表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/62

第51話「動き出す闇 ― 市場の陰で ―」

 日が沈む頃、グランテールの通りは人と香りで溢れていた。

 焼き串の匂い、甘い果実酒、そして活気に満ちた商人の声。

 ユウリたちは依頼帰りの報告を済ませ、久しぶりに穏やかな夕暮れを歩いていた。


「……やっと平和って感じだな」

 ティアが串焼きを頬張りながら笑う。

「主様、こっちの方が美味しいよっ!」

「はいはい、落ち着け。ソースが飛んでる」

 その隣でリアナが小さく微笑んだ。

「……こうして笑っていられる時間が、いちばん大事ね」


 ミナは手を繋いだまま、通りの屋台を見回していた。

 尻尾がゆらゆら揺れている。

「ねぇ主様。ミナ、こんな賑やかな街、初めて見るの!」

「気に入ったか?」

「うんっ! でも……」

 小さな声で続けた。

「……あの時みたいに、裏で泣いてる人も、きっとまだいるよね」

 その言葉に、ユウリの歩みが一瞬止まった。


◇◇◇


 ギルドに戻ると、受付のマリアがいつもの笑顔で迎えてくれた。

「おかえりなさい、《再定義者リデファイア》の皆さん。今日もお疲れ様です」

「ただいま戻りました。依頼報告と素材の提出を」

 マリアが手際よく査定を進める。

「……最近、街の外れでまた奴隷商人の噂が出ています。赤鎖の残党だとか」

「赤鎖の……?」

 ティアの表情が険しくなる。

 ユウリはマリアに視線を向けた。

「その情報源は確かか?」

「はい。実は――騎士団の一部が非公式に動いているようです。

 “上”が絡んでいる可能性があるとか」


 リアナが眉をひそめた。

「上……つまり貴族?」

 マリアは頷く。

「詳しくはまだ。でも、もし本当なら、街の子どもたちを守る立場にある人たちが……」

 その声は、少し震えていた。


 ユウリは短く息を吐いた。

「……やっぱり繋がってやがったか」

《観測ログ:赤鎖残党、組織的再編兆候》

 βの声が静かに響く。

《背後に上位指令層の存在を確認。市政権限階層との関連性、80%以上》

「つまり、貴族の誰かが黒幕ってわけだ」


◇◇◇


 ギルドを出た夜道。

 街灯の下で、ユウリたちは足を止めた。

 ティアが腕を組み、静かに言う。

「主様、もしまた子どもを狙う奴らが動いてるなら……ボク、黙ってられない」

 リアナが頷く。

「救えなかった命を、もう増やしたくない」

 ミナは少し俯き、尻尾を握りしめた。

「ミナも……あんな思いする子、もう見たくないの」


 ユウリは三人の顔を順に見渡し、わずかに微笑んだ。

「なら、やるしかないな」

「……つまり?」

「裏の貴族を炙り出す。赤鎖を“根ごと”潰す」


 夜風が吹く。

 遠くで鐘が鳴った。

 それは、静かに始まる人間社会の“闇との戦い”の合図だった。


 昼間の賑わいが嘘のように静まり返り、石畳を冷たい風が抜けていく。

 人々が安らぎを取り戻しつつある一方で、街の裏では別の動きが始まっていた。


 ――その噂は、冒険者ギルドの奥から漏れた。


「騎士団の一部が、赤鎖の残党を匿っているらしい」

「信じがたいが……情報は複数筋から出ているそうです」


 受付嬢マリアの声は低く抑えられていた。

 机の上には、市民からの通報記録と、押収された密書の写し。

 どれもはっきりとした証拠にはならないが、“繋がっている”という噂だけが確実に街を不安にしていた。


「……このままじゃ、グランテールそのものが腐る」

 マリアは小さく唇を噛んだ。

 「ユウリさん、あなたたちなら……裏の動きを探れるんじゃありませんか?」


 ユウリ・アークライトは、少し考えてから頷く。

「つまり、騎士団内部に協力者がいるってことだな?」

「はい。正直、すべてが敵ではありません。

 “正義を貫きたい”と思っている人も、まだ中にいます」

 マリアが差し出した小さな封書には、花の刻印が押されていた。

「“白百合”。騎士団の中でも清廉派の印です。その方と接触すれば、何かわかるはずです」


◇◇◇


 宿へ戻ったユウリたちは、すぐに作戦会議を始めた。

 木製のテーブルの上に地図を広げ、βの光が淡く部屋を照らす。


《分析結果:騎士団本部地下に、登録外の武具倉庫を検出。赤鎖の取引データと一致する確率、72%》

「やっぱりな。表向きの治安維持組織が、裏で奴隷商と繋がってる」

 ユウリの声は冷ややかだった。


 ティアが机を叩く。

「ボク、潜り込んでぶっ飛ばしてくるっ!」

「お前が潜り込んだら街ごと燃える」

「うぐ……」


 リアナがため息をつく。

「……あなたの“改造”で、もっと静かに動けるようにできないの?」

「できる。だが、潜入に向くのはティアじゃない」

 ユウリは横に座る白髪の少女へ目を向けた。

「――ミナ、頼めるか」


 ミナの狐耳がピクリと動く。

「ミナ、行くの? こっそり?」

「そうだ。お前の幻走術なら、敵の警戒を抜けられる。βが後方支援に回る」

「わかったの! ミナ、主様の役に立つの!」

 嬉しそうに尻尾をふわふわ揺らしながらも、瞳は真剣だった。

 奴隷として囚われていた過去が、今は力に変わっている。


 リアナが優しく頷く。

「無理はしないでね。あなたはもう、“誰かに命じられて動く子”じゃないんだから」

「うんっ。今は、“主様に褒めてもらいたいミナ”なのっ!」

 その言葉に、ユウリは思わず笑った。


◇◇◇


 夜更け。

 グランテール防衛騎士団の城門周辺は、規律正しい灯りが並び、見張りの足音だけが響く。

 だが、その屋根の上を、影のように走る者がいた。


 ――ミナ。

 白い髪と尻尾を黒い外套に包み、身軽に飛び移る。

 βの通信が、耳元で囁くように響く。

《警戒魔方陣、半径三十メートル範囲に一基。解除しますか?》

「ううん、ミナが抜けるのっ」

 軽く足を蹴ると、空気の中に淡い幻が散る。

 気配をぼやかし、視線を滑らせる――《幻走》の技だ。


 塔の影に降り立つと、二人の騎士が小声で話しているのが聞こえた。


 「今夜の搬入、また“黒商会”か?」

 「らしい。上の連中がうるさいんだよ。どうせ赤鎖の残りだ」

 「ははっ。坊ちゃん貴族どもは、奴隷が好きだからな」


 ミナの手が震えた。

 耳の奥で、あの鎖の音が蘇る。

 だが――すぐにユウリの声が浮かんだ。

 “怖くなったら、俺の声を思い出せ。お前はもう捕まらない”


 その言葉を胸に、ミナは息を整える。

「……幻尾、起動」

 尻尾の毛先が淡く光り、光の粒子が宙を流れた。

 音もなく動くその姿は、まるで夜の精霊。

 彼女は、騎士団の裏門へと滑り込んでいった。


◇◇◇


 同時刻、宿の屋上。

 ユウリはβの転送画面を通じて、ミナの映像を見ていた。

 ティアが隣で腕を組み、落ち着かない。

「主様、あいつらホントに許せない……」

「怒りは取っておけ。証拠を掴んでから、一気に叩く」

 リアナが祈るように呟く。

「……どうか、あの子に光を」


 βが信号を送る。

《主、ミナより映像信号。地下通路を発見。内部に輸送用檻三基。捕縛対象……確認。》

 ユウリの目が鋭く光る。

「来たな。動かぬ証拠、確定だ」




 その頃、騎士団地下の薄暗い倉庫。

 鎖の音とともに、覆面の男が歩く。

「予定通りだ。明日、グルム男爵の屋敷へ送る」

 ミナは影の中で、その言葉を聞いた瞬間――息を呑んだ。

 あの名は、忘れもしない。


 ――孤児を奴隷として売りさばいた、ブタ貴族の名。


 拳を握る。

 胸の奥で、何かが燃えた。


「主様……見つけたの。あのブタ、まだ、生きてるの」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ