表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/121

第69話「再生会議 ― 理念と現実 ―」

 グランテール中央議会ホール――。

 白い大理石が並ぶ広間は、朝の光を反射して静かに輝いていた。

 だが空気は張り詰め、そこに集う者たちの表情は一様に硬い。


 議員、騎士団、商会、教会、そして冒険者ギルド。

 この街を支える五つの勢力が、一堂に会していた。


 目的はただひとつ。

 ――理念連盟事件の総括と、街の再生方針の決定。


 壇上には巨大な円卓。

 その中央に座るのは、市政代理議長バルマン。

 落ち着いた声で宣言が響いた。

「これより、グランテール再生会議を開始する」


 筆記官のペンが走る音。

 重い椅子の軋み。

 そのどれもが、街の未来を左右する音に聞こえた。


 ユウリたちは、ギルド代表として列席していた。

 ティアはそわそわと落ち着かず、膝の上で尻尾を押さえつけている。

 ミナは耳をぴんと立て、真面目に前を見つめていたが、

 緊張のせいで尻尾がふるふると小刻みに揺れている。


 リアナは書類をめくりながら、冷静に全体を見渡していた。

「……主様、貴族派がだいぶ多いですね」

「まあ、あいつらは面子のために来てる。街のことなんか考えちゃいない」

「わかってるけど、ティア……椅子を揺らさない」

「だ、だって空気が固いんだもん!」


 その小声のやりとりに、βが小さく信号を点滅させた。

《観測補足:ティア・ドラグネア、心拍上昇。退屈由来》

「分析しなくていい」

《了解》


 壇上では議長が開会の辞を続けている。

「理念連盟の暴走によって、街の一部が混乱しました。

 これをどう再発防止につなげるか、今後の制度に反映させる必要があります」


 次々と発言が飛ぶ。

「連盟の信奉者を全員拘束すべきだ!」

「だが、彼らが提供していた資源がなければ、復興は進まん!」

「信仰か、管理か、どちらを優先するのだ!」


 議場がざわつく。

 あちこちで派閥ごとの言い争いが始まり、秩序は崩れかけていた。


 ティアが耳を押さえ、顔をしかめる。

「うわぁ……誰も街のこと考えてない」

「そう見えるが、これが“人間社会”ってやつだ」

「主様は……平気?」

「慣れた」

 ユウリは短く答えると、ゆっくり立ち上がった。


 彼の声は静かだったが、不思議と会場全体に響いた。

「……もう少し静かに話そうか」


 その言葉に、ざわめきが止まる。

 ユウリの背後でβが青白い光を放ち、音声波を増幅していた。


「理念連盟を“悪”と断じるのは簡単だ。だが、問題はそこじゃない」

 彼は視線を巡らせる。

 議員たちの表情には焦りや苛立ち、そして恐れが混じっていた。


「彼らの目的は“支援”だった。だが、その支援が“支配”に変わった。

 感謝を押し付けることで、弱者を縛った。それがすべての始まりだ」


 場内が静まり返る。

 ユウリは懐から銀色の端末を取り出し、βに合図を送った。


《再生開始。記録映像:理念連盟第三区会議ログ》


 空間に青い映像が浮かぶ。

 映し出されたのは、連盟代表ライオネルが部下たちに語る姿。

 「街をひとつの理念で統一すれば、争いはなくなる」

 「異なる考えを持つ者は、共鳴で導けばいい」


 その映像が終わると同時に、会場に低いざわめきが走った。

「……導く、だと?」

「支援じゃない、洗脳だ」

「市政の許可なしにあんな技術を……」


 バルマン議長が低く唸った。

「ユウリ・アークライト殿。証拠の信憑性は?」

「β、出力」

《解析結果:映像音声とも改竄痕跡なし。発言者の声紋一致率99.7%》


 議員の一人が席を立ち上がる。

「ば、馬鹿な……技術局の試験研究を流用したなど……!」

「その通りだ」

 ユウリの瞳が冷たく光る。

「理念連盟の“共鳴布”を開発したのは、技術局の一派だ。

 秩序を作るために、人の心を同調させる――それが彼らの狙いだった」


 会場の空気が一変する。

 怒号、動揺、そして恐怖。

 ティアがこっそりミナの手を握る。

「……主様、全部言っちゃうんだね」

「隠しても腐るだけだからな」


 議長が深くため息をつく。

「つまり、街の混乱は“上の意志”が生んだものだと?」

「その通り。

 ――だが、それを正すのもまた、人の意志でしかない」


 ユウリの言葉に、誰もすぐには返せなかった。

 リアナが静かに立ち上がり、補足する。

「ユウリ様の言う“再定義”は、秩序を壊すためのものではありません。

 人が“信じ合う力”を仕組みに変える――それが目的です」


 ユウリが頷き、構文光を展開した。

 青い輪が空中に浮かび、数式と文字が流れる。


「――《共鳴改造式・人間信号網ヒューマンネット》」

 βの音声が説明を添える。

《個々の感情波を検出・変換し、街全体の魔力循環に組み込む構文。

 “信頼”が高まるほど街の防御構造が強化され、悪意の波を中和する》


「つまり、“善意”が街を動かす……そういう理想論か?」

 一人の商人が鼻で笑った。

 だがユウリは即座に返す。

「理想を笑う奴がいるから、現実が腐るんだ」

 その一言に、商人は言葉を詰まらせた。


 ユウリの声は徐々に熱を帯びていく。

「街を守るのは制度でも権力でもない。

 “隣にいる誰かを守りたい”と思える気持ちだ。

 俺はその力を、魔法でも構文でもなく――仕組みにする」


 会場の隅で老騎士がゆっくりと立ち上がった。

 白髪を束ねた壮年の男。胸の鎧には《白百合》の紋章。

「……人の手で秩序を作る、か。

 昔なら笑っていたが、今は……そうも言ってられんの」

 そして、わずかに笑った。

「よかろう、若き改造者。試してみるがいい」


 拍手がひとつ、ふたつ。

 やがてそれが連鎖し、会場を満たしていった。


 会議が終わる頃には、外はすっかり夕焼けに染まっていた。

 広場には市民が集まり、窓から見守る子どもたちの姿もある。

 「ねぇ、あれが《再定義者》の人たち?」

 「うん、街を救ったって!」

 そんな囁きが風に混じる。


 階段を降りたユウリたちは、橙色の光を浴びながら息をついた。

 ティアが腕を伸ばし、嬉しそうに笑う。

「ねぇ主様、すごかったよ! あんなにいっぱいの人の前で!」

「緊張はしてたけど、上手に喋ってた!」ミナが尻尾を振る。

「……あなた、演説もできるようになったのね」

 リアナが少し微笑む。

「やめてくれ。ああいうのは柄じゃない」

「でも、あなたの声で空気が変わった。

 “支配”じゃなく“信頼”で動く街――きっと、それが本当の再生です」


 ユウリはしばらく黙り、空を見上げた。

 陽が傾き、風が穏やかに吹く。

 どこか懐かしい香り。

 森の方角から、淡い翠の光が流れてきて頬を撫でた。


「……セリスか」

 風が、微かに笑ったように感じた。


 βが静かに報告する。

《構文記録完了。市民信号網の初期化、成功率92%。街の安定度、上昇傾向》

「……これでようやく、始まりだな」

「主様、街がちょっとずつ明るくなってく感じ、ボク分かるよ!」

「うん……風も、優しいの」

 リアナが目を細めて言った。

「――風が笑っていますね」

 ユウリは小さく頷いた。

「……なら、この街はまだ生きてる」


 その風の流れの中で、ユウリたちはゆっくり歩き出した。

 陽が沈み、灯がひとつ、またひとつ、街にともる。

 それはまるで、新しい秩序の脈動だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ