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追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第2章

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第18話「堕獣の群れ、北方より ―咆哮の空―」

 昼下がりの陽光が、崩れた街路を金色に染めていた。

 アルセリアの空は静かで、風に運ばれる魔力粒子が光の粉のように舞っている。

 神々が去って久しい都市に、ようやく“生活”の気配が戻り始めていた。


 神殿跡の一角、ユウリは《防衛構文:ドラゴンシールド・モード》の調整を行っていた。

 光の術式陣が地面に広がり、複雑な回路が螺旋状に組み上がる。

 ティアがその隣で腕を組み、尻尾をぱたぱたと揺らす。


「うーん……これ、もうちょっと火力上げた方がいいんじゃない?」

「防御壁に火力はいらねぇ。燃やすな」

「えぇ~だって炎の方が安心するんだもんっ!」

「安心の定義が間違ってる」


 ティアの頬を軽くつついて、ユウリは再び構文を走らせる。

 空気がかすかに震え、青い防壁が街の輪郭に沿って展開された。


《結界連動率:83%。安定化まで残り120秒……》


 神託端末βの無機質な声が響く。

 その球体は神殿の上空に浮かび、薄く光を放っていた。

「よし、これで北門側は――」


 その瞬間、βの光が一気に強くなる。


《警戒。北方境界に瘴気濃度の異常上昇。堕獣群反応、接近中――》


「……数は?」


《十四体。主個体を含む。残滓構文の強度、危険域》


「群れで動くとはな……神罰構文の暴走、想定以上だ」

 ユウリの声は低く落ち着いていた。

 焦りも怯えもない。ただ冷静な判断。


 彼の背で、ティア・ドラグネアが尻尾を大きく揺らす。

「やっと来たね、ご主人様! あの黒いの全部倒しちゃえばいいんでしょっ!」

「焦るな。あれは神の失敗作だ。油断すれば喰われる」

「……へへ、喰われる前に燃やせばいいの!」

 ティアの口元が戦闘狂のように吊り上がる。

 その笑みに、獣の血が滲んでいた。


◇◇◇


 北門の外。

 霧の向こうで、重たい足音が響く。

 ドン――ドン――。

 まるで地面そのものが心臓のように脈打つ。


 ユウリは剣を地に突き、膝をついて地脈を感じ取った。

「……来るな。三十秒以内だ」

 視線を上げる。


 黒い影が霧を裂いて姿を現した。

 獣の骨を歪めたような異形。

 背に生えた翼は皮と金属が癒着し、口の奥で白い炎が渦を巻いている。

 堕獣――神の残骸。


 その中でも一際大きな影が、低く頭を下げ、

 ――咆哮した。


 耳を裂くような爆音。

 空気が震え、廃都の瓦礫が崩れ落ちる。

 ティアの髪が激しく揺れ、リアナが思わず胸元を押さえた。


「なに、この……音……! 心臓が、焼ける……!」

 リアナの膝がかすかに震える。

 かつて神罰の光を浴びた記憶――その残滓が身体に蘇る。


「リアナ、下がれ!」

「だい、じょうぶ……です……!」

 彼女は杖を構え、震える手で印を結んだ。

「……《聖域展開サンクトゥム》!」


 光の輪が広がり、霧を押し返す。

 その中心で、リアナの瞳にかすかな炎が宿った。


「……今度は、逃げません」


◇◇◇


「ティア、上空から動きを見ろ!」

「了解、ご主人様!」


 ティアの背に炎の翼が展開し、地面を蹴って空へと舞い上がる。

 空を裂く熱風が堕獣たちの群れを照らした。

 十を超える影が蠢き、地を蹴って疾走してくる。


「数が多すぎる……けど、怖くない」

 ティアは槍を構え、笑った。

「だって、ご主人様が見てるもん!」


 翼の下で炎が爆ぜた。

「――《龍炎走(Draconic Burst)》!」


 赤い光線が大地を裂き、堕獣の群れに突撃する。

 爆発と炎が交錯し、灰と血が空を染めた。


 だが――。

 爆炎の中から、焼けただれた堕獣が立ち上がる。

 皮膚が剥がれ、骨の隙間から瘴気が溢れ出る。

 燃えても、死なない。


「……マジかよ」

 ユウリが剣を構える。

 剣身の上に光の構文が走り、彼の瞳が鋭く光る。

「構造を読み取る……再構築開始」


 足元の術式陣が浮かび上がり、ユウリの剣が微かに脈打つ。

「《断裂斬(Code Slash)》」


 一閃。

 空気が裂け、前方の堕獣が縦に断ち割られる。

 瘴気が爆発し、血煙が舞う。


 しかし次の瞬間、裂けた肉の中からもう一つの頭が生まれた。

「再生構文か……! 面倒な作りしやがって!」


◇◇◇


「ユウリ様っ!」

 リアナの声。

 彼女の聖光が結界の上で揺らいでいる。

 額には汗。祈りを捧げる手が震えていた。


 加護を失った体は、神の呪詛を受けるだけで限界に近い。

 でも、彼女は祈りをやめなかった。

「わたしの……光は、神のものじゃない……! ユウリ様が――わたしにくれたものですっ!」


 その瞬間、リアナの足元に展開していた聖印が明るく輝いた。

 結界が再び強化され、瘴気の侵食が止まる。


 ティアが空から叫ぶ。

「ご主人様っ! 中央のデカいの、構えてる! なんか吐くよっ!」

「避けろ、ティア!」


 咆哮と共に、主堕獣の口から白炎の奔流が放たれた。

 地面が焼け、街の外壁が崩壊する。


 ティアは炎の翼を広げて防ぐが、衝撃で弾き飛ばされた。

「きゃ――あああっ!!」


 ユウリが即座に走る。

「ティア!」

 炎と煙の中に手を伸ばし、彼女を抱き止めた。


「ご、ご主人様……まだ、やれる……!」

「無理すんな。焦るな。戦いはここからだ」

 ユウリは片手で彼女の頭を支え、剣を構え直した。


 灰の空に、再び堕獣の咆哮が響く。

 その声はまるで、神の嘲笑のように世界を揺らしていた。


「上等だ……見せてやるよ、神の残骸」

 ユウリの目が鋭く光る。

「“改造”ってのがどういう意味か――この街で、教えてやる」


 炎と瘴気がぶつかり合う。

 アルセリア北門防衛戦、開幕――。






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