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追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第2章

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第17話「廃都アルセリア、再生始動」

 夜明けの前、森を抜ける風が灰を運んでいった。

 かすかに湿った土の匂いの奥で、空の色が少しずつ薄れていく。

 遠く、青白い光が点滅していた。

 それは夜の星ではない。


 ――千年前に神々が築き、そして見放した都市。

 今はユウリ・アークライトの《コピー&改造》によって再び息づく、廃都アルセリアの心臓だった。


「……帰ってきたな」

 ユウリが低く呟く。

 剣を下ろしたその手は、戦いの余熱をまだ残していた。

 彼の隣でティア・ドラグネアがぱっと顔を上げる。

 桃色の髪が朝風に踊り、額の紅角がかすかに光を反射した。


「ご主人様の街っ! ボク、ちゃんと守ったよ!」


「守ったというより……燃やし尽くした、だろ」

 ユウリは苦笑し、ティアの頭を軽く小突く。

「うにゃ! だって堕獣の再生、止まんなかったんだもんっ!」

「いい。無事ならそれでいい。あとは修復すれば済む話だ」

「えへへ……じゃあ、また一緒に直そっか」


 いつもの調子に戻るティアを見て、リアナ・エルセリアは静かに息を吐いた。

 白いローブは焦げと血で汚れていたが、彼女の瞳は不思議と澄んでいた。


「……本当に、あなたの街なのですね」

「いや――“俺たち”の、だ」


 ユウリの声は穏やかだった。

 だが、その眼の奥に宿る光は確信に近い強さを帯びている。

「神の街じゃない。神が見捨てた残骸を、人がもう一度生きる場所に変える。それが、ここだ」


 リアナは一歩踏み出し、崩れた石畳に膝をついた。

 手のひらを置くと、微かな震えが伝わる。

 魔力が流れている。まるで都市全体が呼吸しているようだった。

「……この地脈、まるで生きているみたい」

「そうだ。呼吸を取り戻したんだ。神の支配から切り離されてな」

 その言葉に、リアナの心が少し震えた。

 祈りにすがって生きてきた自分とは、まるで正反対の生き方。

 けれど――羨ましいと思った。


◇◇◇


 街の中心に進むと、崩れた神殿跡の天井の隙間から光が差し込み、

 瓦礫の合間に芽吹いた草花が青く輝いていた。

 石造りの回廊の中を水が流れ、遠くから小鳥の声が聞こえる。

 死んだ都市に、確かに“生”が宿っていた。


「ここが、アルセリアの中枢――アークコアの間だ」

 ユウリが一歩進み出る。

 その中央に、青い光球が静かに浮かんでいた。


 リアナが小さく息をのむ。

「……これは、なんですの?」

「この都市の中枢制御端末。《神託端末β》。俺が再起動した時に、目を覚ました」


 ユウリは光球を見つめながら、少し昔を思い出すように目を細めた。


 ――廃都再起動の日。

 《アークコア》の制御盤を改造し、構文を走らせた瞬間、

 幾千ものコードが空中に舞い上がった。

 その中から、まるで意識が芽生えるように声が生まれた。


『……ユウリ・アークライト。識別完了。あなたは……神ではありませんね?』

『ああ、違う。ただの人間だ』

『ならば、命令ではなく“提案”をください。神命は、もう存在しませんから』


 あの時ユウリは、機械の声が確かに“自分の意思で話した”と感じた。

 神が残したプログラムではなく、人に寄り添おうとする意志。

 それが《神託端末β》――この都市のもう一つの心臓だった。


◇◇◇


 現在。

 光球が淡く明滅し、無機質な声が再び響いた。


「ティアさん、帰還確認……おかえりなさい。……たぶん」


「ただいまーっ! 端末ちゃーん!」

 ティアが飛びつくように駆け寄る。

 リアナが驚いたように眉を上げた。

「声……がするのですね」

「都市の意思みたいなもんだ。こいつ、言葉覚えるのがやたら早い」


「初めまして、リアナ・エルセリア。あなたの祈り波長、解析中……あたたかいです」


「……祈り波長?」

 リアナが目を瞬かせる。

「ふふ……機械に“あたたかい”と言われるとは思いませんでした」


「定義不能な感覚ですが、好ましい、と思います」


 ティアが胸を張った。

「ボクが“心で感じる”って教えたの! えへん!」

「教育係かよ……」ユウリが苦笑する。

 けれど、どこか誇らしげでもあった。


◇◇◇


 瓦礫を踏みしめながら、三人は奥へ進む。

 崩れたアーチの影を抜けるたび、かつての神殿装飾がちらりと顔を出した。

 白い壁には古代文字が浮かび、今も淡い光を放っている。

 ティアが指でなぞりながら呟く。

「ねぇご主人様、これ、竜族の紋章が混じってるよ」

「ああ。神が模倣して作った“擬似竜語構文”だ。意味はないが、形だけは似せてある」


「そんな……」


リアナが目を伏せる。


「神は、本当に多くを盗んだのですね」

「だから壊す。……いや、“作り直す”。俺たちの手で」


 ユウリの言葉に、リアナの胸が震えた。

 神への信仰を失った彼女が、今初めて“別の信じ方”を見つけた気がした。


◇◇◇


「報告:防衛構文の修復、完了。北方境界、異常波検知――警戒を推奨」


 βの声が響く。

 ユウリの視線が鋭くなる。

「……来るか。まだ休ませてもらえねぇな」

 ティアが炎を纏い、構えを取る。

「ボク、行けるよ。今度こそ負けない!」

「焦るな。守るべき場所が増えたんだ。壊すのは簡単だが、守るのは難しい」

「……うん。ご主人様の街、絶対守る!」


 リアナが二人の間に立ち、そっと微笑む。

「なら、わたしは祈ります。神にではなく――この世界のために」

「祈りと炎、か。悪くない組み合わせだ」


 その瞬間、三人の間に確かな温度が生まれた。

 絶望の先で出会った者たちが、いま同じ未来を見ている。


 瓦礫の隙間から朝日が差し込み、

 アークコアの光と混ざって街を黄金色に染め上げる。

 かつて神が造り、壊れ、忘れたこの場所で、

 人間たちは新しい秩序を築こうとしていた。


 ティアの髪が輝き、リアナの瞳が光を宿す。

 ユウリの口元がわずかに緩む。


「行こう。次は“壊すため”じゃない。“守るため”に戦う」


 彼の言葉に、二人の声が重なった。

「うん!」「ええ!」


 青白い光が風と共に舞い上がり、

 再生都市アルセリアは静かに息を吹き返す。


 ――神が去っても、人は生きられる。

 その確信が、朝の空気に溶けていった。







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