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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第81話「風鳴りの遺跡 ― セリスの共鳴 ―」

 風が戻った海を進むアルシェ号は、昼を越えた頃に小さな島影を見つけた。

 岩と緑に包まれた、地図にも載っていない孤島――そこに古代の遺跡が眠っていた。


 ティアが甲板から身を乗り出し、興味津々に叫ぶ。

「ねぇ主様! あれ、絶対なんかある! 宝とか! 罠とか!」

「後半は黙っとけ」

「えぇー、ロマンだよ!」

「略奪じゃないロマンならいいけどな」


 ミナが尻尾をぴんと立てて頷いた。

「ミナも行く。……風が呼んでる気がするの」

 その言葉に、セリスがそっと目を細めた。

「確かに、風がざわめいています。この島、何かを“思い出している”ような……」


 リアナが微笑む。

「では、少しだけ寄り道ですね。皆さん、準備を整えて」


◇◇◇


 上陸した島は、風の音が独特だった。

 木々を渡る風が、まるで笛のように鳴く。

 自然の音のはずなのに、どこか“調律された旋律”を感じさせた。


 ユウリは崩れかけた石段を登りながら、掌に構文光を浮かべた。

「β、遺跡の構造をスキャン。崩落の危険は?」

《安定。地下に空洞あり。構造体は古代シェルダ文明の様式と一致》

「シェルダ……またその名か」

 セリスが少しだけ表情を動かした。

 風が彼女の髪を揺らし、光が耳飾りに反射する。

「わたしの故郷も、シェルダ文明の記録に残っています。千年前、自然と魔力を融合させて世界を築こうとした人々。けれど……」

「滅びた」

「はい。欲を制御できなかった。風を神と呼び、風を縛ろうとした」


 ティアが振り向く。

「ねぇ、それって今のあの“風止め野郎”と同じじゃない?」

「似ていますね」セリスは静かに言った。

「“静寂こそ秩序”という思想……古代でも何度も繰り返された愚かさです」


 ユウリは足を止めた。

「同じ失敗を、また繰り返してるってわけか」


◇◇◇


 遺跡の中心には、風車のような構造物があった。

 高さ十メートルの石柱が並び、中央に巨大な環が浮かんでいる。

 セリスが一歩前へ進み、指先をかざす。

 風が集まり、輪の中に淡い光が宿る。


「……“風の記憶”がまだ残っています。ここは“声を記す神殿”。風そのものに想いを刻んだ場所」


「想いを……風に?」ティアが首を傾げる。


「風は形を持たない。けれど、だからこそ“すべてを運ぶ”んです。願いも、痛みも、祈りも」

 セリスの瞳がやわらかく光った。

「だから、わたし達エルフは風に語りかけてきた。けれど、いつからか、それを命令に変えてしまった。命令する風は、もう風じゃない」


 リアナが静かに頷いた。

「……あなたの言葉、好きです。私も祈りを“命令”にしたくない」


 ユウリは二人を見ながら、柱の根元にある文字を読み取った。

「“再生の門は、風が通るとき開かれる”。……これ、構文鍵だな」

《解析完了。風の流路を正しく通せば、神殿が起動します》

「なら――やってみよう」


◇◇◇


 四人は位置についた。

 ティアが東の柱、ミナが西、リアナが南、セリスが北。

 ユウリは中央に立ち、全体の構文を制御する。


「全員、風を感じたら流れを合わせろ。無理はするな」

「了解!」

「うん!」

「はい!」

「任せてください」


 セリスが目を閉じた。

 彼女の周囲に、淡い緑の粒が舞い上がる。

 それに合わせて、ティアの炎が柔らかく燃え、ミナの幻が風を纏い、リアナの祈りが光を放つ。


 ユウリが構文を走らせた。

「《改造構文:風路再定義》――開け」


 瞬間、遺跡全体に風が通った。

 止まっていた空気が動き出し、旋律が鳴る。

 それは笛の音のようで、声のようでもあった。


 セリスが目を見開く。

「……聞こえる。風が――歌ってる」

 彼女の耳に届いたのは、古代の言葉。

 だが、意味は心で理解できた。


 “ありがとう。まだ覚えていてくれたのですね”


 風の声だった。


 セリスの頬を涙が伝う。

 長い年月の孤独と、風の再会。

 彼女はその涙を拭おうともせず、微笑んだ。


「……わたし、やっと風と同じ方向を向けた気がします」


「風と?」ユウリが問う。


「はい。――ずっと、“守る”ことと“止める”ことの違いが分からなかった。でも今はわかる。守るって、動かすことなんですね。誰かの未来が流れていくように、風を進ませること」


 リアナがそっと肩に手を置いた。

「あなたの風は優しいです、セリスさん」


 ティアが笑う。

「よーし、じゃあもう正式にチーム入りだね! これで《再定義者》は四人と一機!」


「四人と一機?」ミナが首をかしげた。


「うん、ボク、ミナ、リアナ、セリス、あとβでしょ!」


《機ではありません。構成単位“補助知性体”です》


「細かい!」

「βもチームだよ」ミナが微笑むと、βの光が一瞬だけ明滅した。

《……了解。チームの一員として記録します》


 そのやりとりに、ユウリは口元を緩めた。

 風が吹き抜ける。

 遺跡の環が静かに回転し、中心に浮かぶ光が上空へと伸びていった。


 空の向こうに、遠い影が見える。

 嵐のように渦巻く雲の中――誰かの気配。


 ユウリは顔を上げた。

「……“風を止めた何か”の本体が、まだ残ってる。次は、そこだな」


 セリスが頷く。

「今度は、風と一緒に戦います」


「いい返事だ」

 ティアが拳をぶつけ、ミナが笑い、リアナが祈りの言葉を口にする。


 風鳴りが高まった。

 遺跡の歌が背中を押すように響く。


 こうして、《再定義者》の新しい仲間が正式に加わった。

 彼らの旅は――次なる空へ続いていく。

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