表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/121

第76話「風読みの塔 ― 失われた声 ―」

 朝の光が海を追いかけて丘を上るころ、リベールの人々は日常を取り戻していた。

 ユウリたちは朝食を済ませ、郊外にあるという「風読みの塔」へ向かっていた。村人の話では、夜ごとに塔がうなり、鳥が近寄らないという。


「精霊か何かかな?」とティアが首をかしげる。

「古い魔導機械の残滓の類いかもしれない。調べてみましょう」とリアナ。


 道は小径の草の匂いと潮風の混ざった香りに満ちている。セリスは歩きながら周囲を観察していた。風が吹くと彼女の髪が揺れ、瞳が少しだけ遠くを見るように細まる。


「この塔は、風を読む者が記録を残した場所だと村の長が言っていました」とユウリが説明する。

「昔の人は、風に言葉を聞かせていたのですね」とセリスが答える。声はいつもより柔らかい。


 塔は小高い丘の上にあった。石造りの外観に苔が張り、上部の風車はうまく回っていない。塔の扉は半開きで、内側からかすかな振動が伝わってきた。


「音がする……中から何かが唸ってる」ミナが耳をすませる。


 ユウリは手袋をはめ、構文の準備をする。

「注意して。歪んだ魔力や古い拘束が残っている可能性がある」


 中は想像より広かった。らせんの階段が内部を巡り、ところどころで機構の歯車が錆びついている。だが、階段を上るほどに風の質が変わり、ひんやりとした空気が指先に触れた。


 上層に近づくと、空気に詰まった声のようなものが聞こえてきた。言葉ではない。風のうなりに乗る、薄い呼吸のような響きだ。セリスの顔が硬くなる。


「精霊が囚われている……」

 彼女はそう呟いた。

「囚われ?」

 ティアが即座に反応する。

「助けられるかな……」

 セリスの瞳が揺れる。


 最上階に着くと、中央の古い風導器が弱々しく震えていた。風導器の周囲には光の欠片のようなもの――声の断片がまとわりつき、机や石を弾いている。断片が集まると、時折人の形をかたどる影が浮かんでは消えた。


「残留精霊、抵抗反応あり」βが淡々と報告する。《共鳴歪み率:高。機構暴走の兆候あり》。


 突然、風導器の外側が軋み、錆びた歯車が外れて落ちた。機構から裂けた音とともに、鋭い風刃の群れが飛び出す。影のような精霊が形を取り、彼らに襲いかかってきた。


「敵意の具現化か!」


 ユウリが叫ぶ。


 ティアが飛び込み、炎槍を振るう。赤い竜焔が風刃を焼き尽くし、衝撃で何体かが散った。


 だが、影は数で押してくる。短剣で素早く動くミナが風の裂け目を縫って敵を切り裂き、リアナが結界の輪を展開して仲間の被害を抑える。だが精霊は再生速度が速く、戦況は膠着しつつあった。


 その時、セリスが一歩前に出た。彼女は両手を広げ、低く古い詩句をつぶやく。言葉は古語に似ているが、何かが共鳴して空気が震えた。


「――聞け、風の子らよ。ここにある記憶は争いの急所ではない。解け、静まれ」

 彼女の声に、風が答えるように渦を緩めた。精霊の影が一瞬動きを止め、喉のようなところから苦しげな音が漏れた。


 ユウリはその隙に風導器の根幹へ近づく。機構の中枢は古い結晶と歯車でできており、そこに不均衡な構文の刻印が走っている。ユウリは手をかざし、素早く《修復改造》を詠唱する。青い構文光が結晶に絡みつき、乱れた刻印を一つずつ書き換えていく。


「刻印を再配置。外部からの刺激を遮断する。β、精霊の波形をモニターしてくれ」ユウリ。


《了解。波形安定化に移行》とβ。


 セリスはさらに古の歌を重ね、精霊の形がほとんど消えかけたとき、ふっと小さな光が一つ、風導器から抜け出して空へ消えた。風は丸く収まり、塔は静寂を取り戻した。

 誰もが息を吐く。ティアは腕の火を収め、少し照れ臭そうに笑う。ミナは額の汗を拭った。


「セリス、すごいよ。あの言葉、風が全部聞いたみたいだった」ティアが言う。

「言葉だけじゃない。あなたが“触れ”たのよ」とリアナが静かに続ける。


 セリスは肩の力を抜き、塔の窓から広がる風景を見た。海と村と、遠くに続く道。彼女の表情に、わずかながら安堵が混ざる。


「千年の間、聞こえない声が多すぎました。誰かの声に救われることが、こんなにも心を溶かすとは」彼女が言った。


 ユウリは小さく笑って頷いた。

「力は使い方次第だ。今日の君のやり方は“直す”だった。悪くない」


 塔を下ると、村人が拍手をして迎えてくれた。老人が近づき、セリスの手を取る。


「風にありがとうを言いたいのは初めてじゃ。あんた、何者だ?」

「ただの旅人です」セリスは照れたように首を振る。

「旅人でも、ありがとうは受け取るよ」老人は微笑んだ。


 夕方、宿の裏庭で皆が乾いた体を休めていると、βが低く報告した。

《遠方より低周波構文応答。深域、山岳帯方向。反応は増加傾向。》


「来たか」ユウリが背筋を伸ばす。

「次はもっと古いものの気配ですね」とリアナ。

「うん。旧文明遺構が本格的に反応し始めた」セリスも眉を寄せる。だが、その瞳には決意が宿っていた。


 ティアが伸びをして笑う。

「よーし、次は何が飛び出してもボクが焼き尽くす!」

「ほどほどにな」ユウリが苦笑する。


 ミナがふわりと尻尾を揺らす。

「ミナも、みんなの後ろを走るよ」


 夕暮れの風が、彼らの肩をそっと押した。塔で聞いた声の余韻が、誰の胸の中にも小さな灯をともしていた。


 こうして小さな日常の事件は、一行の信頼と結束を確かにした。遠くで鼓動する古の機構の反応は、やがて彼らを大きな戦いへと導くだろう――だが今は、仲間の笑顔が何より確かな証だった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ