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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第87話「風を裂く声 ― 港に潜む“異風”」

「潮の匂い……懐かしいですね」

「ボク、こういう街好き! なんか“冒険の入口”って感じ!」

「静かで、でも広い。風が、笑ってる」

「港はいい。行き交う船が、次の旅を呼んでるみたいだ」


白い帆が並ぶ埠頭に、潮風が吹き抜けた。

セリスが長い緑髪を指で押さえ、目を細める。

ティアは荷車を押しながらはしゃぎ、ミナは波を眺めて尻尾を小さく揺らしている。

リアナが微笑み、ユウリは海図を広げていた。


港町リュミエル――南への玄関口。

グランテールでの戦いを終えた彼らは、ようやく次の目的地へ向かう準備を整えていた。


「主様、宿はどうする?」

「ティアとミナで先に押さえておけ。安くて人通りの多い場所を選べ」

「りょーかい! 主様は?」

「俺は少し、港の整備所を見てくる。船の修理技術が気になる」


ティアとミナが元気よく駆け出し、リアナはその後ろ姿を見送って笑った。

傍らで、セリスが小さく首を傾げる。


「……ユウリ、もしよければ、私もご一緒していいですか?」

「構わない。船に興味があるのか?」

「ええ。人の作る“器”って、少し魔法に似ています。

 壊れても、もう一度浮かせる――そんな意志を感じるんです」


ユウリは短く頷き、地図を畳んだ。


二人は石畳の坂道を下り、港の外れにある整備所へ向かう。

潮風に混じって油の匂いが漂い、槌音と職人たちの掛け声が響いていた。

セリスは物珍しそうに目を輝かせ、木材を削る職人をじっと見つめる。


「……人の手で、こんなに緻密に形を作るんですね」

「魔法の術式より正確だ。精度を誤れば、船は沈む」

「だから、“改造師”なんですね。あなたの力も、似た理屈ですか?」

「俺のはもっと雑だよ。人の理を組み替えてるだけだ」

「……でも、優しい理です。触れると、温かい」


風が吹き抜けた。

セリスの髪が流れ、ユウリの外套がなびく。

言葉が途切れ、波の音だけが残る。


「セリス」

「はい」

「お前は、どうして俺たちの旅に?」

「理由は……ひとつじゃありません。

 でも、あなたが“壊す”よりも“直す”選択をするのを見て、確信しました。

 私はあなたの側で、それを見届けたい」


「……そうか」

ユウリの声は短く、しかし柔らかかった。


その時、背後で金属が弾けるような音が響いた。

作業台の奥、風見の塔の影から黒煙が立ち上る。

職人たちが叫び声を上げ、工具を放り出して走る。


「火薬庫がっ!」

「圧力弁が壊れた! 蒸気弾が暴発するぞ!」


ユウリが一瞬で構文を展開する。

「《改造構文・局所圧縮領域パーソナル・ストレージ》――解除!」

青い光が走り、空間から制御板を取り出す。

爆発の寸前、彼は部品に手をかざし、式を書き換えた。


「《流圧構文・断層制御》!」

空気の層が一瞬で弁を包み込み、内部の圧力が霧散する。

破裂音が止み、白い蒸気だけが立ちこめた。


「……止まった?」

「弁の調整が甘かっただけだ。誰かが触った跡がある」

「誰か……?」


セリスが振り向いた瞬間、黒い外套の男が屋根の上を走り抜けた。

仮面で顔を覆い、銀色の装置を抱えている。


「ユウリ!」

「ああ、見えた。逃がすな!」


ユウリが飛び出すと同時に、セリスが手を翳す。

「《時流干渉・風路》!」

足元の風が渦を巻き、二人の体を押し上げた。

跳躍。

屋根瓦の上に着地し、仮面の男を追う。


「こいつ、ただの盗人じゃない……!」

「動きが機械的だ。人間じゃないかもしれん」


男の腕の関節が異様な角度に曲がり、金属音を立てた。

背中の装置が蒼く光る。

高熱の蒸気弾が放たれ、屋根の一部が吹き飛ぶ。


「ッ――下がれ、セリス!」

「《結界術・風壁》!」


衝撃波を受け、二人は瓦を蹴って反転する。

風と炎がぶつかり、火花が散った。


耳元でβの声が響く。

《解析完了。対象は人造体。構造式、既存記録の“ゾルド技術系列”と一致》

「……また“ゾルド”か」

《はい。古代文明シェルダ期の改造兵技術と同系統。以前検出した信号データと酷似》

「奴の手が、もうここにまで届いているというわけか」

セリスが静かに頷く。

「気配が、普通の人ではありません……冷たいのに、痛い」


ユウリは手を掲げた。

「なら、修理じゃなく破壊だ。《再定義構文・断層展開》!」

光が弾け、屋根全体を覆う構文陣が浮かぶ。

男が咆哮を上げ、腕を振りかざす。

爆音と共に蒸気が弾け、屋根が崩れ落ちた。


瓦礫が飛ぶ。

風がうねる。

そして、二人の視線が交わる。


「ユウリ、合わせます!」

「行くぞ、セリス――!」


風と光が重なり、爆炎を押し返した。

煙の中、蒼い閃光が走る。

構文光が人造体の胸部を貫き、装置が爆ぜた。

残骸が崩れ、空へ白い蒸気だけが昇っていく。


港に静寂が戻る。

遠くで船鐘が鳴り、波の音がまた戻ってきた。

セリスが息を整えながら呟く。


「……これが、“ゾルド”の影……」

「ああ。名前だけの亡霊かと思っていたが、もう動いている。放ってはおけない」

「なら、また旅が続くんですね」

「そうだ。止まっていられる時間なんて、今はもうない」


ユウリは潮風を受けながら、遠くの水平線を見つめた。

その横顔を見上げ、セリスはそっと微笑む。


「……風が、あなたの背を押してます」

「だったら、吹くままに進もう」


白い帆が翻り、港の鐘がもう一度鳴った。

新しい旅の音が、確かに始まりを告げていた。

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