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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第67話「火種の市場 ― 正義が割れる音 ―」

 昼のグランテール市場は、陽気な喧騒に包まれていた。

 果物屋の呼び声、鍛冶師の金槌の音、焼き菓子の香ばしい匂い――。

 昨日までの不安が嘘のように、街は活気を取り戻している。


 だが、その明るさの奥に、妙な違和感があった。


「……人が多いな」

 ユウリが小声でつぶやく。

 広場の中央には、青い布を腕に巻いた若者たち。

 「理念連盟」と名乗る支援団体が、修復資材を配っていた。

 その周囲では、拍手と歓声。


「ありがてぇ! こんなに早く直してくれるなんて!」

「ギルドじゃなくて、連盟が一番頼りになる!」


 ティアが頬をふくらませる。

「ちょっと待って、それ……ボクたちが昨日直した壁だよね?」

「……だな」

「なんであいつらの手柄になってんの!」


 ミナが静かに尾を揺らす。

「主様。あの人たち、笑ってるけど……目、こわい」

 ユウリは腕を組み、視界に青い構文光を走らせた。

《観測結果:理念連盟の布印より微弱な精神共鳴波を検出。》

「……やっぱり。“信号”を使ってる」

「信号?」

「人の心をまとめるための構文だ。共鳴を利用して感情を一方向に揃える」

「つまり、操ってるってこと?」

「正確には、“導いてるつもり”なんだろうな」


 リアナが短く息を吐いた。

「善意を並べるのは簡単です。でも、その善意が“同じ形でなければならない”と思った瞬間に、理想は暴力になる」

 その言葉を、ユウリは静かに受け止めた。


 その時だった。

「おいッ! ふざけるな!」

 怒鳴り声が市場に響いた。

 果物屋と布商が、露店の前で掴み合っている。

「ここは俺の店だ! 勝手に“連盟支援店”の旗なんか立てるな!」

「違う! 今は街をひとつにするためだ! 文句があるなら連盟に言え!」


 人々の視線が集まり、誰かが叫ぶ。

「ギルドが動かなかったからだ! 再定義者も連盟の真似じゃないか!」

「なんだと!? ユウリさんたちはあんたらと違う!」


 次第に声が荒れ、怒号が渦を巻く。

 青い布を巻いた者たちが群衆を扇動するように立ち上がり、広場の中心に向かって叫んだ。

「理念を掲げよ! 混乱は秩序の証だ!」

「真の理想は、ひとつに統一されねばならない!」


 その瞬間――市場の空気が変わった。

 人々の目が、怒りに濁る。


《主。精神波の共鳴強度、上昇中。連盟印が増幅媒介として機能》

「……このままじゃ暴動になる」

「止めるっ!」

 ティアが炎の紋章を展開する。

「お前らっ! ケンカしてもパンは焼けないぞ!」


 叫びと同時に、雷鳴のような衝撃音。

 ティアの炎が空へ弾け、人々が思わず動きを止めた。

「ほら! みんなパン焦がしたくないでしょ!」

「……何言ってるの」

 ミナが呆れたように呟くが、そのおかげで笑いが少し漏れる。


 ユウリがその隙にβへ指示を飛ばす。

「構文遮断開始。布印から出る信号を逆相で消せ」

《了解。逆位相干渉フィールド展開――起動》


 風が鳴り、青い布がひらりと揺れた。

 空気が一瞬静まり、群衆の表情が和らぐ。


 人々のざわめきの中、誰かが呟く。

「……なんで、こんなに怒ってたんだ?」

「俺、隣の店の兄ちゃんに殴りかかってた……?」

 ティアが大きく息を吐いた。

「ふぅ……やっと止まったぁ!」

「助かった」

 ユウリが頷くと、群衆の奥から拍手が起こった。


「さすが、“再定義者”だ!」

「でも、これ……いったい何だったんだ?」


 その声に応じるように、青い外套の青年が前へ出る。

 理念連盟代表――ライオネル。

「彼らの怒りは、私の責任です。……ですが、必要な痛みでもあります」

「必要な痛み?」

「人は“自由”の名のもとに、また分裂する。だから私は導く。“共鳴”によって一つの理を作るために」

「お前のやってるのは、導きじゃない。“同調圧力”だ」


 ユウリの声が低く響く。

 ライオネルは眉をわずかに動かした。

「……あなたのような人が、かつていた。理を改造しようとした男だ」

「ヴァルドの残響、か」

「彼は破滅した。しかし彼の思想は、正しい一端を持っていた。“秩序は、個を超える”」

「個を消してまで作る秩序なんて、ただの空っぽだ」

 ユウリの足元で構文光が走る。


「β、遮断を完全展開。あの“共鳴布”を無効化しろ」

《了解。全波干渉モード起動――》


 青い布がひとつ、またひとつと光を失っていく。

 人々が自ら布を外し、落ち着いた顔で互いに頭を下げた。

 ライオネルは静かに目を細めた。

「……人は、導かれなければ滅ぶ」

「導かれなくても、立ち上がれる。俺たちはそれを証明する」


 風が吹き、青い布が宙を舞った。


 市場に再び喧騒が戻る。

 倒れた屋台を直し、落ちた果物を拾う人々。

 ティアが大きく伸びをして笑った。

「よしっ、これでお昼のパンも焼けるね!」

「結局パンか」

「大事だもん!」


 ミナがユウリの袖を引く。

「主様。あの人……まだ残ってる」

 視線の先では、ライオネルが去り際に空を見上げていた。

 その横顔には、まだ“迷い”があった。


「ヴァルドの理想を信じ続けるのは、弱さじゃない。けど――止まらないと、壊れる」

 ユウリの呟きに、リアナが静かに頷く。

「あなたの言葉は届いたはずです。彼がまだ、人を信じられるなら」

「……そうだな」


 βが淡く光る。

《観測報告:理念連盟、活動縮小の兆候。信号消失確認》

「終わったな」

「ええ。でも、理想の残響はしぶといですよ」

「だから俺たちが“再定義”する」


 風が市場を抜け、青い布が最後の一枚、空へ舞い上がった。

 陽光の下、グランテールの空は少しだけ明るくなった。

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