表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/122

第83話「咆哮する空 ― 風を喰らうもの ―」

 世界がちぎれたみたいに、視界が分かれた。


 ティアとミナは上層の渦の中、風喰いの胸元付近。

 リアナとセリスは船の上、下層の安全圏ぎりぎり。

 そしてユウリは――渦の奥にひとりで引きずり込まれていた。


 アルシェ号の甲板にしがみつきながら、セリスが空を見上げる。


「……見える。ティアとミナ、まだ動いてる! でもユウリが……!」


 リアナは両手を胸の前で重ね、祈りの結界を維持していた。

 ここはまだ呼吸ができる。ユウリの構文リグ・ウィンドが風を逃さないように固定したからだ。


 でも、それは逆に言えば――あの上にはもう、まともな空気がないということでもある。


「ティアは勢いでどうにかします。でも……ユウリ様が今動けないのなら、サポートなしであの怪物に勝てない」


 セリスの手が少し震える。


「……わたし、風を繋ぎたい。あの子たちのところまで。でも、あそこは風そのものが食べられてる。送ろうとした風が、途中でちぎれる」


「じゃあ、逆にしましょう」


 リアナが目を開いた。


「新しい風を送るんじゃなくて、“あの子たち自身の風”を、こちらに繋ぐのは?」


 セリスがはっとした。


「“こちら側と同じ場”に繋ぎ直す……? それなら……届く。届くかもしれません」


「なら、やってください」


 リアナは微笑み、しかし声色は強い。


「わたしたちの仲間は、あの嵐の中にいるんです。孤立はさせません」


「……了解」


 セリスは目を閉じ、深く息を吸い、吐いた。


 彼女の声が、静かに風に混ざる。


「――聞こえる? ティア。ミナ。あなたたちの場所、こっちに繋げるから」




 上層の渦。


 雷の白と、嵐の黒と。

 そのど真ん中で、ティアが拳を構えて立っていた。


 背中に、ミナがぴたりと付いている。


「ティアっ、こっち左! あいつの渦、回転ズレた! 今なら近づける!」


「了解っ!!」


 ティアは風喰いに向けて足を踏み出す。


 足元の空間ががくんと沈む。そこはもう地面でも空でもない。ただ吸われるだけの場所。落ちたら最後、力ごと吸い潰される。


 だがティアは止まらない。


 燃えろ、じゃない。


 燃えてなくてもいい。


 “燃やしたい”って気持ちだけは、絶対に吸わせない。


「おい風ドロボー! ボクの力勝手に飲んで美味しいかぁぁぁッ!? そういうのはねぇ! 泥棒って言うんだよぉぉッ!!」


 ティアの拳が走る。


 風喰いは竜のかたちをしていた。

 翼はない。代わりに全身から渦が噴き出し、肉の代わりに嵐が詰まっている。

 胸の中心――そこだけ、回転が逆。そこが心臓だ。


「ティア、そこ! そこ叩けば“効く”の!」


「任せてっ!」


 拳が、風喰いの胸を撃つ。


 ドン、と鈍い衝撃が走った。


 風喰いの表面が一瞬だけ揺らいで、渦が割れた。

 黒い霧の下から、灰色の核みたいなものがのぞいた。

 まるで古い魔導器の一部。鉄と骨が混じったような、嫌な色。


 ティアが目を細める。


「……あんた、ただの嵐じゃないんだね」


 ミナの声が低くなる。


「作られてる。これ、生き物じゃないよ。生かされたもの」


 風喰いが口を開いた。


 音はない。だけど明らかに“吠えた”。


 その吠えで、世界が軋んだ。


 ティアの膝がぐらつく。


「くっ……! なにこれ、頭の中から引っ張られる……!」


「ティア、耳ふさいで! 今の“声”、力まで吸ってくるの!」


「へ? 声で吸うの!? そんなのアリ!?」


「アリだったの! いま食われかけたの!」


「のぉおおおおお許さなあああああいッッ!!」


 ティアが吠えて再び飛び込もうとしたその時。


 ミナの耳が、ぴんと跳ねた。


「……きこえた」


「え?」


「ティア、いま、セリスの声聞こえたの」


 ティアは目を丸くした。


「ここまで? だって風、全部吸われてるのに」


「ちがう。風じゃなくて“つながり”で来てる。セリス、こっちに道つくってくれてるの」


 ふっと、ティアの胸が軽くなった。


 それはほんの少しのことだ。

 でも、そのほんの少しが、彼女を立たせ続ける。


「ふふっ……いいじゃん。置いていかれたとか思って、ちょっと泣きそうだったのに」


「ティア泣いてたの?」


「泣いてなぁい!」


「うん、泣いてないの。今は怒ってるの」


「そう! 今は怒ってるの!!」


 二人の足元に、淡い緑の光がゆっくり広がっていく。


 セリスが、風の道をこちらに繋いだ。


 これで、もうひとつ孤立じゃない。



 同じ頃。


 渦のもっと奥。

 風喰いの巨体のさらに向こう側に、ユウリは押し倒されるようにしていた。


 視界は暗い。耳はまともに働かない。全身から体温が抜けていく感覚だけが生々しい。


 呼吸をひとつするたびに、力をひと口ずつ盗まれている感じだった。


「……飲み込みやがって。ずいぶん下品なやり方だな」


 ユウリは片目を開け、手を前に出す。


 構文光がじりじりと点滅した。

 だが、すぐに削られていく。まるで術そのものを舐められてるみたいに消える。


「なるほど。構文も“動力”扱いで吸えるってわけか。これは面倒だな」


《マスター。》


 耳元で、光の粒みたいな声が響く。


 βだ。


 ノイズ混じりだ。ところどころ、聞こえない。加工されたみたいにザザッと切れる。


《マスター……聞こえますか……応答を要請……ユウリ》


「聞こえてる。こっちはまだ食われてねぇ。報告しろ、β」


《はい。対象存在――“風喰い”内部から、制御信号の痕跡を検出。》


「制御信号?」


《この嵐は自然発生ではありません。遠隔からの指令で起動・維持されています。》


 ユウリは目を細める。


「……つまり、“誰かが”動かしてる。これはただの生き物じゃなく、操られてる」


《はい。さらに解析を継続――》


 βの光が一瞬ちかちかと途切れ、次に現れた声は、わずかに低く、固かった。


《干渉波に識別名が含まれています。送信者識別:ゾルド・ガルバ》


 ユウリの呼吸が止まった。


 その名に、何の感情も結びつかない。初めて聞くはずなのに、嫌な温度だけははっきり伝わる名前だった。


「ゾルド・ガルバ……」


《推定:本体はこの場に存在せず。遠隔観測および制御のみを実施。目的不明。》


「……こっちを試してるって線は?」


《ありえます》


「なるほどな」


 吐き捨てるように言ったその声は、冷たかった。


 ユウリは再び前を見据えた。


 風喰いの内側は、ただの嵐じゃない。

 円環状に組まれた構文の“骨”がある。

 渦はその骨に巻き付いて制御されている。

 まるで誰かがわざと“兵器”にしたみたいに。


 ユウリは舌打ちした。


「遠くでのんびり見てるやつがいるってわけか。こっちの動き、全部観測しながら」


《はい。結論:ゾルド・ガルバはあなたたちを観察しています。》


「……そうか。じゃあ、見せてやらねぇとな」


 ユウリはしゃがみ込む。

 両手をその渦の骨組み――風喰いの中枢に近い部分へ、ゆっくりと添えた。


「こっちの“正解”を」



 上層。


 ティアが突撃に備えて身体を沈める。


 足場なんてない。だけど、ミナがいる。


 ミナが影を走らせ、ティアの踏み込みたい位置にだけ一瞬“固い場所”を偽装する。幻で。

 支える時間はほんの一瞬。でも、ティアには十分。


「ティア、右、三歩! 次の足場そこ!」


「了解っ!」


「そのあと左上! 渦の向き入れ替わるから跳ぶの!」


「了解っっ!!」


「最後は――ティアが決めて!」


「任せてって言ってんでしょ!!」


 ティアの体が爆ぜた。


 風も炎も奪われ、それでも彼女は自力で押し切る。


 全身の力を一点にまとめた拳が、風喰いの胸の中心――灰色の核へ向かって突き出される。


「“ボクたちの風”返せぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


 拳が当たる。


 ひびが走る。


 風喰いの全身がのけぞる。


 だが――崩れはしない。


 まだ耐える。


 ぐわ、と逆流した渦が、ティアの身体を飲み込もうとする。


「ティアっ!!」


 ミナが叫んだ瞬間、空間が歪んだ。


 風が、押し返した。


 セリスの声が、頭に届く。


『繋ぎました! 今、あなたたちの位置とこっちの風を“同じ場所”にしてる! 落ちないで!』


「セリス……!」


『まだ押せる! でもそれじゃ足りない! あと一押しが……!』


 ティアは笑って、歯をむき出しにした。


「あと一押しなら、あるよ」


 声は震えていない。

 目はまっすぐ前を見ていた。


「主様の分」


 その時、風喰いの体内で青い光が爆ぜた。


 ユウリの声が響く。


「ティア! ミナ! 聞こえるなら合わせろ!」


「聞こえる!!」


「聞こえるの!」


「よし、いくぞ!」


 風喰いの中枢構造。

 そこに組み込まれていた“風を吸い続ける骨組み”――ユウリはそこに、自分の構文を噛み込ませていた。


 奪う力を、逆流させる改造。


 風喰いは風を吸う。

 なら、その吸い口を逆に“吐き出す口”に組み替えてやればいい。


「《逆流指定――吐き出せ》」


 青い光が走る。


 風喰いの胸が、内側から膨らんだ。


 渦が止まり、次の瞬間――爆ぜるように外へ吹き出した。


 ティアの拳が、そこに重なる。


「てめぇの腹の中のもんは、ぜんぶ外に出してからじゃないと消化に悪いんだよぉぉぉッ!!!」


 直撃。


 風喰いの胸が裂け、灰色の核に大きな亀裂が走る。


 巨体がよろめいた。


 渦はまだ消えない。

 でも、はじめて、“倒れる”という動きが生まれた。


 ミナが荒い息をつきながら言う。


「ティア、今ので半分は砕けたの! あと半分!」


「了解っ! あと半分ってことは……次で終わりだね!」


 ユウリの息は荒い。けど、まだ笑っていた。


「聞け、二人とも。これで終わらせるぞ」


「うん!」


「うんっ!」


「次の一手は――セリスの起動待ちだ。セリス」


 セリスの声が風に乗る。


『準備できてます。わたし、やります。今度はわたしも殴ります』


「それ最高だな」


 リアナの声も重なる。


『全員、生存を最優先で。絶対に帰ってきてください』


「はい!」


「もちろん!」


「当然だ」


 ティアは拳を構えなおした。


 風喰いが、最後の吠えを上げる。


 その吠えの奥で、誰かが見ていた。


 この状況を、観測している“外側の目”がある。


 ユウリは、見えないその誰かを睨むように言った。


「なぁ、ゾルド・ガルバ」


 その名を、はっきりと呼んだ。


「お前がどこにいようと、これはちゃんと見てろ。これが俺たちのやり方だ」


 風が震える。


 空が裂ける。


 決着の一撃が放たれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ