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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第66話「理念連盟 ― 名を名乗る者たち ―」

 朝の光が、グランテールの広場に差し込む。

 修復が始まって二日目。昨日よりも少しだけ整った石畳に、今日も人々の声が響いていた。


「ミナ、釘ちょうだい! こっちの板、もう一枚足りない!」

「はいっ!」

 尻尾を器用に巻いて木箱を引き寄せるミナ。隣でティアが笑う。

「よーし、これで壁が立った! ボクたち、やっぱ最強だな!」

「まだ半分だぞ」

 ユウリの声が飛ぶ。手には工具ではなく、紙とチョーク。修復箇所の地図を描き直している。

《広場の南側、補修率68%。午前中には終わります》とβの声。

「いいペースだ。……だが、物資が足りなくなるな」

《在庫残量32%。三日で底をつきます》

「ライオネルが今日、何をするかで決まる」


 リアナが子どもたちに包帯を巻きながら、少しだけ顔を上げた。

「彼の“連盟”……名前だけが先に広がってますね」

「名前は便利な旗だ。問題は、その旗の下に誰が立ってるか、だな」


 その言葉を証明するように――昼前、広場にざわめきが起きた。


 木箱を積み上げた即席の壇上。そこに立つのはライオネル。

 昨日とは違い、背に青い布を結び、人々に手を振っている。


「皆さん、聞いてください!」

 張りのある声。陽光を背にして立つ姿は、まるで英雄のようだった。

「我々《理念連盟アーキシア》は、“誰もが再建の担い手になれる”世界を目指します!

 力ある者も、弱き者も、同じ舞台に立てるように――」


 その言葉に、ざわりと人が動く。

「すげぇ……本気で街を作り直す気か?」

「金も出すって聞いたぞ。これなら生活が戻る!」


 ティアが呆れたように呟いた。

「なんか……上手すぎない? “いい人オーラ”出しすぎでしょ」

 ミナも尻尾をしょんぼり下げる。

「ミナ、ちょっとこわいの。全部“正しい”感じがするのが、こわいの」

 ユウリは腕を組み、群衆の後ろから見つめていた。

「正しさは、時々、刃になる」


 やがてライオネルは胸元から青い布を取り出し、群衆に見せた。

「賛同してくれる方は、この“印”を。これは希望の象徴です!」

 青いリボンが次々と手渡され、腕に巻かれていく。

 人々の顔に安堵と期待が混ざる。


《主。布繊維に微弱な魔力反応を検出。通信構文の残留あり》

「つまり……登録者を“追える”仕組みか」

《確度83%》

 ユウリはわずかに目を細めた。


 その時、広場の一角で声が荒れた。

「《再定義者》が最初に動いたんだろ! なんで“連盟”が仕切るんだ!」

「でも、あの人たちが金を出してくれるなら、文句言うなよ!」

「黙れ! お前らはまた誰かに支配されたいのか!」


 瞬く間に口論が広がる。

 ティアが慌てて割って入る。

「ちょ、ちょっと! ケンカはだめ! ボクたちは――」

「特別だから黙ってろ!」

 吐き捨てられた言葉に、ティアの拳が震える。

 リアナが背から抱き止めた。

「落ち着いて。今ここで殴れば、全部“暴力”に変わります」

 ティアは歯を食いしばり、拳を下ろした。

 ミナがその袖を握る。

「主様……みんな、どうしてこんなに怒るの?」

「“信じたいもの”が違うからだ。だが――信じ方を奪うのは、もっと危険だ」


 群衆が散った後。

 ライオネルが演壇を降り、ユウリの前に立った。

「あなたの仲間が止めてくれて助かりました。……ああいう混乱は望んでいません」

「だが、お前の旗が“争いの線”になっている。気づいてるな?」

 ライオネルの笑顔がわずかに曇る。

「理想を語る者は、いつか批判されます。それでも進まなければならない」

「違うな。“理想”は進むための力だが、“強制”は止める力になる」

「……あなたは危険ですね、ユウリさん」

「理由を聞こうか」

「あなたは“秩序を拒む”。その自由は、人を壊す」


 視線が交錯する。

 空気がわずかに張り詰め、風が二人の間を通り抜けた。

 ライオネルはそのまま背を向け、群衆の中へと消えていった。


 夕暮れ。

 噴水の水面に、灯りがいくつも映っていた。

 ティアが焚き火の前で腕を組む。

「主様、あの人……絶対に何か隠してる。あんなの“正義の顔”じゃない」

「正義と支配は、紙一重だ」

「でも、もし“連盟”が街を良くしちゃったら……ボクたち、悪者みたいに見えちゃう?」

「構わん。結果が正しければ、評価はあとでついてくる」

 ミナが尻尾を抱えて呟く。

「でも……“ついていく人”が増えるの、なんか、怖い」

《観測報告。連盟印の魔力信号、街の三分の一で検出》

「もうそんなに……?」

《さらに補足。ライオネル、今夜、貴族街区での接触を確認。相手名――ヴァルド・レーヴァン》

 ユウリは火を見つめたまま、低く息を吐く。

「やっぱり、あの層に繋がってるか」


 リアナが静かに目を閉じ、祈るように言う。

「理想を語る者が、最初に失うのは“謙虚さ”です。どうか、街が壊れませんように」

「壊れる前に、改造してみせるさ」


 焚き火がぱちりと弾けた。


 ティアが顔を上げる。

「主様、次はどうする?」

「明日。“連盟”がどこまで街を動かせるか見極める。それ次第で――対処を決める」

 ユウリは立ち上がり、夜空を見上げた。

 灯の数は増えている。だが、その下にある影もまた、濃くなっていた。


 そして、βの光がひときわ強く瞬く。

《主。市議会旧庁舎の屋根に、新たな旗。紋章は“理念連盟”》

「……早すぎるな」

 ティアが拳を握る。「まるで最初から仕組まれてたみたい」

 ユウリは短く頷いた。





「明日は、“旗の意味”を問いに行く」


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