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追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第57話「動き出す貴族街 ― 再編の影 ―」

 夕陽が沈みきる頃、グランテールの上空を一羽の黒い鳥が横切った。

 赤鎖スカーレットチェイン討伐から数日。街は平穏を取り戻し、人々の声が通りに戻り始めている。

 だが、表の安堵の下で――水面下の“再構築”が動いていた。


 市政庁・貴族区画。

 整然と並ぶ石畳と、贅を尽くした屋敷群。だが夜になると、そこは別の顔を見せる。

 銀食器の音とともに、囁き声が交わされていた。

 「……グルムが捕まったか」「赤鎖の一角が潰れたらしい」「代わりは?」

 低い声が混じる。

 「“再編計画”は続行だ。中央議会の資金を動かせ」

 「聖燐の家を守った冒険者たち……《再定義者リデファイア》だな」

 「目障りだ。民の人気が上がれば、上層にとっては不都合だ」

 盃が小さく鳴った。

 その音は、闇の連鎖が再び蠢き始めた合図だった。


◇◇◇


 一方その頃、冒険者ギルド・夜の休憩室。

 ユウリは机の上に広げた通信紙を見つめていた。

 印字された文字には、市政の小さな動きが淡々と記されている。

 「議会で“監査官制度”が可決……ね。やけに動きが早い」

 リアナが紅茶を差し出しながら、穏やかに言った。

 「腐敗を表向きに取り締まるための制度、だそうです。……でも」

 「“でも”、裏がある」

 「はい。監査官に任命された数名の貴族が、赤鎖と繋がっていたという噂です」


 βの光が淡く瞬く。

 《補足情報:議会第三区より暗号通信を検出。キーワード“再編”“供給路”“灰の巣”》

 「灰の巣……あの廃坑か」

 ユウリの声が低くなる。

 かつて赤鎖の拠点だった地下坑道――壊滅したはずのその場所が、再び動き始めている。

 「つまり、あいつらは死んでない。残党どころか、再編中ってことか」

 ティアが椅子から立ち上がる。

 「じゃあもう一回ぶっ壊すしかないね!」

 「待て。今は証拠を掴む時期だ」

 「えぇー、また“我慢”?」

 「我慢じゃない。“準備”だ」

 ユウリの目が、焔のように光った。


◇◇◇


 翌日、街の西区。

 ユウリたちは表向きの依頼として、市政庁の修繕補助を請け負っていた。

 崩れた建物の修理、橋の補強、構文補助金具の設置。

 しかしその中で――ユウリは目立たぬ形で、街の魔力流を観測していた。


 《解析進行:地脈の歪み、貴族街地下より発生。非合法構文の残留反応あり》

 「……やはり地下か」

 リアナが周囲を警戒する。

 「昼間は普通の建設現場ですね。けれど……この魔力の“癖”は、赤鎖の構文と一致します」

 「奴ら、地下を再利用してる。――この街の下で、また繋がりを作ってる」

 ティアが拳を握る。

 「だったら今度こそ根っこごと引っこ抜こう!」

 ユウリは首を横に振った。

 「まだ早い。敵は“人の皮”を被って動いてる。こっちも“人の形”で掴む必要がある」


 ミナが不安げに尻尾を握った。

 「主様……また、こわい人たちと戦うの?」

 「戦うさ。でも今度は剣じゃなく、言葉で、理屈で壊す」

 「言葉で?」

 「“改造”ってのは、物だけじゃない。――制度も、意識も、全部“書き換え”られる」


◇◇◇


 夜、聖燐の家。

 マリネが子どもたちを寝かしつけ、窓辺で外を見ていた。

 街の灯が穏やかに揺れ、夜風がカーテンを撫でる。

 ふと、遠くに二つの影。ユウリとリアナが並んで歩いている。

 「……あなたたち、本当に人のために動いてくれているのね」

 その言葉は誰にも届かない小さな祈りだった。


 その頃、屋根の上ではミナとティアが星を見上げていた。

 「ねぇティア、主様たちって、難しいこと考えてるよね」

 「そだね。ボク、半分くらいしかわかんないや」

 「ミナも。でも……主様の顔、今日はちょっと悲しそうだった」

 ティアが空を見上げる。

 「多分、“人間の敵”が“人間”だからじゃない?」

 「……そっか」

 「でもさ、それでも主様は止まらないよ。ボクたちも止まんない」

 「うん。だって、今度は“街ごと守る”んだもん」

 白い尻尾と桃色の髪が、風の中で並んで揺れた。


◇◇◇


 翌朝。

 ギルドの報告室に、βが淡い光を放って現れた。

 《観測更新:市政庁地下の通信網に新しい信号。識別コード“L-VIRIDIS”。》

 「……貴族家の暗号名だな」

 ユウリはすぐに地図を広げる。

 「対象の屋敷、貴族街北端。――まさか、灰の巣の“真上”とはな」

 リアナが顔を上げた。

 「繋がっている?」

 「地下坑道と貴族邸。表と裏を、一本の管で繋げてる。……赤鎖の再編ルートだ」

 ティアが息を呑む。

 「じゃあ、次の敵は……」

 ユウリの視線が鋭く光る。

 「――“新しい王たち”だ」


◇◇◇


 夕暮れのギルド屋上。

 風が柔らかく、遠くで鐘が鳴る。

 ユウリは柵にもたれながら、静かに呟いた。

 「……壊したものを直すのは、簡単じゃない。でも、人が直そうとする限り、街は生きる」

 ミナが隣でうとうとしながら小さく頷く。

 「街、ちゃんと呼吸してるの……」

 「そうだな。……そして、その息を止めようとするやつらもいる」

 ティアが拳を掲げる。

 「じゃあ、主様たちはその息を守る番だね!」

 リアナが柔らかく微笑む。

 「ええ。――“人が人を繋ぐための手すり”は、まだ折らせません」


 空に小さな星が瞬く。

 夜は静かに、更なる闇を孕みながら、次の章へと続いていく。


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