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追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第39話「冒険者ギルドへ行こう」

 グランテールの街は、思っていたよりもずっと活気があった。

 石畳の広場には露店が並び、旅人や傭兵たちが行き交う。

 パンの香ばしい匂いと、鉄のきらめきが交ざる空気の中で――ユウリたちはひときわ目立っていた。


「すごい……人が、こんなに……!」

 リアナが純白のローブの裾を押さえながら、感嘆の息を漏らす。

 彼女にとっては、神殿と戦場以外の“普通の街”は、もう何年も見ていなかった光景だった。


「へへっ、見てご主人様っ! あっちの店、肉串焼いてる!」

 ティアが嬉しそうに尻尾をぶんぶん振る。

 すかさずユウリが指を鳴らした。

「おい。耳、尻尾、ウロコ、全部隠せ。神話級の種族がうろついてたら、騒ぎになるぞ」

「うっ……またゴツゴツのこと言う〜!」

「事実だろ。モフモフだったら可愛げあるのに」

「ひどっ!」

 ティアの抗議に、リアナが苦笑する。

「ふふ……ユウリ様、そういうところは相変わらずですわね」


 そんな他愛ないやり取りをしながら、一行は街の中心へ向かった。

 目指すは――グランテール冒険者ギルド。

 赤煉瓦の大きな建物の正面に、金色の盾の紋章が掲げられている。


◇◇◇


 扉を開けると、酒と革と鉄の匂いが一気に押し寄せた。

 掲示板には無数の依頼札が貼られ、受付カウンターには列ができている。

 その中で、一人の女性がひときわ印象的だった。

 栗色の髪をポニーテールにまとめ、琥珀の瞳が理知的に光る。

 ――マリア。グランテールギルドの受付嬢だ。


「ようこそ、グランテール冒険者ギルドへ。登録ですか?」

「ああ。三人で一つのパーティとして」

「承知しました。まずは代表者名を」

「ユウリ・アークライト」

「……ユウリ様、ですね。職業は?」

「改造師。世界の理や物質を再定義・改造できる」

 マリアの手が一瞬止まった。

「改造……師? そんな職業、聞いたことが……」

「だから登録に来た」

「……なるほど。では、パーティ名を」

「《再定義者リデファイア》で」

「再……定義者。面白い名前ですね」

 彼女の口元に、ほんの少しだけ笑みが浮かぶ。


 続いてティアが身を乗り出した。

「ボクはティア・ドラグネア! 職業は竜闘士!」

「りゅ、竜闘士……!? ええと、登録種別は“人型”でいいかしら……?」

「ご主人様の改造で“ほぼ人間”になったから大丈夫!」

「……なるほど。ほぼ、ですね」

 マリアは苦笑しつつ、さらさらと書き込んでいく。

 最後にリアナが静かに前へ進んだ。

「リアナ・エルセリア。職業は祈導士。祈りを癒しと結界に変える支援職です」

「……祈導士。珍しい職業ですが、素晴らしい響きですわ」


 三人の登録を終えると、マリアはギルドカードを一枚ずつ手渡した。

 それぞれのカードには、名前・職業・所属パーティ・初期ランクが刻まれている。

 ランク欄には――【イプシロン】の文字。


「あなた方の初期ランクは、最下位のイプシロンです」

 マリアが丁寧に説明を続ける。

「下から、イプシロン → デルタ → ガンマ → ベータ → アルファ。

 そして特例称号として“オメガ”。――世界の英雄たちがいる場所です」

「ふむ……最下位スタートってわけか」

「ええ。でも実績次第ですぐに上がります。

 たとえばデルタになるには、三件の依頼成功と、被害ゼロ報告が条件です」

「へぇ、意外と地道だな」

「ええ。強さだけでは測れませんからね」


 ティアがカードを見ながらにやにや笑う。

「イプシロンってことは……新米中の新米だねっ! ご主人様、初依頼いこ!」

「お前、絶対はしゃいで失敗するタイプだな」

「えっ、そんなことないもん!」

「さっき肉串の匂いに釣られて転んだ奴がよく言う」

「うわぁ! 見てたの!? 恥ずかしい〜!」

 受付前で軽く笑いが起きる。

 マリアもくすりと微笑んだ。

「……いいパーティですね。なんだか、久しぶりに“希望”を感じました」


 ユウリはカードをポケットにしまい、視線を上げる。

 掲示板には、見慣れない依頼がずらりと並んでいた。

 その中でひときわ目を引く一枚――

 [依頼ランク:イプシロン]“湿原のスライム駆除”。

「……いいな。肩慣らしにはちょうどいい」

「スライムかぁ〜。ボク、焼きスライムにしちゃってもいい?」

「……やめろ。被害ゼロが条件だ」

「えぇ〜!」

 ティアが頬をふくらませ、リアナが微笑む。

「うふふ……また騒がしくなりそうですね」


◇◇◇


 外に出ると、昼の光が眩しかった。

 ティアはギルドカードを両手で掲げて飛び跳ねる。

「やったぁ! 正式に冒険者デビューだっ!」

「はいはい、落とすなよ」

「これ無くしたらご飯抜き!?」

「そういう問題じゃない」


 リアナはカードを胸に抱き、静かに笑う。

「こうして……人の中に混じって生きるの、本当に久しぶりです」

「神の加護より、こっちの方が温かいだろ」

「……はい。皆が笑っている。祈りよりも、ずっと幸せそうに」


 風が吹き抜け、遠くで子どもたちが遊ぶ声がする。

 ティアが鼻をひくひく動かした。


「……ん? ご主人様、あれ! お肉の匂い!」

「またかよ」

「ねぇリアナさん、行こ! あれ絶対おいしいやつだよ!」

「ちょ、ティアさん! 走らないで!」


 二人が市場通りへ駆けていく。

 ユウリは呆れたように息を吐きつつ、どこか優しい顔をした。


「……まぁ、悪くないスタートだな」


 空は青く、街の鐘が鳴る。

 

 新しい街。新しい立場。

 そして、“神の手を離れた者たち”による、新たな冒険の始まりだった。


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