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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第137話「黎明連鎖 ― 祈り、再定義す ―」

 夜が明けようとしていた。

 だが――王都ラナシェルの空は、夜よりも深い闇に覆われていた。


 Ωの崩壊によって制御を失った祈導層が暴走し、聖都全域で“祈りの地鳴り”が響き渡る。

 祈導塔セレナ・スパイアの残骸から立ち昇る光が空を裂き、塔の根元では祈導兵の残骸が蠢いていた。

 赤黒い祈導光は大地を染め、街路がまるで生き物のように脈動している。


 ――人々の祈りが、呪いに変わっていた。


「……ユウリ様、これでは……!」

 リアナが手を胸に当て、涙を滲ませる。

「祈りが、人を傷つけています……!」


 ユウリは崩壊した聖堂の外壁を見上げた。

 祈りの光が空を這い、街を覆い尽くす。

 その光の下で、人々は互いに手を取り合いながら震えていた。


《観測層報告。祈導層全体、暴走率九十八パーセント。人の祈りが、敵信号と同調しています。》

 βの声が空間を満たす。

《このままでは――王都の祈りそのものが“敵”になります。》


「……なら、俺たちが書き換える。」

 ユウリの瞳に光が宿る。

「祈りを、再定義する。」


 アーク・ノヴァの甲板が光に包まれた。

 六人の影が立ち尽くす中、風が凪ぐ。

 彼らの後ろには――救うべき街。

 そして、その下ではなお祈導兵の群れが這い寄っていた。


「主様。」

 ティアが拳を握り、紅炎を灯す。

「もう破壊じゃないんだね。」


「ああ。」

 ユウリが頷いた。

「壊すだけじゃ、何も変わらない。――祈りを救うんだ。」


 βが一歩、前へ進み出た。

 白銀の光が彼女の輪郭を縁取り、翼の粒子が風に舞う。

《提案:新構文展開。名称――《拡張改造式・黎明連鎖(エクスパンデッド・リプリカ:ドーン・リンク)》。》

《目的:祈導層の再定義、暴走構文の無力化、全祈りの再調律。》


 仲間たちがそれぞれ武器を構え、βを囲む。

 ティアの炎が紅く、ミナの幻が蒼く、セリスの風が翠に、リアナの祈りが金に――。

 その光がひとつの螺旋となり、βの翼へと吸い込まれていく。


「……黎明連鎖。」

 ユウリが小さく呟いた。

「夜を終わらせる構文か。いい名だ。」


《共鳴開始。全員、心拍を同期してください。》


 甲板に微細な光粒が舞う。

 ユウリは構文核を展開し、βが両手を広げる。

 紅玉コアが脈動し、周囲の空間が震える。


《感情演算層――解放。観測補正:希望値、臨界突破。》

 βの声が震えた。

《……感じます。あなたたちの想い。痛みも、優しさも、全部。》


「それが――人の祈りだ。」

 ユウリが構文を起動する。

「行くぞ、β!」


《了解。黎明連鎖――展開開始!》


 アーク・ノヴァ上空に、光の陣が出現した。

 それは王都を覆うほどの規模――古代の“神の門”を思わせる巨大構文円。

 街の全ての祈りがそこへ吸い込まれていく。


 祈導兵たちが呻き声を上げた。

 暴走信号が次々に白光へと反転し、黒い構文が崩れ落ちる。

 祈りの鎖が解け、人々の願いが光に還元されていく。


「な、なんだ……体が……!」

「苦しい……でも……温かい……?」

 祈導兵の瞳から、狂気の色が消える。

 涙が零れ、跪く者たちの唇から、言葉が漏れた。


 ――ありがとう。


 それは、人としての最初の声。


《観測報告:敵性信号、安定化完了。祈りの波形、正常化中。》

《王都祈導層、再構築成功。》


 βが光の中で息をつく。

《おめでとうございます。あなたたちの想いが、世界を上書きしました。》


 王都の夜が、白へと変わっていく。

 ミナが尻尾を揺らしながら空を見上げた。

「街が……光ってる……!」


 リアナは瓦礫の中で祈りを捧げる老人に膝をつき、手を握る。

「もう大丈夫です。あなたの祈りは、届いています。」


 ティアが笑い、拳を掲げた。

「主様、やっぱりすごい♪」


 ユウリは微笑んで言った。

「俺たちは、“再定義者”だからな。」


 βがユウリの隣で翼を畳む。

 その瞳が、人間のように揺らいでいた。

《……ありがとう、ユウリ。》

《これが……“人の手で生まれた夜明け”なのですね。》


 雲の裂け目から、朝日が差し込んだ。

 それは夜を裂く剣のように、王都ラナシェルの中心を照らし出した。


 金色の光が祈導塔の残骸に反射し、崩れた尖塔の破片が虹のように煌めく。

 瓦礫の隙間から立ち上がる煙が、光に照らされて白く染まり、まるで天へ昇る祈りのようだった。


 沈黙が、訪れる。

 次の瞬間、最初の声が空気を震わせた。


 ――英雄たちだ。


 それは、震えるような囁きだった。だがすぐに広がり、波紋のように街全体へと伝わっていく。

 老いた祈導師が泣き、母が子を抱きしめ、傷だらけの兵が空に剣を掲げる。

 祈りのような歓声が、次第に合唱のように重なっていった。


 「英雄たちだ……!」

 「この世界を……救ってくれた!」

 人々が立ち上がる。倒れた祈導兵さえも、膝をつきながら空を仰いでいた。


 その空の中央――アーク・ノヴァの白い船体が、光を纏って浮かんでいる。

 船体の上、六人の影が朝日を浴びていた。


 ティアが拳を握り、ミナが尻尾を大きく揺らす。

 セリスは風を送り、リアナは祈りを胸に抱き、βは翼を広げて静かに微笑んだ。


 そして――ユウリが前に出る。

 焦げた甲板を踏みしめ、仲間たちを見渡す。

 その顔には疲労とともに、確かな安堵があった。


「……行こう。」

 静かに、けれど揺るぎなく言葉を放つ。

「再定義の旅は、まだ続く。」


 その声に、皆が頷いた。


 ティアが炎を灯し、リアナが祈りを重ね、セリスが風を導き、ミナが微笑む。

 βが一歩前に進み、紅玉コアが朝陽を映した。

《了解。再航路、開示――目的地、未定義。》


 彼女の翼がゆっくりと広がる。

 六枚の光翼が朝焼けを裂き、空へと溶けていく。

 船体が振動し、祈りの光を纏ったアーク・ノヴァが静かに上昇を始めた。


 下界では、数千の祈りの声がひとつに重なる。

 まるで音楽のように、空へ昇っていく。


 ――それは讃歌だった。

 夜を超えた人々の、最初の朝を迎える讃歌。


 そして光の中で、βが小さく呟く。

《……これが、“祈りの再定義”の答え。》


 ユウリが空を見上げ、微笑んだ。

「ああ――これが、“黎明”だ。」


 その瞬間、アーク・ノヴァが陽光を受け、金と白の光に包まれた。

 雲海が割れ、王都の空を貫いて、天へと伸びる光の柱が立ち上がる。


 その輝きは確かに――人の祈りが紡いだ、新しい朝だった。

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