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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第75話「星祭りの夜 ― 絆の灯火 ―」

 港町リベールの夜は、昼とはまるで違う顔をしていた。

 夕陽が海に沈み、空が群青へと変わるころ、街の至るところで提灯が灯り始める。

 子どもたちが走り回り、店の前には人だかり。

 年に一度の「星祭り」の夜が、始まろうとしていた。


「主様、見て見てっ! 綿あめ三段重ね!」

 ティアが両手に抱えた巨大な綿あめを誇らしげに掲げる。

「……もはや武器だな」


「ふわふわの武器なのっ!」


 ミナが笑う。

 二人の後ろで、リアナは苦笑しながら手を合わせた。

「お願いですから、祭りの途中で吹き飛ばしたりしないでくださいね」


「リアナ姉、信用ないの?」

「ええ、まったく」


 そんな中、セリスは一歩後ろを歩き、静かに祭りの光景を見つめていた。

 通りのあちこちに吊られた星形の灯り、風に流れる音楽、焼き菓子の甘い香り。

 どれもが、彼女にとって“初めて”の世界だった。


「……人は、こんなに短い命なのに、こんなにも輝けるのですね」


「生き急いでるだけかもしれないけどな」

 隣に立つユウリが、紙の灯籠を渡す。

「星祭りでは願いを書いて灯すんだ。風に流して、夜空に還す」


「願い、ですか……」

 セリスは灯籠を両手で受け取った。

 小さな炎が揺れ、彼女の瞳に映り込む。


「私は……まだ、願いの立て方を知りません」


「難しく考えるな。誰かの笑顔でも、明日の天気でもいい」


「……では、考えてみます」

 セリスは微笑み、筆を取った。


◇◇◇


 夜が深まると、祭りの通りはさらに賑わった。

 笛と太鼓の音が混ざり、屋台の灯りが海面に反射してきらめく。

 ティアは的当て屋台で真剣な顔になっていた。


「よーし、今度こそ! 主様、見てて!」

 的を狙って矢を放つ――だが、矢は派手に外れて屋根に刺さった。


「惜しい、あと三軒分ずれてたな」

「うう、次は絶対当てるっ!」


 ミナが後ろで手を叩く。

「ティア、がんばれー! 外したらアイス奢ってね!」

「なんで!?」


 そのやりとりに、周囲の人たちが笑う。

 ユウリも思わず口元を緩めた。


 一方、セリスは人混みを避けるように、通りの外れへ歩いていた。

 光と音に包まれながらも、心のどこかでざわめきを感じていたのだ。


 ――自分は、本当にここにいていいのだろうか。


 エルフの森では、千年を生きても一人きりだった。

 人の時の速さに、まだ心が追いついていない。


 そんな時、背後から声がした。

「こんな場所に隠れてると、見失うぞ」


 振り向くと、ユウリがいた。

 手には二つの温かい紙コップ。

「ホットベリー酒。アルコールは飛ばしてある」


「……ありがとうございます」

 受け取ると、手のひらにじんわり熱が広がった。

 そのぬくもりが、まるで心の奥まで届くようだった。


「ユウリ。あなたは、何を願うのですか?」


「俺か?」

 ユウリはしばらく考え、夜空を見上げた。

「“明日も誰かを助けられるように”――かな」


「シンプルですね」


「それしかできないからな」


 セリスはふっと笑った。

 それは、彼女にしては珍しく柔らかな笑みだった。

「……今の答え、好きです」


 風が吹き、遠くで花火が上がる。

 色とりどりの光が夜空を染めた。


◇◇◇


 そのとき――港の方から叫び声が上がった。


「灯籠船が! 流されたぞ!」

「子どもが乗ってる!」


 群衆がざわめき、海辺へ駆け出す。

 波打ち際では、強い風に煽られた船が沖へ流されていた。

 小さな影が、その上で泣き叫んでいる。


 ユウリが即座に構文を展開しようとしたが、セリスが前に出た。


「私に任せてください」


 翡翠色の瞳が、月明かりを反射する。

 次の瞬間、風が一変した。

 渦を巻く潮風が静まり、海面が凪いでいく。


 セリスの両手がゆるやかに舞う。

 唇が古の言葉を紡ぎ、淡い光が空を走った。

「――《風精霊律・調和のハーモニア》」


 その声はまるで子守歌のようで、嵐そのものが眠るように鎮まっていく。

 風が静かに船を押し戻し、子どもを岸へと導いた。


 ミナが素早く飛び込み、手を伸ばす。

「こっちっ!」


 ティアも続いて手を取り、子どもを抱き上げた。

 拍手が広がり、街全体が歓声に包まれる。


「すごい……」「魔法みたいだ……!」

 誰かがそう呟いた。

 セリスは少し照れたように微笑む。


「魔法ではありません。風の願いを、少しだけ聞いただけです」


 リアナが優しく頷いた。

「あなたの力、やっぱり美しいわね。守るための魔法」


 ティアが子どもを抱き上げ、笑う。

「セリス、かっこよかった! 主様よりスマート!」


「おい」ユウリが肩をすくめる。

「俺は荒っぽい係なんだよ」


 笑い声が重なり、祭りの夜が再び息を吹き返す。


◇◇◇


 深夜。

 港の波音だけが残り、灯籠の灯が静かに海へ流れていく。

 ユウリたちは並んで腰を下ろし、それぞれの灯籠を水面に浮かべた。


「ボクは、“ずっと一緒にいられますように”って書いた!」ティアが胸を張る。

「ミナは“お肉が毎日食べられますように”」

「食欲と友情が同じ願いか……」ユウリが苦笑する。


 リアナは祈りのように手を合わせた。

「“この光が、誰かの明日を照らせますように”」


 そして、セリスがそっと灯籠を押し出した。

「私は……“もう一度、人を好きになれますように”」


 その言葉に、波が静かに応えたように見えた。

 ユウリが振り向くと、彼女の瞳は星よりも澄んでいた。


 ティアとミナが同時に笑う。

「セリス、もう好きになってるよ!」

「うん! 主様のこと!」


「ちょっ……」

 ユウリが咳払いをした。

「はいはい、そろそろ宿に戻るぞ」


 セリスはそんなやり取りを見つめ、静かに笑った。

 それは、確かに“仲間の笑顔”の中にある一人の少女の表情だった。


 ――星の夜が明けていく。

 灯りが波間に溶け、港の風が再び穏やかになる。

 その風は、確かに新しい絆の匂いを運んでいた。



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