた”のですね」

「捨てたんじゃない。“塗り潰した”んだろう」ユウリの声が沈む。

「人格を複製し、命令を刻み込む――ゾルドの《人格複製エゴ・コピー》の派生技術だ」


《補足:ガルス・マードの神経波形に一致パターンを検出。人格干渉の可能性大》

「つまり、もう“本人”じゃないってこと?」ティアが眉をひそめる。

「半分な。残りの半分はゾルドの残響だ」


 潮風が吹き、港の灯がゆらめいた。

 ユウリは立ち上がり、手袋を締め直す。

「……夜になったら動くぞ」


◇◇◇


 深夜。

 港の裏通りは、潮と油の匂いでむせかえるほどだった。

 βが低く告げる。

《熱源反応検出。倉庫区画C-07、動力炉稼働中。登録外作業》


 ユウリは外套のフードを深く被る。

「セリス、結界を張れ。ティア、陽動。ミナは屋根から監視」

「了解!」

「任せて!」


 リアナがそっと祈りの印を結ぶ。

「ユウリ様、加護を」

「いらないよ。俺の手で直す」


 静寂を切り裂くように、構文光が広がった。

《改造構文・静音領域展開サイレント・フィールド

 周囲の音が一瞬で消え、夜が凍る。


 倉庫の扉を開いた瞬間、眩い光が弾けた。

 内部に並んでいたのは、金属の巨体――十体の人型機械。

 鎖のような配線が天井に繋がり、胸部では赤い光が脈動している。


「まさか……オートマトン?」セリスの声が震えた。

《分類:ゾルド式人格端末。内部に人格データフラグメントを格納》


 ティアが叫ぶ。

「これ、動いてるよっ!」

 その瞬間、鋼の瞳が赤く点灯した。


◇◇◇


 轟音。

 鉄の腕が振り下ろされ、床が砕ける。

 ティアが炎を纏って跳び上がり、拳で受け止めた。

 ミナが屋根から滑り込み、幻走の軌跡を描く。

「主様、こいつら……怒ってるの!」

「怒りじゃない。命令だ」ユウリが低く答える。


 βが警告を飛ばす。

《構文コア発熱上昇。人格複製フラグメント、暴走状態》

「止めるぞ。壊すんじゃない、“解く”んだ!」


 セリスが杖を掲げ、翠の光が弧を描いた。

「《森羅律動しんらりつどう》――解け、偽りの魂!」

 木の葉のような魔力が舞い、鉄の体を包む。

 その隙にユウリが構文を重ねる。


「《改造構文:信号上書き・抑制式》」

 光が交錯し、倉庫全体が震えた。


 リアナの祈りが響く。

「――どうか、還ってください。あなたが奪われた心の場所へ」


 ティアの炎が一気に爆ぜ、ミナの幻が揺らめく。

 金属の巨体が次々に膝をつき、赤い光が消えていく。


◇◇◇


 最後の機体が沈黙した時、夜明けの光が差し込んだ。

 港の海面が、薄桃色に揺れている。

 ティアが大きく息を吐き、額の汗を拭った。

「ふぅー……主様、あいつら、壊さないで止めたの?」

「ああ。……まだ“人の作ったもの”だからな」


 セリスが静かに頷く。

「あなたは、優しい改造師ですね」

 ユウリは少しだけ笑った。

「優しいのは違う。俺は、壊すのが下手なだけだ」


 βの光が淡く瞬く。

《解析終了。人格データの残滓を追跡中……座標検出。発信源は、アイアン・コア本部》


 ユウリの目が鋭く光った。

「……やはり、次は“本丸”か」


 波が砕ける音がした。

 海風が彼らの髪を揺らし、朝の匂いが広がる。

 ゾルドの影はまだ消えていない。

 だが、それでも――

 彼らの歩みは、止まらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ