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追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第3章

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第27話「廃都の新しい朝 ―龍神と聖女の街―」

 夜が明ける。

 それはまるで、千年の闇が一枚の薄布のように剥がれ落ちていく瞬間だった。


 廃都アルセリア――かつて神に捨てられた実験都市。

 瘴気に覆われ、誰も寄りつかぬ死の地と化していたこの場所が、今はもう違う顔をしていた。


 塔の高みで、ユウリ・アークライトは静かに立っていた。

 白金の髪を風に揺らしながら、まだ冷たい朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。


 遠く、瓦礫の街路を淡い光が満たしていく。

 崩れた家屋は再構築され、灰色だった石畳は青白い魔力の筋を流して輝きを帯びる。

 噴水からは澄んだ水が流れ、光の粒が風に舞っていた。


 ――世界が、生まれ変わる音がする。


 ユウリは目を細めた。

 この街を再生させるため、どれほどの改造を重ねてきたか。

 《神造都市》という名の墓場を、人の理で蘇らせる。

 それはもはや「修復」ではなく、「創造」だった。


「……おはようございます、ユウリ様。」


 背後で、柔らかな声が響いた。

 振り向けば、陽光を受けた金髪がきらめく。

 聖女リアナ・エルセリア――

 その手には、純白の聖杯に注がれた透明な水があった。


「聖水の再精製、完了です。都市の濾過層も完全に安定しました。」

「……綺麗だな。」


 ユウリは一歩近づき、光を透かして見る。

 かつて“呪いの泥水”だったものが、今は生命を癒す輝きを放っていた。


「あなたの手で、呪いが祝福に変わったんですよ。」

 リアナが微笑む。

 その笑みには神への祈りではなく、ひとりの人間への信頼があった。


「俺の改造は理屈の積み上げだよ。祈りとは違う。」

「理屈を積み上げて人を救う――それを“奇跡”と呼ぶのです。」


 穏やかに告げるリアナの声を、風が運ぶ。

 その一瞬、ユウリの心にあった冷たさが、ほんの少しだけ溶けた。


◇◇◇


 下層――中央訓練場。

 巨大な魔法陣が刻まれた地面で、轟音が鳴り響く。


 炎と風、雷と光が交錯する。

 中央に立つ少女が、両の手を交差させた。


「龍神咆哮――《アークバースト・モード》!!!」


 爆音。

 龍神ティア・ドラグネアの身体から、紅と蒼の炎が奔った。

 空気が弾け、地面が波打つ。

 まるで大地そのものが息をしているようだった。


 ユウリが見上げる。

 翼を広げ、陽光を浴びて飛ぶティアの姿は、もはや竜人ではなかった。

 額の紅角は黒金に変わり、瞳は琥珀の中に雷を宿す。

 空を割くその姿は、“神話の龍”と見まがうほど。


 それでも、彼女の笑顔はどこまでも少女のままだった。


「ご主人様ーっ! 見た!? 今のすっごく綺麗に爆ぜたよねっ!!」

「……ああ、派手だったな。十点満点中、七点。」

「えぇ!? 減点理由なに!? ちょっとくらい褒めてよぉっ!」


 ティアが尻尾をぱたぱたさせながら地上に降りてくる。

 その後ろで焦げ跡を見つけて、あわあわと慌て始めた。


「え、ちょっと……! 地面燃えてる! やばっ!」

 彼女の声に、リアナが苦笑を浮かべて歩み寄る。


「大丈夫です。あなたの炎はもう、穢れを焼かない。」

 静かな声でそう言いながら、両手を合わせる。


「《純聖再生》。」


 光が走り、焦げ跡が瞬時に花の形を成して消える。

 白い光の中で、ティアが呆然とした。


「……ねぇ、リアナ。ボクの炎、もう怖くないの?」

「ええ。炎も祈りも、本来は“誰かを生かすため”のものです。

 それをあなたが思い出してくれた。だから――もう怖くない。」


 ティアの瞳がうるんだ。

 胸の奥に熱がこみ上げる。

 龍神の心臓が、やさしい鼓動を打った。


「ありがとう。ボク、もっと強くなる。

 今度は燃やすためじゃなくて……守るために!」


 リアナはそっと頷いた。

 その隣でユウリが腕を組み、満足げに笑う。


「いい心意気だ、ティア。――だが、明日は爆破規模を半分にしろ。」

「うぇぇぇぇぇぇ!? せっかくノッてたのにぃ!」


 彼らの笑い声が、かつて死の都だった空に響いた。


◇◇◇


 夕暮れ。

 アークコアの蒼光が沈み、都市の照明が灯る。

 神罰を受けた街が、今は人の手によって蘇った“青い星”のように輝いていた。


 ユウリは塔の端末前に立ち、βの報告を聞いていた。


《観測:都市機能安定。結界率、99.7%。》

《堕獣波形:検出なし。》

《外部通信:微弱信号あり。発信源、不明。》


「また上からの干渉か……」

 ユウリが眉を寄せる。


 端末の光が一瞬、金に揺らめく。

 βの声が、少しだけ震えていた。


《内容解析……失敗。断片取得――》

【観続けよう。まだ終わらぬ。】


「……観測、か。」

 ユウリは小さく笑い、空を見上げる。


 龍神ティアが空を舞い、尾から光を散らしている。

 リアナは祈りの子供たちに水を配り、

 街のあちこちから笑い声が上がる。


 風が頬を撫でた。

 冷たくも暖かい、まるで“見守る誰か”の手のように。


 ユウリは小さく呟く。


「神が見てるなら、それでいい。

 ――どうせ俺たちは、人の手で世界を作り直すんだ。」


 風が鐘を鳴らす。

 その音に合わせて、βが小さく応答する。


《了解……たぶん。》


 ユウリが吹き出した。

 ティアの笑い声が空から降ってくる。

 リアナが振り返って、穏やかに微笑む。


 アルセリアの空に、穏やかな光が満ちていた。

 神罰の街は――いま、人の理によって息を吹き返す。


 それは、誰も知らない“第二の創世”の朝。

 かつて神が見放した場所で、人は再び世界を描き始めていた。

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