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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第65話「街の再定義 ― 灯をともす者たち ―」

 朝の光が、崩れかけたグランテールの広場を照らしていた。

 瓦礫を積み直す音、木槌の響き、どこかで笑い声。――街は、生き返ろうとしている。


「ミナ、その板もう少し右!」

「はいっ!」

 汗まみれのティアが声を飛ばし、ミナが素早く釘を打つ。尻尾をくるくる巻き上げながら、屋台の修復に夢中だ。

 リアナは子どもたちの擦り傷に薬草を塗り、優しく微笑む。

「ほら、これで痛くない。強い子ね」


 広場の中心では、ユウリが噴水の亀裂を覗き込んでいた。

《観測完了。水路の詰まり三箇所。圧を逃せば再稼働可能です》

「了解。《改造構文:流路補正》」

 蒼い光が走り、石の継ぎ目が滑らかに繋がる。次の瞬間――ぽこぽこ、と音を立てて水が吹き上がった。

 拍手が沸き起こる。子どもが笑い、大人が顔を見合わせる。

「よし、一つ目クリアだな」


 修復班の地図には、ユウリが書いた五つのルールが貼られている。

 ①壊れた場所を見つけたら印をつける。

 ②見た人ができる範囲で直す。

 ③道具は噴水前の物資台から貸し借り。

 ④危険作業は二人以上。

 ⑤“明日やる”は禁止。


《道具の貸出記録、私が管理します》

「頼んだ。数字じゃなく、続く仕組みにしていこう」


 そんな中、荷馬車の音が近づいた。

 旅装束の青年が、荷を積んだまま馬を止める。

「やあ、作業中でしたか。手伝わせてください」

 整った顔立ち、落ち着いた声。

 ライオネル――この街を訪れた、謎の旅人だった。


「木材と釘、それから食料を持ってきました。お子さんたちにどうぞ」

 ミナの耳がぴくりと動く。

「干し肉の匂い……!」

「おお、わかりましたか」

 ティアが訝しげに眉を寄せた。「優しすぎるな……どこから来たんだ?」

「北の街です。壊れた場所を回って、再建を支援している団体の一員で」

 リアナが首を傾げる。「あなたたちの団体の名前は?」

「《理念連盟アーキシア》と申します」


 その名を聞き、ユウリはわずかに目を細めた。

「助けはありがたいが、条件がある。物資はここで分配する。順番も全員で決める」

「もちろん。あなたたちのやり方を尊重します」

 即答。笑顔に一片の濁りもない。だが――βの光が微かに揺れる。

《反応時間、通常値より0.2秒の遅延。記録します》

「監視は続けてくれ」

《了解》


 荷下ろしが始まる。ティアはハンマーを握り、ミナは木材を並べ、ライオネルは重い荷を軽々と運ぶ。

 干し肉を受け取った子どもたちが笑顔を弾ませ、リアナが祈るように呟く。

「……あの笑顔、久しぶりに見ましたね」

「そうだな。人の手で灯した光は、強い」


 昼過ぎ、マリアが駆けてきた。

「ユウリさん! 市場通りの梁が傾いています! でも商人たちが通行止めを嫌がって……」

「現場を見よう」


 市場通り。屋根は歪み、梁がぎしりと悲鳴を上げていた。

「頭上注意! 落ちるぞ!」

 ティアが子どもを抱え、屋台の外へ跳ぶ。ミナが屋根に駆け上がり、釘を打つ。

「一本、にほん、さんぼん!」

「数え歌やめろって!」

 ユウリは金具を押さえ、青光を走らせた。

《構造安定。歪み率0.4に低下》

「これでよし。……もう崩れない」


 商人たちの顔がほころぶ。「助かったよ!」「やっぱり《再定義者》だ!」

 ティアが胸を張り、尻尾をぱたぱた振る。

「ふふん、ボクらにかかればこんなもん!」

「調子に乗るな」

「だって褒めてよ!」

「……よくやった」

「やったー!」


 午後、広場に戻ると作業は一段落していた。

 ライオネルが布の汗を拭いながら、穏やかに笑う。

「皆さん、素晴らしい働きです。……もしよければ、明日から資金援助を提案したい。街の仕組みを整えるために」

「資金援助?」

「寄付と投資の間です。返済も不要。ただ、管理を一括して――」

 言い終わる前に、ティアが割り込む。

「主様、やっぱり怪しい! “ただ”でなんてあるわけない!」

 リアナが彼女の肩を軽く押さえる。

「でも、拒めば街の修復は遅れます」

 ユウリは少し考え、短く答えた。

「いいだろう。だが、条件は一つ。金も人も“透明”に動かす。裏は作らない」

「もちろん」

 ライオネルは笑った。その笑みは、完璧すぎるほど自然だった。


 ティアがベンチにどさっと座り、両腕を伸ばした。

「つーかれたぁ……でも、気持ちいい」

「ミナも……ねむい……」

 ミナの頭がユウリの肩にぽすりと乗る。尻尾が膝に落ち、ゆっくり揺れる。

 リアナは空を見上げ、小さく息を吐いた。

「今日の街、たくさん笑っていました」

「ああ。……明日は、もっとだ」


《主。彼の周囲、複数の未知通信を検出。“連盟”関連のタグと思われます》

「探るな。今は動かせない。……だが、観測は続けろ」

《了解》


 ユウリは立ち上がり、灯りの数を数える。広場の端から端まで、点々と並ぶ灯。今日の朝より、確かに増えている。


「行こう。今日はもう終わりだ」

「はーい……主様、抱っこ」

「歩け」

「けち」

 笑いながら、歩き出す。背中に夜の匂い。足元に、直したばかりの石畳の感触。


 リアナはその光景を見つめながら呟く。

「今日、街が“動き始めた”感じがします」

「まだ始まりだ」

《主。広場の声の中に、“連盟”という単語が増加しています》

「……やはり、来るか」


 ユウリは空を見上げた。

 崩れた街の中に、小さな灯がいくつも瞬く。

 その光の向こうで、次の波が、静かに近づいていた。

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