第32話「空を焦がす祈り」
堕獣の群れが波のように押し寄せ、廃都アルセリアの外壁を黒く覆う。
地鳴りが響き、瘴気の霧が空を覆うたびに、赤い稲妻が閃いた。
《防衛結界、外層に損傷。第三区の炎壁、出力低下――37%》
神託端末βの報告に、ユウリ・アークライトは短く息を吐く。
制御盤の前、彼の手は休まることがなかった。
次々と崩壊する構文を補修し、戦場の全てを“見ながら改造”していく。
「……クソッ、持ってくれよアークコア。これ以上落としたら都市全体が丸裸だ」
《了解。補助ルートを再定義中……》
火花が散る。
装置の奥で青白い光が走り、崩壊しかけた構文が一瞬だけ蘇る。
その瞬間、外壁の上で閃光が走った。
「《龍炎槍・ヴァーミリオンスパイク》――ッ!!!」
ティア・ドラグネアが空中で翼を広げ、光の槍を投げ放つ。
蒼炎の矢が連鎖爆発を起こし、堕獣の群れを次々に焼き払った。
爆風が吹き荒れ、翼の羽根が散る。
「ご主人様ーっ! こっちはまだいけるよっ!」
「調子に乗るな、ティア! 南側の防衛線が薄い、回れ!」
「了解っ!」
笑顔で応える声が、夜風に乗って響く。
その明るさが、この地獄のような戦場に確かな光を灯していた。
◇◇◇
リアナ・エルセリアは城門の前で、聖杖を地に突き立てていた。
彼女の周囲には数十本の光の柱が立ち上がり、祈りの輪を形成している。
かつて“神の力”として使っていたその奇跡を――いまは“人の理”で操っていた。
「《純聖再生・結界式――聖域反転》!」
光が走り、堕獣たちの進行が止まる。
白金の輝きが彼らの瘴気を浄化し、足を焼く。
しかし、リアナの肩がわずかに震えていた。
祈りを発するたび、心の奥で“声”が響くのだ。
――リアナ。お前は、裏切り者だ。
――神を棄てて、人の側についた。
幻聴のような声。
それは、かつて彼女が信じた“神”の残響。
聖印がわずかに脈動し、黒く染まりかける。
「……違う。わたしは裏切っていません……。ただ――信じるものを変えただけ」
リアナは胸に手を当て、ユウリの背を見つめた。
あの人がいる限り、自分は前を向ける。
「だから、黙りなさい……!」
祈りの光が爆ぜ、聖印が再び純白を取り戻す。
その瞬間、βの声が上がった。
《光属性干渉率上昇――聖波動、安定しました》
「……ありがとう、β。これで、もう少し持ちこたえられます」
◇◇◇
戦場の上空。
ティアが堕獣の群れに突撃し、竜炎で夜空を切り裂く。
彼女の翼から流れ出す光は、すでに“炎”ではなかった。
風と雷を帯びた“龍神の奔流”。
「行けぇぇぇっ!!!」
龍の咆哮が轟き、堕獣たちが蒸発する。
しかしその中心で、ひときわ大きな影が立ち上がった。
それは、かつての“神官長”の姿を模した堕獣。
全身が白骨化し、祈りの布をまとっている。
両手には聖印――だが、光は黒かった。
「……あれ、“人の形”してる……?」
ティアが息を呑む。
その堕獣が、口を開いた。
「――祈リヲ、返セ」
空間が震える。
祈りの波動が周囲を吹き飛ばし、ティアの体が弾き飛ばされた。
堕獣の両腕から無数の鎖が伸び、空を縫うように広がる。
《警告:敵個体“神罰残滓Lv3” 識別名:フェイスイーター・プロト》
「ご主人様っ!!」
「見えてる! β、あの構文を解析しろ!」
《解析中……構文名“信仰再帰式”。対象の信仰を逆流させる攻撃――》
「なるほど、祈れば祈るほど吸い取られる仕組みか……!」
ユウリが剣を抜く。
「ティア、上から! リアナ、祈りは使うな!」
「了解っ!」
「ええっ、でも……!」
「信仰じゃ勝てない! “理”で焼き切る!」
ユウリの剣が光を帯びた。
《改造モード:戦術近接――アークレイ・システム起動》
彼の身体能力が跳ね上がり、廃都の屋根を蹴る。
爆風を巻き起こしながら、フェイスイーターへ一直線に飛び込む。
その動きは、人のものではなかった。
神を棄て、理を超えた者――コード改変者。
彼の斬撃が、神の残滓を両断する。
「――これが、“正しい修正”だ!!」
光が弾け、堕獣が断末魔を上げる。
その隙を逃さず、ティアが炎を纏って突撃。
「《龍炎衝破・ブレイズノヴァ》!!!」
爆発。
夜空が一瞬、昼のように白く輝いた。
◇◇◇
数分後――
戦場に、静寂が戻った。
風が吹き抜け、焼けた石壁が赤く光る。
堕獣の残骸が黒灰となって崩れ落ちる中、ティアがふらつきながら降り立った。
「はぁ、はぁっ……やった……? ボク、燃え尽きそう……」
「無理するな。お前が倒れたら街が泣く」
「えへへ……ご主人様、ちゃんと褒めて?」
「……よくやった、ティア」
「ふふっ、えへへへ……」
ティアの尻尾がゆっくりと揺れる。
リアナも光杖を下ろし、安堵の息をついた。
「……これで、一息ですね」
「いや、まだ終わっちゃいない」
ユウリが遠くの空を見上げる。
そこには――
微かに、白金の光。
《観測ログ:高層構文層より微弱通信……発信元、神界》
「……上が、こっちを見てる」
風が凪ぎ、三人の影が並ぶ。
戦いは終わらない。
だが、確かに今――
“人が神に抗うための力”が、ひとつ形になった。
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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
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