表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/120

第85話「港にて ― 改造師とエルフの午後 ―」

 港町リュミエル。

 潮の匂いと、人の声と、船の音が入り混じる。

 グランテールを出て数週間。

 ユウリたちは旅の途中、嵐に遭い、流れ着くようにこの港へ辿り着いた。


 石畳には海のしぶきが跳ね、白い鳥が空を横切る。

 帆船のマストが軋み、船員たちが縄を引く掛け声が響いていた。


「……久しぶりに、にぎやかな場所だな」


 ユウリが呟くと、隣でセリスが小さく頷いた。

 エルフの耳に潮風が触れ、長い緑の髪がふわりと揺れる。


「……風の匂いが違う。ここは、人の声が生きてる」


 セリスは目を細めた。

 その瞳には、どこか懐かしさと憂いが混ざっていた。


 ティアたちは荷物の整理と宿探しを引き受け、別行動を取っている。

 港のざわめきの中、残ったのはユウリとセリスの二人きりだった。


「セリス。少し歩こうか」

「……うん」


 二人は波止場沿いの市場へと向かう。

 魚の匂いと、焼いたパンの香りが交互に流れてくる。

 小さな屋台が立ち並び、旅人や商人が笑いながら品物を売り買いしていた。


 ユウリが立ち止まり、干し魚の串を二本買う。

 一本をセリスに差し出した。


「味は保証しない。港の屋台だしな」

「……ユウリが選んだなら、きっと大丈夫」


 そう言って、セリスは静かに受け取った。

 一口食べたあと、わずかに眉をひそめ、すぐ笑う。


「……少し塩辛い。でも、風の味がする」

「塩気の強さは港の誇りだ。俺は好きだな」


 潮風が吹き抜け、セリスの髪を揺らす。

 その光景を見つめながら、ユウリはふと呟いた。


「……お前、表情が柔らかくなったな」

「そう、かな」

「最初に会った時は、氷みたいだった」

「……千年、独りでいたら、誰でも氷になるよ」


 言葉は淡々としていたが、どこか照れの色が滲んでいた。

 ユウリは苦笑し、肩をすくめる。


「改造師って職業柄、壊れたものを見るのは慣れてる。けど……凍ったものを溶かすのは、けっこう難しいな」

「……でも、あなたは“壊さずに直す”」


 セリスの声は、風に混じって柔らかく響いた。

 少しの沈黙。

 港の波が、静かに桟橋を叩いている。


「……ねえ、ユウリ」

「ん?」

「あなたは、なぜ“改造師”を選んだの?」

「……選んだ、というより、気づいたらそうなってた。昔、誰かに壊されたものを見て……“直したい”って思っただけだ」

「誰か?」

「もう名前も顔も覚えてない。でも、それを放っておけなかった」


 セリスは短く息を吐いた。

 潮風に混じって、かすかに花の香りがした。

 港の片隅、露店の花屋で白い花が揺れている。

 セリスが歩み寄り、ひとつ摘んだ。


「これは、“風の灯花”」

「……珍しいな。人の町で見るのは初めてだ」

「エルフの森では、別れの時に渡す花。でも、ここでは――」

 セリスはユウリの方を見た。

「――“再会”の意味を持つみたい」


 風が二人の間を通り抜けた。

 ユウリは一瞬だけ言葉を探し、それを受け取る。


「じゃあ、次にまた会う時まで、預かっておく」

「……うん。でも、あげる」


 セリスは微笑んだ。

 その笑みは、氷が溶けて流れる瞬間のように静かで、温かかった。


◇◇◇


 港の外れ、小さな灯台の下。

 波音が近く、街の喧騒が遠い。


 セリスが風に髪をなびかせながら、ぽつりと呟いた。


「……人の町は、いいね。誰かが壊したものを、誰かが直してる。終わらない、改造の連鎖」

「それが人間の強さだと思う」

「ユウリも、そう思う?」

「“直す”ってのは、“もう一度信じる”ことだ。人も街も、どっちもな」


 セリスはしばらく黙っていた。

 そして、ほんの小さな声で言った。


「……好きだよ、そういう考え方」


 ユウリは驚いたように彼女を見る。

 だがセリスは、まっすぐ海を見ていた。

 その横顔に、淡い光が差していた。


◇◇◇


 その頃、港の反対側では、ティアたちが宿の看板を一つひとつ覗き込みながら歩いていた。

 潮風が路地に吹き抜け、看板の鎖をきぃきぃ鳴らす。夕陽が赤く建物の壁を染めていた。


「う〜ん……どこも満室だねぇ」

 ティアが背伸びして覗き込み、尻尾をくるりと揺らす。

「主様とセリスさん、遅いね〜。もしかして……」


 ミナが耳をぴんと立てて首をかしげる。

「……デート、だと思うの」

「え、デ、デート!? ボク、聞いてない! そんなの反則じゃん!」

「セリスねぇ、顔、赤くなってたもん」

「うぅ〜〜! やっぱり! エルフってずるいなぁ……! 静かにしてるのに、気づいたら距離詰めてるタイプだよあれ!」


 通行人がくすりと笑って通り過ぎ、リアナが小声で注意した。

「ティア、落ち着いて。ここ、港のど真ん中です。耳まで赤いですよ」

「だってぇ〜! 主様が他の女の子と風とか感じてるの、なんか……モヤモヤするっ!」

「……風を感じてるって表現がもう嫉妬です」

「ミナは?」

「ん。ミナは、主様が笑ってるなら嬉しいの。セリスねぇも、ちょっと寂しそうだったし」

「むぅぅ〜……ミナちゃん、天使かぁ……」

 ティアが項垂れると、リアナがため息をついた。

「もう少しで宿を見つけますから、気を紛らわせてください」


 その時、βの声が耳元から静かに割り込んだ。

《観測報告。主と対象セリス、現在海辺で“穏やか”な状態》

「えっ!? 穏やか!? どんな穏やか!? 距離どのくらい!?」

《解析中……およそ五十センチ以内。感情波動、安定。好感度、緩やかに上昇中》

「βぁぁああああああっ!! 解析やめなさーーい!!」

 ティアの絶叫が港の通りに響いた。

 通りすがりの猫がびくりと跳ねて逃げ、ミナが「かわいそう……」と呟く。


 リアナは額を押さえ、βに冷静に尋ねた。

「β、観測対象は必要最低限にしてください。今は“プライベート時間”です」

《了解。ただし、マスターの安全監視を優先します》

「……ええ、なら仕方ありませんね」

「いやいやいや、仕方ないじゃないから! なんで恋愛解析が標準機能みたいに装備されてるの!?」

《恋愛? 分類不明。感情リンク波動の成長過程を観測しているだけです》

「説明が余計に恥ずかしいのっ!」

 ティアは頭を抱えて地団駄を踏み、ミナとリアナが顔を見合わせて笑う。

「……ティアねぇ、かわいい」

「えっ!? かわいくない! ボクは真剣なんだから!」

「はいはい、真剣なティアねぇ、宿を探すのを手伝ってください」

「うぐぅ……リアナさんのツッコミ、最近きっつい〜」


 その直後、港の角を曲がった先で、ようやく“空きあり”の札を見つけた。

「やった! ここ空いてる! ね、ミナ、リアナさん!」

「うん。看板が光ってる」

「では決まりですね。β、主に通信で宿確保の報告を」

《了解。……通信接続――主、聞こえますか。ティアが嫉妬で暴走寸前です》

「ちょっとぉぉぉ!? 報告内容が歪んでるぅぅ!!」


 その声は港の喧噪にかき消され、夕陽の中に溶けていった。

 リュミエルの風は、そんな彼女たちの笑いを柔らかく運んでいった。


◇◇◇

 夕刻。

 灯りがともり始めた港に、二人の影が戻ってくる。

 セリスの指先には、あの白い花。

 ユウリの胸元にも、小さく飾られていた。


「宿、決まりましたよ」

 リアナが出迎え、ティアは口を尖らせた。

「遅い〜! 主様、浮気禁止!」

「浮気じゃない。打ち合わせだ」

「デートの打ち合わせ!?」

「違う」


 ミナがくすくす笑って、セリスを見上げる。

「セリスねぇ、笑ってる」

「……うん。笑ってるの、久しぶり」


 港に夜が降りて、潮の匂いが濃くなる。

 波の音と灯火が、静かに彼らを包んでいた。

 ――旅は、まだ始まったばかりだった。


◇◇◇


 その夜。

 宿の二階のベランダに、ティアの姿があった。

 潮の香りを含んだ夜風が髪を揺らし、遠くの灯台が海を照らしている。

 港のざわめきが静まり、代わりに波の音が優しく響いていた。


 ティアは手すりに肘をつき、空を見上げる。

 星がちらほらと滲み、まるで海面に浮かぶ光の群れのようだった。


「……はぁ〜〜、主様、セリスさんと何話してたんだろ」


 小さく唇を尖らせる。

 尻尾がしゅるんと揺れて、すぐにまた風に溶けていった。


「別に……別にヤキモチとかじゃないけどっ。

 ボクだって、主様のこと、ずっと見てきたんだから」


 ひとりごとのように呟く声は、夜気に溶けるように静かだった。

 下の階からは、ミナの「おふろあったかい〜」という声と、リアナの笑い声が微かに聞こえる。

 そんな生活音が、胸の奥のざわめきを少し和らげていく。


 ティアはぐっと両手を握りしめた。


「……ううん。次は、負けないもん」


 その瞳が、星明かりを映して光る。

 尻尾がふわりと揺れ、夜風がそれを撫でていった。


 ――そして彼女は、誰にも聞こえない声で、そっと言った。


「主様、だいすき……」


 潮風がその言葉をさらって、静かな海の向こうへ運んでいった。

 灯台の光が一度瞬き、リュミエルの夜はゆっくりと深く沈んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ